Photo by
akarisakasu
隣席の富士山 ①
「あっ、富士山だ!」
母の声と周囲の冷めた気配に分厚いコートの下で冷や汗が吹きだした。
(やめてよお母さん、恥ずかしい!)
無表情を装い横顔で叫ぶ。今朝は本番、高まる緊張、空気は冷たく澄んで遥か遠くの白き嶺が勇姿をのぞかせていた。母に付き添われた私は車内でメガネもかけておらず窓の外を眺める心の余裕などなかったのだが。
さあ本番。問題は五問あった。どれも手強い印象だったが閃いた。すべての道は頂上に通ず。隣の受験生がつぶやいている。
「富士山麓にオウム鳴く、」
ルート5か? 果たして5番が一番簡単だ。その答えが問4のヒントになっていた。その答えが問3のヒントに、その、うーん。問1は難解だどうしよう。隣席の受験生が音を立てて記入している。えっえっ?見えてしまった。答えも、相手の顔も。うちの母さんの不二子さんだ。
「五合目から下山ルートをまっしぐらでしたね。基本の麓から登り直してください」私たち親子は試験官にマウントを取られた。
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