マークの大冒険 常闇の冥界編 | 暗示の刻
ホルスは冥界に姿を消したマークを取り戻すため、ウェスタのもとに訪れていた。床、壁、天井に至るまで純白の大理石に包まれた部屋で、ホルスとウェスタは話していた。
「冥界への扉は、デルフォイにある。オンファロス、地球のヘソとも言われる世界の中心に。巨大な岩石の下に冥界に続く螺旋階段がある。アトラスなら持ち上げられたと思うけど、あなたにできるかしら?」
ウェスタはホルスを見つめて言った。
オンファロス
世界の中心にあるとされた網目状の模様を持つ石。世界の中心にあるとされていることから、地球のヘソとも呼ばれている。
アトラス
古代ギリシア語で「支える者」の意。巨人族の男神で怪力の持ち主。
「余裕だろ。早速向かう」
「気をつけて」
「じゃあな。ああ、そうだ、前からひとつ言いたかったんだが」
ホルスは去り際に振り返り、ウェスタに言った。
「何?」
「お前、本当はウェスタじゃないだろ?」
「どうして?」
「ウェスタは、お前みたいなイタズラな性格じゃない。お前は本当は誰なんだ?」
「私は記憶の中の二人の人物。外見と内面が別々のね」
「お前は人間なのか?」
「正確には干渉する記憶」
「記憶?」
「本当はこの記憶の領域までは語られないはずだったけれど」
「何の話をしている?」
「目覚めの時が来る。それを彼が望んでいる。彼はとても苦しんでいたわ。どこまでも続く虚無の螺旋階段。何でも手に入るけれど、いつも自分の心だけがどこにもない、とね。私の部屋で記憶の器(うつわ)を見たでしょう?マークはあそこに入るべきだった」
「意味が分からない。もういい、俺は行く。ウジャトの契約があるからな、マークに死なれると困る」
ウジャトの契約
ホルスがエジプトのサッカラ遺跡で封印を解かれた際、マークに敗北して結んだ契約。
「契約?本当は既に切れてるのに?笑ってしまうわ。好きで一緒にいるだけでょ?」
「お前、いつから気づいてた?」
「さあ、いつでしょう?最初から?全ての結末は既にデザインされている。全ての生命が必ず死ぬようデザインされているようにね」
「冥界の座標には感謝するが、お前のイタズラごっこにはこれ以上付き合えない。じゃあな」
ホルスはウェスタとの話を打ち切り、その場から去っていった。
「あなたも彼の一部。秘めたる怒りの化身。そして私は、シュト(影)。この世界は、分散した彼を“集約”し、現実へと送り返す儀式」
ウェスタのその小さな呟きは、ホルスの耳には届かなかった。
古代エジプトの人間の霊魂は、心臓(イブ)、名前(レン)、魂(バァ)、霊(カァ)、影(シュト)の5つで構成された。死後はバァとカァが合体し、アク(完成した心)という完全体の霊魂になるとされた。古書店にいる時からマークが疑問に感じていたウェスタに影がない現象は、彼女自身が影(シュト)だったから。古代エジプトでは名前が何より重要で、他人に本当の名前を知られると、相手からの支配を許すことになるという思想があった。それゆえに偽装した名前を幾つも持つ文化があり、ファラオを例に上げれば、彼らは公式の名前だけでも5つの名前を持っていた。よって、カスメガネのように名前(レン)を思い出せないのは、人間として欠けた不完全な状態を意味する。

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Shelk 🦋
