「人が足りない」と嘆く真面目なチームが、なぜか一番疲弊していく ── チームを動かす「捨てる」しくみ
「もう少し人がいれば、このプロジェクトはうまく回るのに」
会議室で、あるいはチャットの画面越しに、私たちはいつも「リソースの不足」を嘆いています。新しい施策が降ってくるたびに、現場の空気は重くなり、「また仕事が増えるのか」という無言のため息が漏れる。そんな光景はないでしょうか。
真面目で責任感の強いリーダーほど、上から降ってくる目標や依頼をすべて受け止めようとします。
「なんとかやりくりしよう」「効率化して、みんなで乗り切ろう」
その言葉は、一見すると美しく、チームを思う優しさに満ちています。
しかし、その「すべてをこなそうとする真面目さ」こそが、結果としてチームの呼吸を止め、メンバーを静かに疲弊させていく構造になっているとしたらどうでしょうか。
今日は、「リソース不足」という永遠の現象の奥にある構造を、一緒に覗き込んでみたいと思います。
不足は「異常」ではなく「前提」である
あるマネジメントの調査データによると、「約6割の人が、常にリソースが不足していると感じている」そうです。
つまり、人が足りない、時間が足りないという状態は、私たちのチームに起きた不運なトラブルではなく、働く上での「標準状態(デフォルト)」なのです。
それなのに、私たちはつい「いつか人が増えれば」「この繁忙期を越えれば」という幻想を抱き、目の前のすべてのタスクを等量でこなそうとしてしまいます。
リソースが足りない場所で、これまで通りのやり方を維持しようとすれば、必ず「誰かの個人的な犠牲(残業や無理)」によってその隙間を埋めるしかありません。
真面目さが組織の進化を止める
さらに興味深いデータがあります。
持続的に高い成果を出し続けている上位の企業群は、常にリソース配分の「6割以上」をダイナミックに変え続けているそうです。一方で、成果が停滞している組織は、この変化が「1割程度」にとどまります。
この差は、どこから生まれるのでしょうか。
それは、「捨てる勇気」の有無です。
停滞するチームは、真面目なのです。過去から続いている定例会議、誰も読んでいない日報、慣例化された過剰な二重チェック。それらを「これまで通り」こなすことにエネルギーの大部分を使ってしまい、新しい動きを生み出す余力を持てません。
一方で、進化するチームは「やめること」を決めるプロフェッショナルです。
チームを動かすということは、新しい施策を足し続けることではありません。両手に抱え込んだ古い荷物を、意図的に「手放す」ことなのです。
全体最適を引き受ける「防波堤」
では、どうすれば「捨てる」ことができるのでしょうか。
「この業務はやめましょう」と提案することは、社内に波風を立てる行為です。過去の経緯や、他部署への配慮が頭をよぎり、つい「波風を立てない善意」を選んでしまいたくなります。
だからこそ、リーダーはあえて現場を守る「防波堤」にならなければなりません。
自分の部署だけが楽をしたいというエゴではなく、「会社全体が向かうべき方向のために、この不要な業務はここでせき止める」という大義名分を持った防波堤です。
すべてを波風立てずに受け入れるのは、実は一番「楽」な選択です。
「それは今の私たちのチームがやるべきことではない」と、あえて摩擦を起こし、断る関所(しくみ)を作ること。
それが、現場の時間を守るための本当の優しさであり、業務設計の第一歩となります。
チームを動かすのは「余白」である
人が動かないとき、私たちは「もっと気合を入れよう」「新しい管理ツールを導入しよう」と、何かを足すことで解決しようとしがちです。
けれど、両手が塞がっている人に、新しいボールを投げてはいけません。
私たちが最初にするべきことは、メンバーの手元にある古いボールを、一緒にそっと地面に置くことです。
「真面目に全部やらないこと」を、チームの共通言語にする。
その小さな引き算の設計が、窒息しかけていたチームに「余白」という名の新鮮な空気を送り込みます。
あなたのチームは今、両手いっぱいの荷物を抱えたまま、新しい山に登ろうとしていませんか?
まずは、何を「捨てる」か。
そこから、チームの新しい歩みが始まります。
🍵 もっと深く「スキマ」を覗きたい方へ
組織が呼吸を続けるためには、新しいものを吸い込むだけでなく、古いものを吐き出す「新陳代謝」の構造が不可欠です。真面目さゆえに疲弊してしまう構造から抜け出し、より深く「捨てるしくみ」を覗き込みたい方へ、3つの視点をご用意しました。
▼ 組織の呼吸を整える「余裕」のつくり方(哲学・構造)
私たちが「防波堤」となって守るべきものは、組織の「スラック(余裕)」です。余白はサボりではなく、変化に対応するための砦であるという構造について。
📎 新陳代謝の設計 #4(完)|空白は、あなたを守るための「砦」である ─ スラック(余裕)の設計論
▼ なぜ私たちは「やめる」のが苦手なのか(解決策・構造)
業務が捨てられないのは、気合いが足りないからではなく、「業務の終わり」が設計されていないからです。ゾンビのように残り続ける業務を成仏させる、切断の設計について。
📎 切断の設計#1|なぜ組織は「終わった業務」を飼い殺してしまうのか
▼ 優しさが組織を壊す前に(解決策)
波風を立てない「善意」が、いかにして現場を蝕むのか。防波堤として「断る」という機能を、個人の勇気ではなく「システム」として実装するためのアプローチ。
📎 その「優しさ」が、組織を静かに蝕むとき ── 「断る」という機能の実装論
