食前、食間、食後
食前、食間、食後
2015年5月
家内が食事中に、ぱたっと箸を置いて、もそもそと薬の袋を取り出して開け、薬を一粒飲もうとし始めた。
「おい、どうしたんだ」
「この薬、食間なのよ」
「食間というのは、食事と食事の間のことだぞ」
「ええっ、食事中じゃないの」
何のことか、お解りになるだろうか。飲み薬をいつ飲んだら良いかの話である。薬の袋に印が付けられる。食前、食間、食後のどれかに丸が付く。
普通は食後に印が付くことが多い。強い薬を単独で飲むと胃に悪いが、食後に飲めば食べたものと混ざり、胃への負担が少なくなる。あるいは、食べたものと一緒のほうが吸収されやすい薬もある。どうでも良い時も、食後に印がつく。一番飲み忘れが少ないらしい。
食前に印が付くのは、胃酸や食べ物の影響を避けたい薬や、吐き気止めの薬、食事による血糖値の増加を防ぐ薬などだ。
食間とは、食事と食事の間、食後2時間後くらいに飲むことらしい。吸収の悪い薬で、空腹時に飲ませたい場合など、食間に印が付く。
その食間を家内は食事中のことと思っていたのである。かく言う僕も少し前までそう思っていた。そもそも食前、食間、食後と並ぶ、その並べ方がけしからんのである。食前と食後の間に、食間が置かれているから、前と後の間、食事中と思ってしまう。このように勘違いしている人が大変多いという。あなたどうです?
間というのは、二つの隔たりのことを言う。例えば野球で一二塁間ヒットというと、一塁と二塁の間を抜けるヒットのことになる。塁間何メータと言えば、塁と塁の間隔が何メータという意味になる。この場合、塁と塁の間だから、正しくは塁塁間だろうが、それをはしょって塁間といっている。食間は、塁間などと同じとして、「食事と食事の間」という意味で、薬の処方時に使われる。
一方、運動の間にできるだけ水を飲ませなさい、という言い方もする。間を一続きの時間という意味で使う。従って、「食事の間に薬を飲む」と言うと、普通は食事中に飲むことになる。食間を、「食事の間」の略とすれば、家内は正しかったことになる。
食間を、「食事の間」の略として使うか、「食事と食事の間」の略として使うかの違いであり、普通であれば前者の意味になるだろうから、家内が正しく、薬屋が間違っている。
食間は、普段あまり使わない言葉で、薬屋専門用語といってもよい。食前、食後はよく使われるから、食間もよいだろうと何処かの薬屋が使い出したのだろう。本来、言葉の使い方に、正しいとか、正しくないなどはなく、皆がどう勘違いなく使うかということだろうが、薬屋の食間の使い方は、いただけない。間違いのもとになる。
間違いがないようにするには、少なくとも、並べ方を、食前、食後、食間とすべきだろうが、それでも間違いが減らないなら、食間を、食後二三時間後とかに改めたほうがよいだろう。
