言えないわたし。泣けないあの子。夏が、澄んでいく。
言えないわたしへ。
泣けないあの子へ。
どこかで苦しんでいるあなたへ。
私の小学4年生の長女は、98%不登校だ。
週に1度くらい、朝の挨拶だけしに行く。それだけ。
譲歩して、90%不登校ってとこかな。
それに引っ張られて、次女も週に3日くらいお休みする。
まあ。そんな家族だ。
8月は、小学校に行く必要がない。
みんながランドセルを背負って元気よく登校する中に紛れて、ひとつの水筒だけ持って学校に向かう長女と、週に半分はお休みをする次女ともに、登校しなくっていい。
朝の忙しい時間に教室をのぞいて、先生に挨拶しなくっていい。
意味があるかもわからない一瞬の登校を済ませた後に、汗だくになりながら急いで仕事に向かわなくっていい。
だからきっと気持ちが安定するだろうし、せっかくだからたくさんの思い出を作ってあげたいし、笑顔で彼女たちの夏を満たせたらいいなって思ってた。
そう言っている間に、私の仕事が不穏な動きになった。
新しい仕事を任されることになり、ひいひい言ってたら、それをいっしょに担当していた人がみるみるうちに、辞めていく。
そして、私に新しい業務を指導してくれていた人までも、ついにいなくなってしまった。
私はそれを、1ヶ月前くらいに知った。
引き継ぐ間もなく、あっという間に、去って行ってしまった。いや、引き継ごうと思えば引き継げたのかも。だけど、宙ぶらりんに投げ出された感情が自分の中にあったのかもしれないし、単純にこっちはこっちで忙しすぎたのもある。
あっという間に放り出されて、でも「担当者」は、もう、私。
知りもしない情報を聞かれて、判断を任されて、どうしようもなく立ち尽くしてしまう。
辞めていった人たちのことを、けして憎めない。本当に忙しかったし、自分の本業に力を注げない、そのことに葛藤があったことも知っていた。
ただただ
「ああ次は私かもしれない」
と、ぽかん、と思った。
長女が少しでも、学校に行けることで、彼女のためになるのであれば。
そう思って今年度から、さらに延長して取得した2時間分の時短。
当たり前だけど、今年度の最初の給料の額面を見て、ガックシと肩を落とした。
限られた時間の中で、与えられた仕事はやり切っていると思う。でも当然ながら、子どもの急な対応が必要になることは日常茶飯事だし、その分はたとえ休暇でも連絡対応をする。
与えられた時間はむしろ業務に対して足りないので、結局夜もやることもある。
それでも、こうなるか。まあ、そりゃそうだよね、と。
仕事の見返りは当然ながら、致し方ない話だ。情けないこと極まりないが、ただの、愚痴。
今、もっと私を苦しめているのは。
私の中の、私の声。
──じゃあ、2時間分の時短を、彼女たちのために尽くせているのか?と。
それを問うてくる自分の中の声に、私は正々堂々と答えられない。自信がない。
私は最近、長女を見ていると涙が出てくる。眠っている彼女の横で涙が止まらなくて、眠れない日々が続いたこともあった。
彼女は以前にもまして甘えん坊になった。私が「2時間に時短を増やした」なんて、別に必要もないことを言ったから。児童精神科で言われたとおりに「掛け算だけがんばってみてよ」なんて、彼女のことを急かすから。「漢字は読めた方が将来の役に立つよ」なんてしょうもないアドバイスをしたから。「私はあなたのために仕事も時短も生活もささげているからできる努力はしてほしい」とアピールしているかのような、そう思われても仕方のない態度をとってしまっているから。
ふとしたとき。長女は、くっついて、ハグして、キスして、ママが一番、とささやいてくる。
そのハグが私には「ごめんね」に聞こえる。
「学校に行けなくてごめんね」と彼女が、ささやくように泣いているのを感じる。でも長女はあまり、泣かない。
その度に私は、私が情けない。
もっと強く、抱きしめ返せたならよかった。
ごめんねと、抱きしめ返しているつもりだけど、その「つもり」になっているだけ。きっと上手にできていない。だから彼女は何度も繰り返す。
私が弱いから。
仕事が忙しくて弱っていると、言い訳にしているのもわかっている。
「またなの~なによ~」なんて、やすっちい言葉が、私の口からもれて、彼女の髪をなぜる。本当はわかってる。それだけでは彼女が満たされていないこと。だけど私は、そのまま誤魔化してしまう。
なによって、なんだよ。しっかりしろ。母親のくせに。
私の中の私が、怒っている声がする。
「髪の毛を切りに行きたい」
長女がそう言いだしたのは、夏も後半に近づいてきたある日。
彼女がイメージしていたものがあったようで、どこかのイラストを見せてくる。
じゃあ、これでリクエストしてみようか。と、私は休暇を取得して、彼女とふたりきり、出かける。
夏休みにふたりきりになるのは久しぶりだった。夏休みが終わればまた、彼女とふたり、学校に行ってはすぐ帰る日々は再開するだろう。そんなことをふと思った。
その日の美容師さんには「ちょっと難しいかもね」なんて開口一番に言われた。あれやこれやと、別のイメージも提案してくれた。けど。
言われるたびに、長女の顔が陰りを見せたので、「どうなってもまあ、本人が希望するものがいいので、彼女のイメージ通りでお願いします」と言った。
ちょっと、癖やうねりがでるとまとめるのが難しいかも。体育のときとか結んだりしたら、髪がでてきたり。とか、なんとかしばらく言われたけど。
いやそういう機会も別にないんで(笑)とは言わないものの、まあ大丈夫ですとそのままスルーした。長女ちゃんは肩身狭そうに小さくなって、その場に静かに座っていた。
「長女ちゃん、こっちみて」
カット後。写真を撮られる彼女は、恥ずかしそうに笑った。

前から見るとショート、
後ろから見るとベリーロング。
「この髪型で学校に行ったら、怒られちゃうかな?」
数日後。
長女はふと、私に聞いてきた。夏休みの終わりまで一週間を切っていた。きっと前から気になっていたんだろう。なんか。いろいろ言われたもんね。繊細な子だから、こういうところがある。
「全然? 素敵だし。むしろ、注目されちゃうかもね」
私は言った。げ、それはいい……と言ったけど、そのときの彼女は悪くない表情だった。
「ママも昔、そんな髪型にしてた。誰にもかぶらないものが好きだった」
私は言った。
「ママとおそろいなんだね」
長女は笑った。腕を組んで、長いままの方の髪を持って、私の腕にぺし、とあてたりした。なによ~。というと、なんでもないよ、ただやってみただけ、と言った。
そっか。行くんだね。
新しい髪で。きっと、ドキドキしながら。でも、行くんだね。
とはいえ。あさって、始業式は難しいかもね。だけど。もっともっと違うタイミングで。彼女が、自分の髪を私に、ぺし、とあてるくらいの余裕がある朝に。
……まあ、
行けてもいいし。
行けなくってもいい。
ママは最近いろんな感情が、行ったり来たりするんだけどね。
これは、この気持ちは、本当の気持ちなんだよ。
知ってると思うけど、ママ、
noteだと、素直に書けるんだよね。
でも今度はまた、手紙に書くね。
あなたと私だけのお手紙を書くから、お守りにしてね。
文字が紙にのって、あなたの手でほどかれるとき。
それを書いたママの方が、また、頑張れる気がするんだよ。
9月。
新しい季節がこわい、私も。あの子も。
変化がこわいと、どこかで泣いている人も。
大丈夫。
日付が変わったらあなたも変わらないといけないわけじゃあ、ないよ。
日付じゃあなくて、自分の気持ちが変わっていく、そのサイン。
それを見逃さないよう、いつもあなたの心に声をかけ続けてね。
私もまた、あなたの声に、心に、耳を傾けるから。
いっしょに新しい季節を、そっと耳をすまして、迎えにいこう。

縁側で見守る私。こっそり隠れて花火を見る長女。
全員はかけなかったよ。だって。
さすがに入らないよね。
あとメインがほぼ霊夢だね。(キュン)

三男は火に突っ込んでくるので、花火をみせなかった(笑)


必死にその火をまもる、パパ。

この企画をきっかけに、また少しでも多くの方が、ホッとして新しい季節を迎えられますように。ミトシさんも、お忙しいと思います。ご自愛ください🍀
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