72候【花鳥風月】冬至の候
一陽来復、屠蘇散薬酒
陰の気が極まると陽が戻ってくる。
一陽来復は冬至のことを表すことばで、一陽は陽の気、来復は過ぎ去ったものが再び戻ってくることを表します。
また、悪いことが続いたあとにようやく運が向いてくるという意味でも使われるようになりました。
太陽が生まれ変わると伝えられる冬至は、ことばの意味をそのまま受け取るなら、一年の汚れも疲れも禊で洗い流し、冬至から心機一転した太陽の力で全体底上げされるというような気分になります。
お正月の伝統をないがしろにするわけではありませんが、この数十年というもの、お正月にお正月を祝ったことがないわが家では、冬至の日にお屠蘇をいただいたり、からだを温めるものを頂いたりすることが多いです。
生まれ変わった太陽といっしょに「年はじめの一歩作戦」を敢行しております。
神社参拝は立春あたりを目安に、ご挨拶に参ります。
屠蘇には「邪気を屠り、心身を蘇らせる」という意味があり、年の初め(元旦)にこれを飲めば一年間病気にかからないと信じられてきた背景があります。
屠蘇散と呼ばれる数種類の薬草を漬け込んだお酒は、唐の時代に伝えられ、平安貴族の正月行事に使われたのがはじまりで、庶民に広がったのは江戸時代からだそうです。
『本草綱目』では赤朮・桂心・防風・菝葜・大黄・烏頭・赤小豆を挙げている。現在では山椒・細辛・防風・肉桂・乾姜・白朮・桔梗を用いるのが一般的である。
本草綱目(1578年)は中国の薬学書で、ざっくり説明ですが
赤朮 あかおけら、キク科ホソバオケラ
桂心 クスノキ科肉桂、ニッキ
防風 セリ科ボウフウ
菝葜 サルトリイバラ
大黄 タデ科ダイオウ
烏頭 トリカブト属、毒性があるので現代では使われない
赤小豆 マメ科ツルアズキ
という処方だったようです。
現代版の屠蘇散は、ティーバッグに入った調合済みのものが市販されています。
お作法含めしきたりはいろいろあるようですが、薬草の力を頂いて心身を刷新するという目的なので、日本酒でも焼酎でも、一晩を目安に漬けおいて、美味しく頂ければよいかなと思っています。
ちなみに現代版でポピュラーな処方薬草は以下の通りです。
白朮 キク科オケラまたはオオバオケラの根
山椒 サンショウの実
乾姜 ショウガ
細辛 ウマノスズクサ科ウスバサイシンの根、根茎
桔梗 キキョウの根
肉桂 ニッキ、またはシナモン
防風 セリ科ボウフウの根
陳皮 みかんの皮
漢方にこだわらず、自分流に工夫してみたいという方は、ふだん飲んでいるハーブティの焼酎漬けや、焼酎割も十分に邪を祓い気を充足させてくれると思います。

カレンデュラ、ローズヒップ、レモンピール、オレンジピール
7種のハーブでつくりました。
ちょっと油断すると、寒さ冷気がからだに侵入しやすいこの季節は、まいにち湯船につかって柑橘系の芳香に助けられています。柚子湯の伝統もほんとうに邪気払いに効果があると実感してきた先達によって、今日まで伝承されているのだろうと思います。
冬至の候、今年は12月22日から。
乃東生ー 靭草の芽が出るころ
麋角解ー ヘラジカの角が生え変わるころ
雪下出麦ー 雪の下で麦が芽を出しはじめるころ
陰陽反転 靭草
冬至のちょうど反対側に座す夏至のころは植物にとっていちばんの成長期。
野山も平地も河原にも、最大出力で緑が生い茂り、競うように花を咲かせます。
そんななか、まるで盛夏に背を向けるように花枯れてしまうのがうつぼ草です。

1年を24等分して四季折々の花鳥風月をあらわす24節気では、うつぼ草が夏と冬に登場します。
夏至の候、乃東枯(なつかれくさかるる)
冬至の候、乃東生(なつかれくさしょうず)
乃東はだいとうと読み、うつぼ草の古名です。
別名夏枯草ともいい、夏に花だけ枯れ、そして冬至のころ、まるで太陽の生まれ変わりに歩調を合わせるかのように、冷たい大地から芽をだします。
日本では古くから民間薬として使用されてきた薬草で、花枯れる夏に摘むものが特に薬効が高く、茶色く枯れた花穂を集めて陰干しします。
消炎作用、利尿作用が高く、むくみや残尿感、排尿不快感、泌尿器系のトラブル、高血圧にも良いとされています。
煮だした液をガーゼに浸みこませて湿布すると打ち身、ねんざ、腫物に効果があり、うがいして使うと、口内炎や扁桃炎によいとされています。
うつぼ草はタンニンを多く含むので、消炎には即効性を感じられると思いますが、作用が強すぎるので継続使用は避けた方がよい薬草です。
中国最古の医学書「神農本草経」にも収載されており、水戸黄門こと徳川光圀の時代の「救民妙薬」に「夏枯草、うつぼ草ともいう」と記載されています。
ヨーロッパの近種タイリンウツボグサは花穂がひとまわり大きく、古代ローマ時代の医者ディオスコリデスは煎液を喉頭炎、扁桃腺炎に使用していました。
英名はself-heal(自然に治る)、またはheal-all(何でも治す)でありながら
ヨーロッパでは現在ほとんど利用されていないそうです。
矢は「うつぼ」、たまは「うつほ」に
北半球の温帯地方を中心に日あたりのよい山野、河原でよく見かけるうつぼ草は、つくしん坊の頭みたいな花穂をまっすぐに伸ばし、上のほうから開花して上から順に枯れていきます。
うつぼ草の花穂は弓矢を入れる靭に似ているとして、うつぼ草と呼ばれるようになりました。
矢を入れて肩や腰に掛け、携帯する容器のこと。矢筒。
「やなぐい」とも読む。 靫(うつぼ、ゆぎ)とも呼ばれる。
じっさい、うつぼ草が箙・靫に似ているかといわれると、うん、まぁそう言うんならそれで…、昔の人にはそう見えたってことで…、うん...。と、歯切れ悪く相槌を打つしかあるまい、という気分になります。
矢を入れる靫の名がついたのは、その姿形というより夏至と冬至の陰陽反転する時期を象徴する植物、ということで命名されたのではないかと考えています。
陽気極まる夏至に、陰へ転じて花が枯れ
陰気極まる冬至に、陽へ転じて芽吹き始める。
うつぼ草が靫というなら、矢の入っていない「うつほ(からっぽ)」の状態もあるわけで、うつほから靭に、またその逆へと、ものごとが反転する様を太陽の動きにぴたりとあわせて生きる植物、ということで古人のお目にとまったのではないかと。
矢を入れるいれものといえば、占星学のサビアン、双子座9度「矢で満たされた矢筒」というシンボルを想起させます。
矢筒(うつぼ)といういれものは、矢が満たされていないとからっぽ(うつほ)で、
・意識をどの方向へ射出してよいかわからない
・興味を向けられるターゲットがいない
・意識が空中分解して空虚になる
という状態を象徴しています。
矢はターゲットがあってこそ放つことができるもので、的(興味)が定まらないと、矢(意識)を射ることはできません。
靫に入る矢の本数や、矢の形状は、的となる興味対象が明確になるほど充実します。
「これだ!」という的が明確であるほど、意識も鋭く明晰になるので、矢の形状はまっすぐ射ることのできるピンとしたカタチになり、質問疑問、検索ワードやセンテンスも、どんどん湧いて出てくると思います。
的が定まれば自然と意識は見えない矢となって、四方八方に射られるので、必要な情報、どんぴしゃりの本、専門的な御仁との出会いなどなど、的を得たご縁も次々と広がり、意識の矢もどんどん鋭く、本数も増えてゆくのではなかろうか、と。
秋分すぎて、霜降から立冬のさそり座、そして小雪から大雪の射手座は、内面への旅中心に発酵熟成を強化する、メロメロ mellow 期間みたいな感じで、精神の発酵によって、人の身の内で極上のお屠蘇ができる時期と考えています。
精神が熟成されたその香り、その気配はお神酒となり、元素界の住人、四大精霊たちにとっても「邪気を屠り、心身を蘇らせる」妙薬となって、ワレもワレもと召し上がりにいらっしゃるような。
精霊たちが喜んで飲み干すお神酒を醸成し、大盤振舞いするならば、たしかに精神は飲みつくされ、空っぽ(うつほ)になって、清々しく軽やかな一年のはじまりになるだろうと思います。
冬至から「うつほ」になった精神には「たま」が寄ってきて、次の活動期に向けての縁結び、調整機関などを経ながら、宿られたあたらしい「たま」は新たな興味関心を喚起して、的を定め、矢(意識)が芽吹く準備をはじめるのではないかな、と。
今風にいうと断捨離してスペースをあけると、ほんとうに必要なものがわかる、ということでしょうか。
大掃除に大祓、おうちもからだもきれいにして新年を迎える伝統は、こころのなかの陰を極めて陽に反転すること、うつぼ草は冬至に新芽を息吹かせて、先陣きってお手本を示してくれているのではないかと思います。
この通過儀礼を彷彿とさせるお話は、日本の民俗学者、国文学者、国語学者であり、釈迢空の名で詩人・歌人でもあった折口信夫(1887-1953年)の「霊魂の話」で面白く綴られています。
日本人は、ものゝ発生する姿には、原則として三段の順序があると考へた。
外からやつて来るものがあつて、其が或(ある)期間、ものゝ中に這入つて居り、やがて出現して此世(このよ)の形をとる。
日本の神々の話には、大きな神の出現する話もないではないが、其よりも小さい神の出現に就いて、説かれたものゝ方が多い。
此らの神々は、大抵ものゝ中に這入つて来る。
其容れ物がうつぼ舟である。
ものがなる為には、ぢつとして居なければならぬ時期があるとの考へもあつた様だ。
古く日本には、神事に与る資格を得る為には、或期間をぢつと家の中、或は山の中に籠らねばならなかつたのである。
村の若者を山籠りをさせて、男にする事が、其一つであつた。
此時期が、後の山伏しの精進・行と言はれるものであつたので、山伏しの籠りに行くのは、即、若者になりに行つた風習の名残りである。
此は、神の魂が育つのと、同じことになるので、他界から来る「たま」をうける形なのであつて、さうする事によつて、村の聖なる為事に、与る資格が得られる、と考へたのである。
容れ物があつて、たまがよつて来る。
さうして、人が出来、神が出来る、と考へたのであつた。
からっぽになる日
夏至は一年でいちばん日の長い一日。
冬至は一年でいちばん日の短い一日。
いってみれば天を突き上げるほど高揚した先と、底を突き抜けるほど内省したその先に、ほんとうに必要な矢となる、意識の射出方向、興味の対象がみえてくる、と考えることもできます。
やり切った。
成し切った。
為果てる。
夏至と冬至の陰陽反転は、もうそれ以上先に進むことはできない、というところで転じます。
陰から陽に、陽から陰に反転する時節、為果てるそのとき、人は「うつほ」となって神の「みたま」のいれものとして準備が整ったことを表す。
うつぼ草はそんな秘密を伝える薬草なのかな、と妄想しています。
うつぼ草を民間療法で飲用している村のある人は、うつぼ草を「小便薬」と呼んでいました。
「信じられないほどドバドバ小便が出るよ」と、楽しそうに教えてくれました。
そのとき体内も一度からっぽにするごとく、水の入れ替えを促進する薬草なのかな、と思いました。
太陽は山羊座に入ります
冬至から太陽は山羊サインに入ります。
山羊は空間認識能力を体得し、高地であろうと断崖絶壁の岩肌であろうと、どんなところでも足場を確保して往来できる、地球マスターのような存在です。
占星学の山羊座は下半身がお魚なので、海のなかにも行ける、水陸両用の散歩マスターといえます。地球の上ならどこでも、わが陣地にできますぞ、という大志があり、目的意識も明確です。
社会という枠組を空間として認識する能力に長けており、個人と社会のバランスをとりながら安定した生き方を定着させる意志も強いです。

「うつほ」になるということは、からっぽの「いれもの」ができたということで、ひとつの枠が定まります。
山羊座の活動は固定された枠組みや活動範囲のなかで生き生きと脈動するので、範疇を明確にした「いれもの」を任せられると、それはもう律儀にまじめに責任をもって、中身を充実させてゆきます。
山羊座に対応するからだの関連部位は皮膚と骨。
境界線と構造を司ります。
いちどからっぽになったからだという「いれもの」を任された山羊座が大活躍する時期の到来、という感じもします。
うつぼ船に出入り口はない、と伝承されていますが、山羊の執事だけが知っている秘密のドアがあって、面接にきた「たま」の皆様を丁寧にもてなしつつ、卓越した知恵と厳正な判断力をもって、うつほを満たすエッセンスを選別していらっしゃるような気がします。
山羊座の支配星は土星で、心理的な元型・アーキタイプとしては権威ある知恵者、厳格な教師、時の賢老爺、古い神々などをあらわす象徴惑星です。
また現在の地上生活における構造そのものをつかさどる実利主義者でもあります。
次のサイクルで射出する矢は、植物でいうと春分のころに息吹く新芽のようなものですから、「たま」はいってみれば「たね」のようなものかもしれません。
山羊の執事による厳しい面接をくぐりぬけた種は、冬のあいだ、わたしたちの身の内で育まれ、春にはシュッと芽吹いて夏に花を咲かせ、秋には果実へと結実します。
さてさて来年はいったいどんな花を咲かせ、どんな果実が実るのか、いまからもう楽しみです。
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