楽しく生きていかなかんよ
小さいころ、
おばあちゃんがよう言いよった。
「楽しく生きていかなかんよ」
台所でな、
玉ねぎとちくわの卵とじを
ぐつぐつ煮ながら。
最後に卵を回しかけるあの瞬間、
湯気がふわっと立ちのぼって、
ワタシは台所の隅で
それをぼーっと見とった。
なんであんなに美味しかったんじゃろ。
豪華でもないのに、
特別でもないのに。
ただ、
あったかかった。
あのときワタシは、
「楽しくって、どういうことなん?」
って聞かんかった。
聞けばよかったな、って
いまは思う。
でもきっと、
おばあちゃんは説明せんかった気がする。
ただ卵を回しかけながら、
「まあ、ええんよ」
って笑った気がする。
楽しく生きるいうんは、
笑い続けることじゃない。
うまくいき続けることでもない。
玉ねぎがちょっと焦げても、
卵が少し固くなっても、
「まあ、ええんよ」
って言えることなんかもしれん。
今朝な、
コーヒー淹れよう思うて、
粉をすくったら
二杯目で「87」って出たんよ。
はな。
ワタシのこと。
呼ばれた気がしてな。
「気づいたか?」
って。
いまはまだ、
受け取っとる気がする、くらい。
でもこれからは言いたい。
「受け取ったんです」って。
おばあちゃんの“楽しく”を、
ワタシ色に染めて、
ちゃんと手に持ったって。
