#しくみのスキマ|一点突破がしくみを広げる法則
新しい部署に配属されたとき、あるいは新しいプロジェクトを任されたとき。
私たちはつい、目の前に広がる荒野のすべてを、一度に耕そうとしてしまいます。
あれも整っていない。これも非効率だ。
全部直さなきゃ。
その責任感は素晴らしいものですが、同時に危険な罠でもあります。
全てを中途半端にケアしようとする全方位外交は、結局のところ、誰の記憶にも残らない都合のいい便利屋を生むだけで終わることが多いからです。
組織という巨大な慣性を動かすために必要なのは、広範囲な爆撃ではありません。
鋭く研ぎ澄まされた、たった一つの杭です。
今日は、私が業務設計の現場で鉄則としている戦術、一点突破についてお話しします。
その杭は、深く刺さっているか
一点突破とは、最初から全てをカバーしようとせず、自分が勝負できる場所をたった一つに定め、そこに全ての熱量を注ぎ込むことです。
なぜ、一点でなければならないのでしょうか。
それは、組織を変えるために必要なリソースが、時間ではなく信頼だからです。
あの人の言うことなら聞いてみよう。
あのしくみは、確かに便利だった。
この信頼という通貨がない状態で、あれこれ手を出しても、現場は「また余計な仕事を増やして」と反発するだけです。
だからこそ、まずは一箇所だけ。
誰が見ても「これはすごい」と認める深さまで杭を打ち込み、確固たる拠り所を作る。
広げるのは、その後でいいのです。
勝てる一点の選び方
では、どこに杭を打てばいいのでしょうか。
闇雲に選んではいけません。私が意識しているのは、以下の3つが重なる領域です。
1. 自分が苦にならない領域
努力しなくても、なぜか夢中になれる、深掘りできるテーマ。
2. 現場が困っている領域
小さくてもいい、日常的に多くの人が面倒だと感じている棘。
3. 成果が見える領域
概念的な改善ではなく、時間が半分になった、ミスが消えたと数字で語れる場所。
特に重要なのは、自分が楽しんでいるかです。
しくみを作る人間の熱量は、必ず使う人に伝播します。あなたがワクワクしていないしくみは、現場にとっても退屈な作業でしかないのです。
体験談:3D設計ツールという孤島にて
少し、私の話をさせてください。
かつてあるプロジェクトで、新しい3D設計ツールが導入されたときのことです。
現場の反応は冷ややかでした。
今の図面で十分だ、覚えるのが面倒だ。
誰もそのツールに触ろうとせず、導入プロジェクトは停滞していました。完全なアウェー、マイノリティの状態です。
そこで私は、戦略を全社の普及から私一人の習得へと切り替えました。
誰に言われるでもなく、一人でそのツールを使い倒し、ショートカットを極め、便利なテンプレートを作り込みました。
すると、何が起きたか。
私の仕事のスピードだけが、異常に速くなったのです。
それを見た周囲が、少しずつ変わり始めました。
ねえ、それどうやるの?
そのテンプレート、僕にもくれない?
私が教え、テンプレートを配る。つまり、与える。相手は楽になり、感謝する。
その繰り返しの中で、私は単なるツールオタクから、新しい業務のハブへと変わっていきました。
気がつけば、そのツールは組織の標準になり、私はその中心に立っていました。
説得したわけではありません。ただ一点を突き抜けた結果、重力が生まれ、周りが引き寄せられたのです。
マイノリティからマジョリティへ
一点突破の初期段階は、孤独です。
周りは誰もやっていない。評価もされない。
こんなことをしていて意味があるのかと不安になることもあるでしょう。
しかし、その孤独こそが、あなたが先行者である証です。
まだ誰も価値に気づいていないスキマに杭を打ち、価値を掘り当てる。
そして、溢れ出た価値(ノウハウやテンプレート)を、惜しみなく周囲に与える。
これこそが、マイノリティがマジョリティへと反転するメカニズムです。
与えることで、情報はあなたに集まり始めます。
そして情報が集まる場所こそが、次の時代のしくみの中心になるのです。
→ 関連:一点突破した点をどうやってハブにするか
#しくみのスキマ |ハブとスポークでしくみを動かす
しくみを作るとき、広げるとき、定着させるとき。
どうか、焦って全方位を向かないでください。
全体を変えようとすれば、あなたは摩耗します。
しかし、一点を変えることなら、今日からでもできるはずです。
あなたの現場で、誰も手を付けていないけれど、あなただけが面白がれそうな一点はどこにありますか?
その小さな一点に杭を打ち込む音が、やがて組織全体を目覚めさせる号砲になるかもしれません。
🍵 読後の処方箋:突破口が見つからないあなたへ
一点突破と言われても、足がすくんでしまう。あるいは、どこを突けばいいかわからない。
そんな迷いに効く、いくつかの視点を置いておきます。
■ 「一点」を選んだ後、どう広げていくか
一点突破はあくまで点です。それを面にするためには、構造的な仕掛けが必要です。
杭を打った後に読む、展開の設計図。
📎 #しくみのスキマ |ハブとスポークでしくみを動かす
■ 「一点」に集中したいのに、雑音が多すぎる
一点突破するには、それ以外のことをやらないと決める勇気が必要です。
不要な業務を切り捨て、リソースを確保するための切断の技術。
📎 切断の設計#1|なぜ組織は「終わった業務」を飼い殺してしまうのか
■ 現場の「困っている」が見えてこない
独りよがりな一点突破にならないためには、現場の文脈を知る必要があります。
使いにくいという言葉の裏にある本音を翻訳するスキルについて。
📎 #業務設計者論|翻訳者はしくみの言葉を編む
