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システムは「善意」で壊れる。現場を傷つけずに組織を動かす作法

遠くの知識を掛け合わせ、完璧な正論ではなく20%の未完成なモノを机に置く。そして、対面ではなく横並びになり、ITの冷たい言葉を現場の体温に合わせて翻訳する。

これまでの記事でお伝えしてきたステップを踏めば、あなたは組織の中で「しくみと現場を繋ぐ架け橋」として、確かなスタートを切れるはずです。

しかし、現実の現場は、理論通りに美しく進むことばかりではありません。
どれほど丁寧にステップを踏んでも、人間の「エゴ」や「プライド」、そして「現状維持バイアス」という強烈な引力が、あなたが持ち込んだ新しいしくみを静かに殺しにかかります。

それはあなたのスキル不足ではなく、人とシステムが交差する場所で必ず発生する「構造的な罠」です。
今日は、現場にしくみを持ち込む人が必ず一度は直面する「3つの泥臭い罠」と、それを抜け出すための、少しだけしたたかな作法についてお話しします。

罠1:「便利すぎるしくみ」が、相手の玉座を奪う

【ヒヤリハットの状況】
現場の複雑で面倒なデータ集計。「こんなの自動化すれば一発じゃないか」と、あなたは良かれと思ってシステムで完全に自動化するしくみを作りました。
しかし導入後、作業は圧倒的に早くなったはずなのに、なぜかベテラン担当者の機嫌が悪く、空気がギスギスし始めます。

【泥臭い抜け出し方:システムの上に「判断」という玉座を残す】
システムの世界では「人の介在=無駄」ですが、現実の組織では違います。
あなたが奪ってしまったのは、無駄な作業時間ではありません。長年その複雑な手作業をミスのないよう担ってきた、その人の「存在意義(プライド)」です。

「ボタン一つで誰でもできる」ようにすることは、彼らの仕事を「無価値なもの」に貶める行為にほかなりません。
この罠を抜けるには、一番美味しい権限をあえて相手に渡すことです。「面倒な集計はすべてシステムがやります。でも、この数字を見て『GOを出すかどうかの最終判断』は、現場の事情を知り尽くしているあなたにしかできないので、お願いします」と伝える。
自動化のメスを入れるときは、必ず彼らのプライドを守る「玉座」をしくみの上に用意しなければならないのです。

罠2:「いいですね」という言葉の裏にある、沈黙の拒絶

【ヒヤリハットの状況】
20%のプロトタイプを見せ、現場の言葉に翻訳して丁寧に説明しました。現場の人も笑顔で「いいですね、すごく便利になりそうです!」と賛同してくれました。
しかし数週間後、システムには全くデータが入力されておらず、現場はいつの間にか、元の慣れ親しんだExcel管理に戻ってしまっています。

【泥臭い抜け出し方:心を鬼にして、古い退路を物理的に断つ】
これは、真面目で優しい現場の人ほど陥りやすい罠です。彼らは、あなたが一生懸命作ってくれたことへの「気遣い」として、波風を立てないように賛同の嘘をついてくれただけなのです。

古いやり方(逃げ道)が残っている限り、人は必ず過去の慣れた手順に水のように流れていきます。
言葉による「いいですね」を信じてはいけません。この罠を抜けるには、構造を変えるしかありません。

「ここに入力しないと、次の部署の作業が絶対にスタートしない」という物理的な関所(ボトルネック)をシステム上に組み込むのです。古いやり方の道を塞ぐのは、一時的に現場からの反発を生むため、心を鬼にする必要があります。しかし、新しいしくみと古いやり方の「二重管理」になって現場が疲弊するのを防ぐためには、設計者が背負わなければならない「冷たくて優しい責任」なのです。

罠3:「正解」を先回りしすぎる、優秀さの罪

【ヒヤリハットの状況】
現場の課題を一緒に見つめているとき、あなたはITの知識があるため、根本的な原因と完璧な解決策に一瞬で気づいてしまいました。
「わかりました!ここをこう変えれば、全部一気に解決しますよ!」と、パズルの最後のピースを自信満々に埋めました。しかし、現場の人は「はぁ、まあ……」と、急に距離を置いてしまいます。

【泥臭い抜け出し方:あえて隙を残し、相手に「正解」を言わせる】
人は、他人から与えられた正解には納得しません。特に「外の世界の知識」を持った人間から正解を突きつけられると、「自分たちの問題を奪われた」「やり方を否定された」と本能的に反発します。

この罠を抜けるには、あなたが正解を言ってはいけません。「相手に正解を発見させる」ように誘導するのです。
持ち込むプロトタイプには、あなたが最初から気づいていた「致命的な欠陥」をあえてそのままにしておきます。現場の人が触って「あれ?これだと例外のケースに対応できないよ」と指摘してきたら、「おっしゃる通りです!完全に私の見落としでした。どう直せばいいですかね?」と感心してみせる。

相手を「システムの欠陥を直したヒーロー」に仕立て上げ、彼らのアイデアとして実装する。自分の手柄を捨ててでも、しくみを相手の「自分ごと」に変える。これこそが、組織を動かす人間の、最も知的なしたたかさです。

おわりに:泥水をすすりながら、美しいしくみを織り上げる

相手のプライドを守り、時に心を鬼にして退路を断ち、自分の手柄を捨てて相手をヒーローにする。

業務設計とは、決してスマートで綺麗なだけの仕事ではありません。人間のエゴや感情という泥水の中に手を突っ込みながら、それでも組織全体が少しでも滑らかに動くように、見えない糸を織り上げていく泥臭いプロセスです。

もし明日、現場の理不尽な反発や、静かな拒絶に直面したら。
あなたが正しい道を進んでいる証拠です。その泥臭い摩擦の数だけ、あなたのしくみは現場で呼吸する「生きたしくみ」へと育っていくはずです。

読後の処方箋:これまでの「しくみのスキマ」の歩み

現場の実務に立ち向かう前に。あなたの立ち位置と武器を確認するための、3つの記事を置いておきます。

■ STEP1:自分の市場価値(存在論)を確かめる
一見バラバラな学びが、実は最強の武器になる構造について。
記事名:「専門性がない」と焦る人へ。器用貧乏こそが、最強のキャリアになる構造

■ STEP2:現場との関係性(立ち位置)をつくる
100点の正論ではなく、未完成なモノを持ち込み「横並び」になる技術。
記事名:「何に困っていますか?」と聞いてはいけない。現場の隠れた痛みを引き出す、20%プロトタイプと「横並び」の構造

■ STEP3:ITの正論を現場に届ける(言語構造)
冷たいシステムの言葉が、現場の空気を凍らせてしまう前に。どう言葉を変換すべきかの実践論です。
記事名:「効率化」という正論が、なぜ現場を黙らせるのか。ITの冷たい言葉を「体温」に変える翻訳の技術

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