正義を通す力。 〜リンカーンに学ぶ実装力〜
こんにちは。
株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。
先日、スティーブン・スピルバーグ監督の映画『リンカーン』を観ました。
正直に言うと、観る前は少し身構えていました。
「リンカーン」
「奴隷制廃止」
「南北戦争」
「憲法修正第13条」
なんとなく重厚すぎる気がします。
日曜日の夜に観るには、少しカロリーが高そうです。
カレーうどんを食べるつもりで入った店で、いきなりフルコースが出てきたような気分です。
でも、観終わったあとに残った感想は、少し違いました。
これは偉人伝ではない。
リーダーの実務映画だ。
もっと言えば、
正しいことを、どう現実に通すか
を描いた映画でした。
🎬 正義は、言うだけでは通らない
映画『リンカーン』が描くのは、リンカーンの人生すべてではありません。
中心にあるのは、南北戦争末期。
奴隷制を永久に廃止するために、合衆国憲法修正第13条を下院で通すまでの政治ドラマです。
リンカーンの目的は明確です。
奴隷制を終わらせる。
これだけ聞くと、私たちはつい思ってしまいます。
「それは正しいことなのだから、通って当然ではないか」
でも、現実はそう単純ではありません。
反対する人がいる。
慎重な人がいる。
理想は同じでも、戦い方が違う人がいる。
早く戦争を終わらせたい人もいる。
自分の選挙区の反応を気にする議員もいる。
つまり、正義の前に、現実があります。
そしてこの映画のすごいところは、リンカーンを単なる清廉潔白な英雄として描かないところです。
彼は理想を語ります。
でも同時に、根回しもする。
説得もする。
票読みもする。
相手の利害も読む。
タイミングも計る。
きれいな言葉だけでは、歴史は動かない。
ここに、ものすごく仕事のリアルを感じました。
🧑💼 正しい提案ほど、なぜか通らない
仕事をしていると、似たような場面があります。
こちらとしては、かなり考えた提案をしている。
📊 データもある
🧩 ロジックもある
📝 資料も整っている
🎯 目的も間違っていない
💬 説明もそれなりにした
なのに、なぜか通らない。
「いいですね。検討します」
と言われて、そのまま静かに消えていく。
あの「検討します」は、ビジネス界における小さなブラックホールです。
いろいろな提案が、そこに吸い込まれていきます。
私も昔、はじめて自治体向けのプレゼンを任されたことがあります。
気合いを入れて資料を作りました。
自分では、かなり準備したつもりでした。
ところが、プレゼン開始5分くらいで、聴いていた方の半分くらいが寝てしまったのです。
あれは、なかなか忘れられません。
こちらは必死です。
でも、向こうは夢の中です。
今なら少し分かります。
私は「正しい説明」をしようとしていた。
でも、相手が動きたくなる理由をつくれていなかった。
リンカーンの映画を観ていると、そこを突きつけられます。
正しいことを言うだけでは、人は動かない。
人が動ける条件を整えることが、リーダーの仕事なのだと。
💡ちょこっと理論紹介💡
🧩 ステークホルダー・マネジメント
ステークホルダー・マネジメントとは、関係者それぞれの立場、利害、期待、不安を理解しながら、合意形成を進めていく考え方です。
リンカーンは、反対派にも、慎重派にも、急進派にも、同じ言葉を投げていません。相手によって、説得の角度を変えています。
これは職場でも同じです。上司、部下、顧客、他部署、経営層では、気にしていることが違います。正しい提案を通したければ、まず「相手は何を恐れているのか」「何があれば動けるのか」を見る必要があります。
🏛 理想を「制度」にする人
リンカーンがすごいのは、奴隷制廃止を「気持ち」や「一時的な方針」で終わらせなかったことです。
憲法修正という形にした。
ここがとても重要です。
人の気持ちは変わります。
世論も揺れます。
政権も変わります。
空気も変わります。
だからこそ、本当に大事なことは、仕組みに入れなければいけない。
会社でも同じです。
「挑戦を大事にしよう」
そう言う会社は多いと思います。
でも、失敗した人の評価が下がるなら、誰も挑戦しません。
「若手を育てよう」
そう言っていても、育成に時間を使った管理職が評価されないなら、育成は後回しになります。
「心理的安全性を高めよう」
そう言っていても、会議で本音を言った人があとで責められるなら、誰も本音を言いません。
理念は大切です。
でも、理念だけでは弱い。
理念を、
🏢 評価制度に入れる
📅 会議の進め方に入れる
🧑🏫 育成の仕組みに入れる
💰 予算配分に入れる
📝 判断基準に入れる
ここまでやって、ようやく現実が変わり始めます。
リンカーンは、自由という理想を、憲法という制度に刻みました。
これは現代のリーダーに置き換えるなら、
大事な価値観を、現場の仕組みに落とし込む
ということです。
⚖️ 正しさと、泥臭さのあいだ
映画を観ていて印象的なのは、リンカーンがとても人間くさいことです。
崇高な理想だけを語る人ではありません。
かといって、現実に流されるだけの人でもありません。
理想を持ちながら、現実の泥の中を歩く。
ここが、リーダーの難しさだと思います。
現場リーダーや課長職の方は、毎日このあいだに立たされています。
🕊 部下を大切にしたい
📈 でも成果も出さなければいけない
🤝 チームの納得感を大事にしたい
⏳ でも意思決定を遅らせるわけにはいかない
🌱 若手に任せたい
🔥 でも失敗したときの責任は自分が負う
理想だけなら、きれいに語れます。
現実だけなら、割り切ることもできます。
難しいのは、理想を捨てずに、現実を動かすことです。
リンカーンは、まさにそのあいだにいました。
💡ちょこっと理論紹介💡
⚖️ 信念倫理と責任倫理
マックス・ウェーバーは、倫理には「信念倫理」と「責任倫理」があると考えました。
信念倫理は、自分が正しいと信じることを貫く姿勢です。一方、責任倫理は、その行動がもたらす結果まで引き受ける姿勢です。
リンカーンは、奴隷制廃止という信念を持ちながら、政治的な結果責任も背負っていました。正しいことを言って終わりではなく、それが本当に通るところまで引き受ける。ここに、リーダーの重さがあります。
🎨 ピカソも、怒りを形にした
少し話は飛びますが、私はリンカーンの姿に、ピカソの『ゲルニカ』を思い出しました。
『ゲルニカ』は、スペイン内戦中の爆撃をきっかけに描かれた作品です。

(画像 https://x.gd/i74zm)
戦争への怒り。
悲しみ。
恐怖。
叫び。
それらを、ピカソは絵にしました。
単なる怒りの表明ではありません。
後世に残る、記憶の装置にしたのです。
リンカーンも似ています。
奴隷制への怒り。
人間の尊厳を踏みにじる制度への違和感。
それを、怒りのまま終わらせなかった。
法律にした。
制度にした。
歴史に残る形にした。
ここに、リーダーと芸術家の共通点がある気がします。
リーダーもまた、見えないものに形を与える人です。
「うちのチームは、何を大事にするのか」
「この仕事は、何のためにあるのか」
「今、何を守るべきなのか」
そういう目に見えないものを、言葉にし、仕組みにし、行動に変える。
それができたとき、チームは少しずつ変わっていきます。
⚾ 栗山監督に見る「意味づけ」の力
近年のスポーツで考えると、2023年のWBC日本代表も、リンカーン的な物語として見ることができます。
大谷翔平選手、ダルビッシュ有選手、村上宗隆選手、佐々木朗希選手。
才能ある選手を集めるだけなら、監督の仕事は半分です。
本当に難しいのは、その選手たちを一つの物語に束ねることです。
「なぜ、このチームで戦うのか」
「何のために、自分の役割を果たすのか」
「個人の成績を超えて、何を残すのか」
栗山英樹監督は、そういう意味づけが非常に上手なリーダーだったように感じます。
リンカーンも同じです。
議員も、閣僚も、急進派も、慎重派も、全員が同じ考えだったわけではありません。
でも、彼はそれぞれを、
「奴隷制なきアメリカ」
という大きな物語に巻き込んでいった。
リーダーは、命令する人ではなく、意味を編集する人なのかもしれません。
🧭 現場リーダーに置き換えると
では、私たちの仕事では何ができるでしょうか。
大統領のような大きな決断をすることは、ほとんどありません。
でも、日々の職場には小さなリンカーン的場面があります。
🗣 正しい提案なのに、相手が動いてくれない
🧱 部署の壁で、物事が前に進まない
😟 部下が本音を言えず、問題が見えなくなっている
📋 ルールはあるが、目的が見えなくなっている
🔥 変えたいことはあるが、誰から巻き込めばいいか分からない
そんなとき、いきなり大きな改革をしなくてもいいと思います。
まずは、次の問いから始めるだけでも十分です。
🎯 譲れない目的は何か
これは絶対に見失ってはいけないものです。
売上なのか、顧客価値なのか、部下の成長なのか、信頼なのか。
ここが曖昧だと、手段に振り回されます。
👂 相手は何を恐れているのか
反対している人は、悪者とは限りません。
失敗を恐れているのかもしれない。
評価を気にしているのかもしれない。
過去に嫌な経験をしているのかもしれない。
🧩 どうすれば動ける条件が整うのか
情報が足りないのか。
上司の承認が必要なのか。
小さな成功事例が必要なのか。
一緒に動く仲間が必要なのか。
🏛 どうすれば仕組みに残せるのか
一回の掛け声で終わらせない。
会議の型にする。
評価項目に入れる。
チェックリストにする。
育成面談の質問に入れる。
こう考えると、リーダーシップは少し現実的になります。
カリスマ性が必要なわけではありません。
大演説が必要なわけでもありません。
必要なのは、
正しいことが通る道をつくること
です。
☕ 正論だけでは、温度が足りない
私は研修の仕事をしていて、よく思います。
正しいことを伝えるだけなら、資料を配れば済みます。
動画を見てもらえばいい。
本を読んでもらえばいい。
でも、それだけでは人はなかなか変わりません。
人が変わるには、正論だけではなく、温度が必要です。
「それ、自分のことかもしれない」
「明日、少しやってみようかな」
「この人も失敗しているなら、自分も大丈夫かもしれない」
そう思える瞬間が必要です。
リンカーンも、ただ正論を振りかざしたのではありません。
相手の事情を見た。
感情を見た。
恐れを見た。
そのうえで、理想を通した。
これが、すごい。
理想家であり、現実家。
詩人であり、政治家。
信念の人であり、段取りの人。
この両方を持っていたからこそ、彼は歴史を変えたのだと思います。
🌱 おわりに
私たちは、つい「正しいこと」を言いたくなります。
それは悪いことではありません。
むしろ、正しさを持つことは大切です。
でも、現場で本当に問われるのは、その先です。
その正しさは、相手が動ける形になっているか。
その理想は、仕組みに残る形になっているか。
その提案は、通る道まで設計されているか。
リンカーンが教えてくれるのは、そこです。
正しいことを言う人ではなく、
正しいことが実現される条件をつくる人になる。
これは、大統領だけの話ではありません。
会議で。
面談で。
営業で。
研修で。
家庭で。
私たちの日常にも、小さな「正義を通す場面」はあります。
みなさんの職場では、いまどんな「正しいけれど、まだ通っていないこと」があるでしょうか。
よければコメントで教えてください。
同じように悩んでいる人のヒントになるかもしれません。
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