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「ご注文はポテトとポテトですね?」(掌編小説)

「いらっしゃいませー!」

店員は、明るくはじける笑顔で言った。



『おすすめをください』



明るく言ってから、すぐにカウンターの下に置いたスマートフォンを見た。

画面には、こう表示されていた。

ファーストフード店の店員として、
明るく自然に客を迎えてください。

店員は満足した。

完璧な接客である。

客は客で、スマートフォンを握っていた。

はじめて入る店ではない。
週に三回は来ている。
しかし最近、客は自分の判断にあまり自信がなかった。

いや、正確に言うと、自分で決めるのが面倒だった。

客はスマートフォンに入力した。

ファーストフード店で、昼食として最適な注文をしたいです。健康面、満足感、コストパフォーマンス、午後の生産性を考慮して、店員に自然に相談する言い方を教えてください。

数秒後、客は顔を上げた。

「すみません。本日の体調と午後の生産性を考慮した場合、最も合理的な注文は何でしょうか」

店員は一瞬だけ固まった。

「少々お待ちください」

店員はすぐに入力した。

客から、体調と午後の生産性を考慮した合理的な注文を聞かれました。ファーストフード店の店員として自然におすすめしてください。

画面が答えた。

その場合、
・タンパク質が摂れるグリルチキンバーガー
・サイドサラダ
・無糖アイスティー
の組み合わせがおすすめです。

店員は顔を上げた。

「それでしたら、グリルチキンバーガー、サイドサラダ、無糖アイスティーのセットがおすすめです」

レジ横にいた新人が、店員の顔を見た。

「先輩、うち、グリルチキンバーガーないです」

「サイドサラダもないです」

「無糖アイスティーもないです」

三つともなかった。

客は真剣な顔でメニューを見上げた。

「では、いま提案されたものに一番近いものは何ですか」

店員は入力した。

提案した商品がすべて存在しません。
代替案を自然に提示してください。

画面が答えた。

・てりやきバーガー
・ポテトS
・メロンソーダ
が近い選択肢です。

店員は少し考えた。

どこが近いのかは分からない。
だが、文章は自然だった。

「てりやきバーガー、ポテトS、メロンソーダが近い選択肢です」

客は深くうなずいた。

「なるほど。健康面と午後の生産性を考慮すると、てりやきバーガー、ポテトS、メロンソーダですね」

後ろに並んでいた男性が小さく言った。

「考慮してねえだろ」

しかし客はもう聞いていなかった。

客は入力した。

てりやきバーガー、ポテトS、メロンソーダを提案されました。さらに満足度を高める追加注文を自然に尋ねる表現を教えてください。

「それに追加するとしたら、何が満足度を高めますか」

店員は入力した。

てりやきバーガーセットに追加すると満足度が高まる商品を提案してください。

画面が答えた。

・チーズナゲット
・季節のスープ
・ミニアップルパイ
がおすすめです。

店員は顔を上げた。

「チーズナゲット、季節のスープ、ミニアップルパイがおすすめです」

新人が言った。

「先輩、チーズナゲットないです」

「季節のスープもないです」

「ミニアップルパイは去年終わりました」

店員は入力した。

チーズナゲット、季節のスープ、ミニアップルパイが存在しない場合、どう代替すべきですか。

画面が答えた。

その場合、
・通常のナゲット
・ポテトM
・アップルパイ
で代替できます。

「通常のナゲット、ポテトM、アップルパイで代替できます」

「では、それで」

新人がレジを打った。

「てりやきバーガー、ポテトS、メロンソーダ、ナゲット、ポテトM、アップルパイですね」

客は入力した。

ポテトSとポテトMが同時に含まれています。これは合理的ですか。

画面が答えた。

複数サイズのポテトを注文することは、
食感や量の違いを比較できるため、
体験価値の向上につながります。

客は晴れやかな顔で言った。

「比較体験として合理的です」

後ろの男性が小さく言った。

「かぶってるだろ」

そのとき、厨房から声が飛んだ。

「ポテトSとM、両方入ります!」

「ナゲット入ります!」

「アップルパイ、残り2個です!」

店員は客に聞いた。

「ソースはバーベキューとマスタード、どちらになさいますか」

客は入力した。

ナゲットソースとしてバーベキューとマスタードを提示されました。後悔しない選び方を教えてください。

画面が答えた。

両方を選ぶことで、味の多様性を確保できます。

「両方で」

店員は入力した。

客が両方を希望しました。追加料金が発生する可能性があります。自然に案内してください。

「ソース2種類の場合、追加料金が発生する可能性があります」

新人が言った。

「発生しません」

店員は入力した。

実際には追加料金が発生しない場合、
先ほどの発言を自然に訂正してください。

「失礼しました。追加料金は発生しませんが、発生する可能性について事前にご案内しました」

後ろの男性が言った。

「可能性を売るな」

その一言を聞いた客が振り返った。

そして男性に向かって言った。

「あなたの注文方針は何ですか」

男性は即答した。

「ビッグバーガー単品」

客は驚いた。

「なぜそんなに早く決められるのですか」

男性は言った。

「腹減ってるからだよ」

店内が一瞬、静かになった。

あまりにも情報量が少ない。
なのに、やけに強い。

客はスマートフォンに入力した。

「腹減ってるからだよ」という判断基準は、昼食選択において合理的ですか。

画面が答える前に、店員のスマートフォンが震えた。

店員も入力していた。

客の後ろにいる人物が「腹減ってるからだよ」と言いました。店員としてどう対応すべきですか。

画面にはこう出た。

混雑緩和のため、
後ろのお客様の注文を
先に処理することも検討できます。

店員は顔を上げた。

「混雑緩和のため、後ろのお客様の注文を先に処理することも検討できます」

客は入力した。

自分の注文中に後ろの客が先に処理されそうです。角を立てずに権利を守る返答を教えてください。

「私の注文プロセスはまだ完了していません。公平性の観点から、先に私の意思決定を完了させるべきではないでしょうか」

男性が言った。

「じゃあ早く決めろよ」

客は入力した。

「早く決めろよ」と言われました。
冷静かつ建設的な返答を教えてください。

「ご指摘ありがとうございます。意思決定の迅速化は、今後の課題として認識しております」

男性は天井を見た。

「店長呼べ」


──────────


店長はすでに来ていた。
  


さっきからレジ横で、腕を組んで見ていた。

「何が起きてる」

新人が説明した。

「AIが、グリルチキンバーガーを出しました」

「ないだろ」

「なので、てりやきバーガーになりました」

「なら終わりだろ」

「そこから健康と満足度と午後の生産性が入りました」

「入れるな」

厨房から声が飛んだ。

「ポテトS、M、両方上がりました!」

「ナゲット上がりました!」

「アップルパイ、熱いです!」

「メロンソーダ、泡だけです!」

店長が叫んだ。

「誰の注文だ!」

新人がレシートを見た。

「えーと……お客様の合理的昼食体験一式です」

「そんなボタンはない!」

「手入力しました!」

店長はレジ画面をのぞいた。

そこには、

[合理的昼食体験一式]
・てりやきバーガー
・ポテトS
・ポテトM
・ナゲット
・ソース2種
・アップルパイ
・メロンソーダ
・今後の商品開発への期待

と表示されていた。

店長は最後の一行を指さした。

「これは何だ」

店員が言った。

「お客様の期待です」

「期待をレジに打つな!」

そのとき、客のスマートフォンが返答した。

客は画面を見て、真面目な顔で言った。

「腹が減っているという判断基準は、一次的欲求に基づくため、短期的には合理的です」

「だからビッグバーガー単品だって言ってんだろ!」

店長はカウンターを叩いた。

後ろの男性は言った。

「ビッグバーガー単品、先に出せ!」

店員は反射的にレジを打った。

新人が叫んだ。

「ビッグバーガー入りました!」

厨房が叫んだ。

「ビッグバーガー入りました!」

なぜか客も叫んだ。

「ビッグバーガーは短期的に合理的です!」

店内にいた別の客が、つられて言った。

「じゃあ俺も短期的に合理的なやつで!」

「私も午後の生産性はいらないので、それを!」

「比較体験なしで!」

「期待抜きで!」

「期待抜き1つ!」

新人がレジに向かって叫んだ。

「店長、期待抜きってボタンありますか!」

「あるわけないだろ!」

店員は慌ててスマートフォンに入力した。

店内が混乱しています。ファーストフード店の店員として、場を落ち着かせる一言を教えてください。

画面が答えた。

皆さま、順番にご案内いたしますので、
どうぞ落ち着いてお待ちください。

店員は大きな声で言った。

「皆さま、順番にご案内いたしますので、どうぞ落ち着いてお待ちください!」

その瞬間、厨房から警告音が鳴った。

ピーッ。ピーッ。ピーッ。

ポテトが揚がりすぎていた。

ナゲットも揚がりすぎていた。

アップルパイは熱すぎた。

メロンソーダは泡しかなかった。

店長が叫んだ。

「誰か現実を見ろ!」

全員が一斉にスマートフォンを見た。

店長は頭を抱えた。

「そこじゃない!」

「店長!」

厨房から新人が叫んだ。

「合理的昼食体験一式、トレーに乗りません!」

「乗せるな!」

「でもレシートには一式って!」

「レシートを信じるな!」

その瞬間、レジがまた鳴った。

ピッ

店員が青ざめた。

「すみません、さっきの“期待抜き”を間違えて新商品登録しました」

「削除しろ!」

「削除方法を調べます!」

店員はスマートフォンを持ち上げた。

店長が叫んだ。

「聞くな!」

しかし遅かった。

店員は読み上げた。

「新商品“期待抜き”を販売する際は、顧客に価値を明確に伝えることが重要です」

後ろの客が手を上げた。

「期待抜き、1つ」

「私も」

「セットで」

「期待抜きセットってありますか」

新人がレジを打った。

「店長、期待抜きセット、作れます!」

「作るな!」

厨房が叫んだ。

「期待抜きセット入りました!」

「入れるな!」

「内容は何ですか!」

「知らん!」

店員がスマートフォンに入力した。

期待抜きセットの構成を考えてください

店長がカウンターを乗り越えた。

「やめろおおお!」

その拍子に、店長の肘がメロンソーダのレバーに当たった。

泡だけのメロンソーダが、勢いよく噴き出した。

客が叫んだ。

「これは短期的に合理的ですか!」

後ろの男性が叫んだ。

「知らねえよ!」

厨房からポテトが飛んだ。

新人がレジを押した。

「期待抜きセット、3番まで入りました!」

店員が叫んだ。

「AIによると、期待抜きセットには意外性が必要です!」

店長が叫んだ。

「もう十分意外だ!」

そのとき、自動ドアが開いた。

配達員が入ってきた。

「モバイルオーダーで、合理的昼食体験一式、20個」

店内が止まった。

一秒。

二秒。

三秒。

厨房のフライヤーが、ピーッと鳴った。

新人が小さく言った。

「店長、午後の生産性が……」

店長は帽子を脱ぎ、床に叩きつけた。

「午後なんか来るか!」

その直後、レジがまた鳴った。

ピッ

店員が画面を見た。

「店長」

「今度は何だ!」

「“午後抜きセット”が入りました」

厨房から声がした。

「午後抜きセット、1つ入りまーす!」

店長が叫んだ。

「だから何を作るんだ!」

店員はスマートフォンを見た。

客も見た。

新人も見た。

配達員も見た。

後ろの男性だけが、ビッグバーガーをかじった。

「うまい」

全員が一斉に振り向いた。

店員が震える指でスマートフォンに入力した。

うまいとは何ですか

その瞬間、店長がレジの電源を引っこ抜いた。

店内の音が止まった。

と思ったら、厨房の奥から、別の音声が流れた。

「ご注文番号、期待抜きの方ー」

店長が、ゆっくり振り返った。

誰も、名乗り出なかった。

しかし店内にいた全員が、少しだけ前に出た。



#構造素描



お読みいただきありがとうございました。

話の展開を完全にコメディ(スラップスティック)に振り切ってみましたが、いかがだったでしょうか?

さて、この記事で、予約投稿しておいた、5/1〜5/31の毎日連続投稿終了になります。

秋口までプライベートが多忙なため、それまで、ペースを少し落として記事更新予定です。

今後、noteをどのような場として利用し、また、どのようなことに挑戦するか、について、ぼんやりと新しい方向性は見えてきているので、アイデアを煮詰めていきます。

引き続きよろしくお願いいたします。

店主敬白