【本】「逆算思考」と「考えさせる」こと~橋上秀樹著『野村の「監督ミーティング」~野村克也の教え」』を読み直す②
今回も引き続き、読売ジャイアンツで監督代行として采配を執っている橋上秀樹氏の著書「野村の「監督ミーティング」」を読み直していきたいと思います。
一流選手になるために、なぜ人生観を学ばなければならないのか
野村監督は、人間性の向上がなければ、野球技術の本当の意味での進歩もあり得ないといつも語っていた。すなわち、野球の技術論だけでなく、人間教育にも重点を置いていた。
プロ野球選手にとっては、当然、野球をすることが仕事である、どのように仕事に取り組んでいくか、と言った仕事観を持っていなければ、様々な困難や壁にぶつかった時に、さらなる上のレベルを目指していくことが難しくなってくる。
これはどの世界でもその通りだと思います。兎にも角にも「人間性」。もちろん人気、実力共に絶好調の運気にいる時期は、そうした面を疎かにしても「結果」でねじ伏せることができるかもしれません。
が、人間、ずーっと上り調子というわけにもいきませんし、その状態を維持するということも難しい。
「落ち目」とは言いませんが、運気が下降した時に、これまでの「業」と言いますか、軽視していた面が一気に露呈したりするものですよね。
そうした人間の持つ複雑な一面を文字通り「身をもって体験してきた」野村監督だからこそ、野球を教える前に「人間教育」が大事なんだ、と説いたのかもしれませんね。
誰もに通じる、「その後」を考えることの重要性
そして、その仕事観とは、「どんな人生を生きていくか」といった人生観から生まれるものだ。だからこそ、自分なりの人生観を身につけていくことが必要になってくる。
野村監督はまず、人間とは、「幸福になること」と、「成長すること」を求めて生きるのだと説く。人生全体の目的や意義から、目の前の目標、つまり、野球技術の向上に取り組んでいかなければ、一流の世界まで自分を高めていくことが出来ない。
若きプロ野球選手たち、最年少は高校卒業後18歳、大学卒業後でも22歳で球界に入っていきます。当然、野球の才能を持ち、それまでにある程度結果を出していたり、今後の「伸びしろ」を期待され、本人もまたその期待に応えようと武者震いをしてその門を叩くわけです。
が、自分の当時の年齢時の行動や振る舞い、考えを思い返してみても、野村監督の仰る「どんな人生を生きていくか」「幸福になること」「成長すること」など人生観を説かれても、「???」だったと思います。
そんなことはいいから、とにかく技術を教えてくれ、一日も早く一軍でスタメン出場できるコツを教えてくれ、と思ったはずです。
しかし、そうではなく、とにかく「人間を磨け」とノムさんは説く。最早、禅問答状態だったでしょうね、選手たちはきっと。
これまでの学生生活をほぼほぼ野球漬けの日々を送ってきた選手たち。ハードなトレーニングを終えた夜のミーティングで、監督から「人生とは・・・」と始まったら、そりゃビックリしますよね。
でも、これが後々、生きてくる。「ああ、(野村)監督の仰っていたことはこういうことだったのか」と。多くの野村チルドレンの方々が、選手人生後期やコーチ、監督になられてから当時のミーティングノートを読み返した、という話をよくされていますので、きっとそういう心境だったのではないでしょうか。
今、そのときに必要なことではなく、「その後」のことを見据えて、日々鍛錬をしていく。どの業種にも必要な考え方であるように感じました。
ノムさん流「逆算思考」で選手に「考えさせる」
これから「考える野球」をしていこうというときに、まず、筋道を立てて考えていくクセをつけるために、そのウォーミンブアップとして、「人生について」考えさせていた部分もあったと思う。
こう言ったことを最初に選手たちに考えさせてから、次第に、戦略的な部分も含めた「野球学」の話に、野村監督の授業は進んでいくのだ。
野村監督といえば「ID野球」であり、「考える野球」。実力、才能あふれる選手たちですので、ともすると、そうした面に頼り、考えなくなる傾向(好調の際には、それでも十分結果が出せるわけですが)になってしまう。
そうではなく、日々、すべてについて「考える」。この思考のクセを身につけることで、従来の才能だけの野球から、一段も二段も高い視座で野球と向き合うことができる、そう考えたのではないでしょうか。
そのためにまず「人生とは」という非常に大きな話から入り(選手たちの「鳩が豆鉄砲を食った」ような表情が目に浮かびます)、その後、野球の技術面に落とし込んでいくというスタイルで講話をされていたのかもしれません。
ただ、今、流行している「16 personalities」にもありますが、人間の思考スタイルとして、「逆算思考」型と、一段一段現状からステップを追って思考していくスタイルの二つがあるそうです。私は「逆算思考」型の説明の方が頭に入りやすいのですが、一段一段のステップ型のタイプの選手の方々はきっとビックリされたことと思います。
仕事、人生は結果ではなく、プロセス重視である
野村監督は、仕事も人生も、結果主義ではなく、プロセス重視が大切だと訴え続けていた。普通の人間が結果を追い求めると、逆に、いい結果が出せないことが多いということを指摘していた。
結果を追えば、追うほど、無心や無欲といった状況になることが難しくなってくる。それよりも、やるべきことを確実にやり、結果は天に任せる位の方が、いい結果を得やすいと野村監督は考えていた。
これもまたどの業種に通じるお話だと思います。結局、「いい結果を出さなければ」と必要上にプレッシャーを掛けると、結果としていいパフォーマンスが出なかったり、結果が振るわないということ、ありませんか?
私は数字上のプレッシャーに弱い人間だったので、責任者として数字結果に追われていた当時は本当に胃に穴が空くような気持ちでした。達成しなきゃしないで、それ以上の「圧」待っていたわけでして・・・(これは多くの業種で似たようなご経験があるのではないでしょうか)。
話を野球に戻すと、結果、結果・・・と近視眼になるのではなく、結果を出すためにできることに日々取り組む。やるべきことを着実に実行していく。そのためには日々のトレーニングを何も考えずに漫然とこなすのではなく、日々「考える」。
さらにそこから「工夫を入れる」ことができればさらに良いかもしれません。こうすることで「与えられたトレーニング」から、「自分で考えたトレーニング」への変化していくことになりますので、取り組みへの考え方も地違ってくるはずです。
ノムさん流「プロセス重視思考」の神髄
また、しっかりとした準備や対策を講じて、それに向けて一生懸命取り組んだ結果、手に入れた勝利や成功は意味があるものととらえていた。なぜなら、そこに、勝利や成功への方法論が蓄積されていくからだ。
だからこそ、「いい仕事真剣に、一生懸命取り組んでいれば、きっと誰かが見てくれているものだ」という、プロセス重視の大切さを唱えるのだ。
まあ、当たり前と言っては当たり前かもしれませんが、その「当たり前」ができないことが多いんですよね。
実直に一つのことを追求する、突き詰める。もちろん真剣に一生懸命に取り組んでいれば、絶対に誰かが見ていてくれる、ということではないかもしれません。それでもこうして日々ひたむきに努力している姿勢が飛躍のための第一歩となるということでしょう。
その人の考え方って何気ない「所作」や「行動」に現われることってありませんか?
野村監督はそうした「内面」から真剣に野球に打ち込みなさい、そのためには「心を磨きなさい」と説いたのかもしれませんね。
