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米著作権局はAIをどう見ているか──報告書を正しく読むための視点

米国著作権局が2025年5月に発表した報告書『Copyright and Artificial Intelligence』は、100ページを超える第3章「Training Data(学習データ)」を含む、全体で400ページを超える大部な文書です。本報告書は2023年秋にパブリックコメントや関係者へのヒアリングを経て取りまとめられたもので、既に第1章「著作権保障の適格性(Copyrightability)」と第2章「権利形成と責任(Ownership and Liability)」が公表されています。

このような報告書を読み解くにあたって重要なのは、まず著作権局の立場や役割を確認することです。米著作権局(U.S. Copyright Office)は行政機関ではありますが、立法機関でも司法機関でもありません。その機能は、議会への助言や制度の運用、著作権登録の管理などに限られます。よって、たとえ本報告書内で何らかの結論や所見が示されていたとしても、それには法的拘束力はありませんし、直接的な政策提言とも異なります。

この点については、報告書の「序文(Introduction)」でも明確に述べられています。たとえば次の一文があります:

“Without opining on specific cases, we provide an analytical framework for identifying relevant facts and policy considerations. In so doing, we draw on substantial experience advising Congress, the courts, and the public on the fair use doctrine.”
(特定の事例について結論を述べることはせず、関連する事実と政策的配慮を特定するための分析枠組みを提供します。これにあたって、著作権局がこれまでに議会・裁判所・市民に対して行ってきたフェアユース原則に関する知見と経験を活かしています。)

『Copyright and Artificial Intelligence Part 3: Generative AI Training pre-publication version』

この文言から読み取れるのは、報告書がガイドラインや公式見解、あるいは何らかの法的判断を下すものではなく、あくまで「検討材料」や「議論のたたき台」としての性格を持っているということです。

実際、報告書が何らかの法的影響を即座に及ぼすとは考えにくい状況です。仮に米国議会でこの問題が審議される場合、通常はまず公聴会を開いて多様な立場の意見を聴取し、そこから法案作成のプロセスに入ることになります。たとえ法案が通過したとしても、大統領の拒否権によって廃案になる可能性もあるため、利害が大きく対立するAI企業と権利者のいずれにとっても、法制化には相応のリスクがあると言えます。

同様に、司法の場においても、現在進行中の訴訟が米最高裁まで上告された場合、その判例は強い拘束力を持つことになります。とはいえ、現時点で出されている(または出るであろう)判決は下級審によるものであり、特定の事案に限られた判断にとどまっています。著作権局の報告書も、こうした裁判において「参考資料のひとつ」以上の役割を持つとは限らず、司法判断に即効性のある影響を与えるわけではありません。

また、裁判が長期化すれば当事者の負担も大きくなり、現実的な解決策として「和解」に至るケースも少なくありません。和解は判例を生まず、内容も非公開となることが多いため、社会全体に明確なルールを示す効果には乏しいのが実情です。

こうした状況を踏まえると、報告書に書かれている個別の記述もその文脈を正しく理解する必要があります。

たとえば「結論(Conclusion)」の冒頭では、次のような一文があります:

"The fair use doctrine in particular has served to flexibly accommodate such change. We believe it can do so here as well."
(特にフェアユースの原則は、このような変化に柔軟に対応してきました。我々は今回も同様に対応可能だと考えています。)

『Copyright and Artificial Intelligence Part 3: Generative AI Training pre-publication version』

この文から分かるのは、著作権局が生成AIに関する法的な問題にも、現行のフェアユース原則が対応し得るとの立場をとっているということです。そしてこれは「判断の権限は司法にある」という見解と一致しています。

さらに次の一文:

"In applying current law, we conclude that several stages in the development of generative AI involve using copyrighted works in ways that implicate the owners’ exclusive rights. The key question, as most commenters agreed, is whether those acts of prima facie infringement can be excused as fair use."
(現行法を適用すると、生成AIの開発におけるいくつかの段階で、著作権者の排他的権利に抵触する可能性があると我々は結論づけます。重要なのは、多くの意見が同意しているように、それらがフェアユースとして免責され得るかどうかです。)

『Copyright and Artificial Intelligence Part 3: Generative AI Training pre-publication version』

ここでは一見「違法と断定」されたように見えるかもしれませんが、これは「違法の可能性」に言及したものであり、実際にフェアユースとして認められるかどうかは個別の事例に委ねられるという前提に立っています。つまり、著作権局が立法に対して「判断すべき論点」を提示しているに過ぎず、独自の判断や提言を行っているわけではありません。

この一節はしばしば引用される箇所でもありますが、文言中の "we conclude"(我々は結論づけます)という表現に引きずられ、「ガイドラインの提示」や「法的判断がなされた」といった誤解が生じがちです。繰り返しになりますが、著作権局にはそのような権限はありませんし、報告書もそのような意図で書かれていません。

実際、結論部の後半では次のような見解が示されています:

"The Office believes that any significant changes to the Copyright Act should follow deliberate study and evaluation by Congress. Given the complexity of the issues and the novelty of the technology, government intervention is premature."
(著作権局は、著作権法に関する重大な変更は、議会による慎重な検討と評価を経て行うべきであると考えます。問題の複雑さと技術の新しさを踏まえれば、政府による介入は時期尚早です。)

『Copyright and Artificial Intelligence Part 3: Generative AI Training pre-publication version』

この一文からも、著作権局が現時点での法改正に慎重であること、市場メカニズム(民間間でのライセンス調整など)による解決を志向していることがわかります。

そして報告書の最後には、次のように述べられています:

"Finally, as in prior Parts of this Report, the Office recognizes that facts on the ground are evolving at a rapid pace. We will continue to monitor developments in technology, case law, and markets, and to offer further assistance to Congress as it considers these issues."
(最後に、本報告書の前章と同様に、著作権局は現場での状況が急速に変化していることを認識しています。我々は今後も、技術、判例、市場の動向を注視し、議会がこれらの問題を検討する際には継続して支援を行っていく予定です。)

『Copyright and Artificial Intelligence Part 3: Generative AI Training pre-publication version』

この文言からも、本報告書が「現時点での中間的な整理」であることが読み取れます。今後の変化に応じて内容が更新されていくことも十分に想定されているのです。

情報リテラシーにおいて、一次資料にあたることはとても大切です。
しかし、必要な前提理解を欠いたまま部分的に切り出して考察すれば、誤解や飛躍に陥りやすくなります。そこに「正しい理解」を求めるのは難しいでしょう。
まずは落ち着いて、「誰が、どのような立場から、どのような目的(意図)で作った資料なのか」を丁寧に検証すること──それが、より良い理解への近道ではないでしょうか。

【参考リンク】
生成AIもフェアユースで対応可能とする米著作権局報告書(2025年6月3日付アゴラ記事)※結論部の全訳があります

『Copyright and Artificial Intelligence:Training Data』を読む
【―― 米著作権局報告書(第3部)プレ発行版の要点と解釈 ――】※自身のブログです

米著作権局「生成AIに関する報告書」全文から読むその真意※自身のブログです

Copyright and Artificial Intelligence Part 3: Generative AI Training pre-publication version※報告書の原文です(英文)

https://www.copyright.gov/ai/Copyright-and-Artificial-Intelligence-Part-3-Generative-AI-Training-Report-Pre-Publication-Version.pdf


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