ヒーローは憧れているくらいが丁度良い。『スーパージャイアン』/正義のヒーローごっこ⑤

藤子F作品におけるスーパーヒーローものでは、以下の二点が頻出するテーマとなる。

一点目は、ヒーローの力は世のため人のために使うもので、間違っても自分本位で力を行使してはならないということである。

その最たる作品が『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』であり、その亜流が『スーパーダン』におけるジャイアンだったり、『スーパー天狗』におけるブタゴリラだったりする。


もう一点は、ヒーローは自分の時間を犠牲にするので、全然楽じゃないといいうことだ。

『パーマンつらいよ』など「パーマン」ではお馴染みのテーマだし、「エスパー魔美」でも良く描かれているし、『スーパー天狗』におけるキテレツが多忙なヒーロー活動に苦労していた。


本稿では、『スーパーダン』で自分の力を誇示したかっただけのジャイアンが、実際にヒーローとなった時に、自分の時間が奪われて弱ってしまうというお話を見ていくことにしたい。


「ドラえもん」『スーパージャイアン』
(初出:もしもジャイアンがスーパーマンになったら)

「小学三年生」1979年4月号/大全集10巻

いきなり一コマ目、のび太が庭の物干し台に干してあるきれいなマントを見つける。勘の良いのび太は「きっとスーパーマンになれるマントだな」と言って身につけようとすると、ドラえもんが「人の物を勝手にいじるな」と言って取り上げる。

本作のようにドラえもんが大事な道具(しかも使い方がややこしいもの)を部屋などに出しっ放しにしていて、それをのび太が勝手に使おうとする定番パターンがある。

たいていの場合、勝手に道具を使ったのび太が痛い目に遭ったり、世界中が困ったことになったりするのだが、それは完全に放置癖のあるドラえもんのせいだと常日頃思うところである。


一度はマントを取られたのび太だが、すぐに奪い返して走って逃げる。ドラえもんは「スーパーマンになってもつまんないから」返せと言う。のび太は「かっこいいもん」と言って譲らない。

ここまでの流れから、のび太がスーパーマンの大変さを味わう話かと思ったところで、マントをパッとジャイアンが奪い取って、身につけてしまう。

「とうとう着ちゃった」とドラえもん。ジャイアンに対して、「本当にそれはよくない、安物だから大して強くなれない」とマントを返すよう説得する。

ジャイアンが「空も飛べないのか」と確認すると、ドラえもんは小さな笛を手にして、「誰かがこの笛で呼んだときが飛べる」と答える。マントを返して欲しければ、そんな笛を見せなきゃいいのにと思う。

案の定、空飛ぶ実験をしてマントを気に入ってしまうジャイアン。「俺はもともと強いから、飛べさえすればいいんだよ」と、完全にスーパーマンになるつもりでいる。

ジャイアンはみんなに笛を配るよう命じて、去っていく。マントを取られたのび太が悔しがるが、ドラえもんは「羨ましがることはない」と言う。今回のドラえもんは、本当にこの道具が意味がないと考えているようである。


「あまり来てほしくないなあ」と、笛を受け取る友人たち。そして実際に仕事の依頼はさっぱりのようで、ジャイアンから「事件がなけりゃ探してこい」と怒りの電話を受けてしまう。

のび太が家を出ると、同じような脅しがスネ夫にも来ていたようで、「お前が余計なことをするからだ」とキレられる。そこでたまらずのび太が笛を吹くと「ジャジャジャーン」喜び勇んでジャイアンが空を飛んでくる。

そして「スネ夫がイジメるのか、悪い奴め」と悪そうな表情を浮かべて、「スーパーマンが来たから安心しろ」と言ってスネ夫をギタギタにしてしまう。こうなると、ヒーロー活動というよりはいつも通りの弱いものイジメである。


さて、これが呼び水となったのか、ピィピィと笛の音が町中に響き渡り、スーパージャイアンにどんどんと仕事が振られていく。

「仕事ができて満足している」とのび太がドラえもんに報告すると、「そのうちうんざいしてくるよ」予言めいたことを言う。ジャイアンが手にしたスーパーマンセットでは、笛の呼び出しは絶対で、拒否できないものだというのだ。


ドラえもんの予告通り、ご飯中に呼び出されたり、入浴中に呼ばれて素っ裸にマント姿で飛んでいくことになったりして、ジャイアンの表情に不満が募っていく。

このマントは一度着ると100回仕事するまで脱ぐことができないという仕様となっており、おもちゃとしてはかなり迷惑な道具であることも判明する。ヒーローになれる道具というよりは、ヒーロー活動に嫌気を差す道具と言えそうである。


夜中でも雨でも構わず飛び回ることになるジャイアン。ドラえもんは「そろそろ怒鳴り込んで来るころだ」と今後の展開を予測する。今日のドラえもんは、勘が冴え渡っており、思っていた通りに「こんな変なマントを着せるからだっ!」とジャイアンが駆け込んでくる。

自分が勝手に着たのだし、散々ドラえもんが止めたのを聞かなかったジャイアンが完全に悪いのだが、そんな自己反省に至る男ではない。

殴り掛かってくるジャイアンに対して、逃げるドラえもんがピィと笛を吹くと、急にジャイアンが「おう、スーパーマンになんの用だ」と仕切り直す。事件を起こす悪者ジャイアンと、事件を収束させるスーパージャイアンの一人二役が始まったようである。

そこでのび太とドラえもんは「いじめっ子のジャイアンをやっつけて」と助けを求める。すると、凄まじい勢いで自分を全力で殴りだすジャイアン。今回はこうして乗り切れたが、「この後どうしよう?」と弱るドラえもんなのであった。


ヒーローのパワーを自分のために使ってしまう。
ヒーローになったは良いが自分の時間を奪われて嫌気を差してしまう。

そんな藤子ワールドにありがちなヒーローが、たった一人のキャラクター、ジャイアンに内包され、たった一本のお話で描き切ってしまう。何ともお見事な作品なのである。




いいなと思ったら応援しよう!