誤字集合事件@会議室
会合は職員室の隣の会議室で行われた。入り口には『事件対策本部誤字集合課』と楷書体でプリントされた書き初め半紙大の演目案内が立てられていて、校門から会議室に至る順路にも葬儀会場の案内よろしく人差し指の絵が何枚も貼られていた。
時間になるとマイクを手に男が発言し始めた。
「一年二組五字宏美の父親です。まずはスクリーンをご覧ください」
プロジェクターの光で映し出されたのは一年生の漢字ドリルのあるページだ。
「ご覧のように『◻️の上にも三年』とあります。うちの子は『石』と書きました。ところが赤ペンをくらったのです。二画めの頭がわずかに突き抜けているように見えたのでしょうか、これでは右の上にも三年ですよというわけです。厳しすぎませんか。私が指摘したいのは何者かが故意に石を右に見えるように手を加えたのではないかと言う点です!」
ドリルを採点した教師にマイクが手渡される。「お父様、この場で発言されるよりも先にこの件をSNSに画像付きで投稿されませんでしたか。ハッキリ申し上げますが、最初はもっと『右』だったのです。コピーだってあります。投稿には反響があって「自分も石と右には煮湯を飲まされたぞ」「あのときの教師はタヒね」といった過激なリプライを呼んだのです」
聴衆にどよめきが起こった。教頭はゴクリと喉を鳴らした。こんなやり方で果たして「タヒね」と書き込んだ犯人は見つかるのだろうか、確かに自分が新任のときも、国語の授業ではとめはねはらい出す出さないは口を酸っぱくして指導したものだが。タヒは誤字ではない。誤にはわざとじゃないんだウッカリなんだよあやまるよ、のニュアンスがある、だからどんなに面白くてもわかってやってる時点で「誤」じゃないよな、でも過失は故意より罪が軽いのに、何故か自分が明晰であると主張したがるようになるんだよねある時期を境に。
一人の男が挙手した。どうやら煮え湯を飲まされたポストの犯人らしかった。
「私がやりました。といっても別の件ですが。三年前のことです。うっかりミスのつもりでした。よくある右と左の踏み間違えというやつだと自分でも思っていたのです。しかし」彼は右手に何かを掲げていた。「この石が右の下に仕込まれていたのです、何者かの手によって」
幸いケガ人もなかったようだが黙って逃走したのは良くないね、そもそも五字さんのポストに対して誤爆してるし。後日覆面捜査隊の成果はこの一件だった。
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