なぜ「勝ちパターン」は突然「負け筋」に変わるのか? 〜ニデック永守氏に学ぶ「アンラーニング」と「心理的安全性」〜
こんにちは。
株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。
先週末のことですが、妻が用事で家を空けたため、久しぶりに週末の家事を「ワンオペ」で回すことになりました。
普段、仕事では効率化や段取りを説いている私です。
「家事なんて、タスクを分解して最短経路で処理すれば余裕だろう」と、高を括っていました。
結果はどうだったか。
洗濯機を回している間に子供の用事に振り回され、食事の準備をしている最中に宅配便が届き、気づけば洗い物は山積み。
「仕事のロジック」が通用しない、家庭という現場の複雑さに完敗しました。普段の妻の凄さを思い知ると同時に、「ある場所での成功法則が、別の場所では全く役に立たない」という事実を、身をもって痛感した週末でした。

今日は、そんな「成功体験の落とし穴」について、日本を代表する経営者、ニデックの永守重信氏の最近のニュースを題材に考えてみたいと思います。
私たち30代・40代のビジネスパーソン、特にプレイングマネジャーにとって、これは対岸の火事ではありません。むしろ、これからリーダーとして生き残るための「急所」となる話です。
📉 「鉄の精神」が錆びつくとき
先日、日経ビジネスに『ニデック永守氏に2つの“失敗”』という衝撃的な記事が掲載されました。
「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
この強烈なスローガン(永守イズム)で、町工場から売上高2兆円企業へと駆け上がったカリスマ、永守重信氏。しかし今、EV(電気自動車)向け事業での巨額損失や、不適切会計の問題など、苦難が続いています。
なぜ、希代の名経営者がここまでの苦境に立たされたのか。
記事を読み解くと、2つの経営理論の「裏側」にハマってしまった姿が浮かび上がります。
① 精密機器の成功が、EV事業の足かせに
1つ目は、「コンピテンシー・トラップ(能力の罠)」です。
💡 ちょこっと理論紹介① 💡
🕳️コンピテンシー・トラップ(能力の罠)
企業や個人が、過去に成功した特定の能力(コンピテンシー)に固執するあまり、環境が変化しても新しいやり方を学習できなくなる現象のこと。
「強み」が強すぎると、それが変化への適応を阻害する「弱み」に変わってしまうという皮肉なメカニズムです。
永守氏の勝ちパターンは、HDD用モーターのような「精密ハードウェア」を、徹底的なマイクロマネジメントとコストダウンで磨き上げることでした。
しかし、彼が次に挑んだEV向け「イーアクスル」は、ソフトウェアの制御やシステム全体の統合力が問われる複雑な製品でした。さらに相手は、スピード感の違う中国市場。
ここで永守氏は、かつての成功体験である「トップダウンによる猛烈なコスト削減と細かい指示」をそのまま持ち込みました。
結果、複雑なすり合わせが必要な現場でトップの指示待ちが発生し、開発や判断のスピードが鈍化。ハードウェアの「勝ち筋」が、ソフトウェアの時代には通用しなかったのです。
② 「狼のリーダーシップ」が招いた沈黙
2つ目は、「心理的安全性」の欠如です。
💡 ちょこっと理論紹介② 💡
☘️心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ)
ハーバード大のエイミー・エドモンドソン教授が提唱。
「無知、無能、ネガティブだと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられる状態のこと。
これが欠如すると、ミスや問題が隠蔽され、組織が学習できなくなることが証明されています。
記事によると、永守氏はこう語ります。
「オオカミが率いる羊の集団が勝つ」
強烈なプレッシャーで組織を牽引してきた一方で、その「強すぎる圧力」が副作用を起こしました。
「目標未達は許されない」「できないとは言えない」
そんな空気が蔓延した結果、海外子会社などで不適切な会計処理(損失の先送りなど)が行われていたことが発覚しました。
怒られるのが怖くて、悪い報告を隠す──。
永守氏の「絶対にやり抜く」という情熱が、皮肉にも現場から「真実を語る言葉」を奪い、コンプライアンス不全という大きな代償を招いてしまったのです。
🛡️ 織田信長スタイルには「賞味期限」がある?
歴史好きの私の視点で見ると、永守氏は織田信長に重なります。
既存の常識をぶち壊し、圧倒的なカリスマ性とスピードで天下布武(市場制覇)を推し進める。創業期や乱世には、信長のようなリーダーが絶対に必要です。
しかし、組織が大きくなり、世の中が安定(成熟)してくると、求められるのは徳川家康のようなスタイルです。
家康は「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」と詠んだように、忍耐強く、そして個人のカリスマではなく「幕府」というシステムで組織を動かしました。
永守氏の苦悩は、「信長のまま、家康の時代を生きようとしている」ところにあるのかもしれません。
🏃♂️ プレイヤーからマネジャーへの変身
さて、ここからが本題です。私たち現場リーダーにとっても、これは他人事ではありません。
皆さんも、プレイヤーとして優秀だったからこそ、今のポジションにいるはずです。
「自分でやった方が早い」
「俺が背中で見せる」
そうやって結果を出してきた「勝ちパターン」があるはずです。
しかし、部下の人数が増えてくると、その勝ちパターンが通用しなくなります。
私は今、某社の管理職向け「マネジメントマニュアル」の作成という仕事に四苦八苦しながら取り組んでいるのですが、そこで突き当たる壁もまさにこれです。
「名選手、名監督にあらず」
過去の自分が成功したやり方(コンピテンシー)を、一度捨て去る(アンラーニングする)勇気。
そして、「詰める」のではなく「話しやすい場」を作る(心理的安全性)忍耐。
これができないと、私たちは「小さな永守さん」になってしまい、部下を疲弊させ、自分自身もパンクしてしまうのです。
🔁 「過去の自分」を否定する勇気
「週末の家事」ですら、仕事のやり方を持ち込んで失敗した私です(笑)。
長年染み付いたスタイルを変えるのは、本当に難しい。
でも、だからこそ、意識的にこう問いかける必要があります。
「今のやり方は、今の環境でも本当に『正解』なのか?」
「部下は私に、悪い報告ができているだろうか?」
もし、チームの空気が重い、自分ばかり忙しい…と感じているなら、それは「あなたの強みが、罠(トラップ)に変わっているサイン」かもしれません。
時には自分の足元を見つめ直し、装備を入れ替える柔軟さを持ちたいものです。
今日の話が、日々のマネジメントに悩む皆さんの心に、少しでも風穴を開けるきっかけになれば嬉しいです。
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