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熱偏在の力学 #1|「みんなに優しく」は、誰への愛なのか ─ 平等が生み出す、組織の低体温症

「Aチームにも、Bチームにも、同じだけ予算をつけよう」
「あの人の話も、この人の話も、公平に聞いてあげよう」

リーダーであるあなたは、今日も「公平であること」に心を砕いているかもしれません。
誰かを特別扱いすれば、誰かが傷つく。
リソースを偏らせれば、不協和音が生まれる。
だから、みんなに少しずつ配り、みんなの意見を取り入れ、摩擦が起きないように調整する。

それは、人間としては非常に美しく、優しい振る舞いです。
しかし、組織を動かす「設計者」の視点から見ると、その優しさこそが、組織を静かに殺している真犯人である可能性があります。

シリーズ第3弾、最後のテーマは「熱(Heat)」です。
思考の地図を捨て(シリーズ①)、不要な業務を捨て(シリーズ②)、身軽になった私たちが、最後に直面する壁。
それは、「どこにエネルギーを注ぐか」という政治と決断の壁です。

第1話では、私たちが無意識に信奉している「平等」という正義が、物理学的に見ればいかに「組織を冷やす(死に至らしめる)」行為であるか。
その残酷なメカニズムについてお話しします。

「熱」は、偏りからしか生まれない

組織論を語る前に、この宇宙の基本原則である「熱力学」の話をさせてください。

エネルギーや熱というものは、「温度差」がある場所でのみ移動し、仕事をします。
蒸気機関もエンジンも、高温部と低温部の落差があるからこそ、ピストンを動かすことができます。
風が吹くのは気圧差があるからであり、川が流れるのは高低差があるからです。

つまり、「偏り(差)」こそが、世界を動かす動力源なのです。

逆に、すべての場所が同じ温度、同じ圧力になった状態を、物理学では「熱的死(Heat Death)」と呼びます。
そこでは空気も動かず、風も吹かず、永久に何も起きません。
完全な平等は、完全な静止(死)と同義なのです。

リソースのバラ撒きが生む「ぬるま湯」

これを、あなたの組織のリソース配分に重ねてみてください。

あなたが持っているリソース(予算、人員、権限、そしてあなた自身の時間)は、組織を沸騰させるための「燃料」です。
しかし、多くのリーダーは「悪平等」という罠に落ち、この燃料を薄く広くバラ撒いてしまいます。

「全部署に一律5%の予算カット」
「全員に均等に発言権を与える」

これは、ヤカン一杯の水を沸騰させられるだけの強力な燃料を持っているのに、それを巨大なプール全体に分散させているようなものです。
結果どうなるか。
プール全体の温度が、わずか0.1度だけ上がる。それだけです。

どこからも蒸気は上がらず、エンジンは回らず、ただ居心地の良い「ぬるま湯(常温)」が出来上がる。
成果が出ないのは、社員のやる気がないからでも、能力が低いからでもありません。
リーダーであるあなたの配分が、物理的に「仕事(Work)が発生しない温度分布(フラット)」を作ってしまっているからです。

「全員救う」は「全員見捨てる」と同義

リソースが無限にある時代なら、全員に配ってもよかったかもしれません。
しかし、今は「縮小の時代」です。燃料は枯渇しています。

この状況下で、全員に「コップ一杯の水」を配ることは、優しさでしょうか?
砂漠で乾いているチームに対し、喉を潤すにも足りない水を平等に配る。
それは、結果として「全員で仲良く干からびる」ことを選択させる、組織に対する虐待です。

本当に組織を生かしたいなら、非情な決断が必要です。
9人のコップを取り上げ、その分の水を1人のバケツに注ぎ込む。
そうすれば、少なくともその1人は生き残り、砂漠を越え、救援(成果)を持ち帰ることができるかもしれない。

「そんなことは不公平でできない」とあなたは言うかもしれません。
しかし、リーダーが恐れるべきは、不公平という批判ではありません。
「全滅」です。
平等を守って全滅するか、偏りを作って突破するか。
私たちは今、その二択を迫られているのです。

リーダーの機能は「調整」ではなく「偏在」

業務設計者として提言します。
これからのリーダーに求められる職能は、みんなの意見を聞いてバランスを取る「調整(Balance)」ではありません。
意図的にバランスを崩し、熱源を作る「偏在(Bias)」です。

「今期は、ここを勝たせる」
そう決めたら、他の場所からリソースを引っこ抜いてでも、そこに注ぎ込む。
当然、摩擦は起きます。「えこひいきだ」「あそこばかりズルい」と批判されます。

しかし、その摩擦熱こそが、組織が生きている証拠です。
ボイラー室(熱源)が周囲より熱くなければ、館内全体に熱は伝導しません。

誰か(あるいは何かのプロジェクト)を特別扱いし、そこに熱を集中させること。
それは差別ではなく、「組織というシステムにスイッチを入れる」という、機能的な義務なのです。

孤独なボイラー技師たちへ

まだ、この決断をするには勇気が足りないかもしれません。
「なぜ、そこまでして一点に賭けなければならないのか?」という論理的な裏付けが欲しいはずです。

次回は、その「えこひいき」を正当化するための、あまりにも強力なデータ。
「30倍の法則」についてお話しします。

なぜ、組織の中位60%ではなく、上位20%にリソースを集中させなければならないのか。
それを知れば、あなたの「冷徹な判断」は、組織全体を救うための「最も深い愛」へと変わるはずです。

嫌われることを恐れないでください。
ぬるま湯の中で微笑むリーダーより、熱湯の中で汗をかき、摩擦を起こすリーダーの方に、最終的に人はついてくるのですから。

(つづく)

【記事の誘導】
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• 【新陳代謝の設計 #4】空白は、あなたを守るための「砦」である

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