若きSF的想像力がほとばしる!『星の子カロル』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉑
藤子不二雄の特徴は、デビュー時から果敢にSF作品に挑んでいる点にある。マンガに限らず物語を生み出す作家は、虚構=フィクションを作り上げなくてはならないが、ここにサイエンスの要素を加えられる人は、ぐっと数が限られる。
なぜなら、科学的な素養が必要なことはもちろんのこと、想像の世界に現実的な観点を持ち込まなくてはならないからだ。例えば、未来を舞台にするならば、現実の延長にある未来の姿を説得力を持って表現する必要がある。資料集めと同時に、将来予測という別の頭脳を用いらなくてはならない。
藤本(F)先生と安孫子(A)先生のその後のキャリアを見ていくと、SFにこだわりが強かったのはやはりF先生である。(もちろんA先生もたくさん書かれていますが)
実質的デビュー作である「UTOPIA 最後の世界大戦」では、ネームのほとんどを藤本先生が手掛けているようだが、初期の共著のSF作品は、F先生が主導していたのではないかと考えらえる。
今回見ていく作品『星の子カロル』は、安孫子先生との合作であるが、やはり藤子F作品としての色合いが非常に濃い。
まだアメリカのアポロ計画が始まる前に、木星の月の探査に向かうという設定は、思いついたとしても実際に描き切れる作家が、この時どれだけいたのだろうか。「ロストワールド」で星の探索を描いた手塚治虫先生くらいだったのではないだろうか。
本稿では、作品の中に登場する時代を先読みするSF的な部分を語りながら、『星の子カロル』の魅力に迫ってみたい。
『星の子カロル』「たのしい三年生」1957年8月号別冊付録 64P
本作は1957年の作品だが、この頃のF先生は①幼年クラブ②漫画王③講談社の学習誌を中心に発表している。少し前までは「少女」という雑誌に少女向け漫画を多数書いていたが、この頃はもう描いていない。
初期短編解説の恒例だが、本作も章立てになっているので、まずはそれを書き出してみよう。扉絵を入れて全64ページの大ボリュームである。
①プロローグ 5P
②カリスト星 6P
③でかちびロケット 6P
④しゅっぱつの日 9P
⑤星のジャングル 7P
⑥カロルのしっぱい 8P
⑦はい色のせかい 5P
⑧10メートルのうで 17P
最後の⑧が一番長く、最大のクライマックスになっている。①~⑦において、⑧のクライマックスへ盛り上げを段階的に作っていく構成となっている。①から順に、簡単な解説を付けながら見ていこう。
①プロローグ 5P
冒頭で物語の設定が明示される。
これは人間が自由に月や星の世界へ行けるようになったころのおはなしです
主人公の少年カロルの家に近くに、フラフラとロケットが飛んできて、裏山に落下する。カロルが様子を見に行くと、ボロボロのパイロットが出てきて、カロルに告げる。
「宇宙局の長官に伝えてくれ。カリストは悪魔の星だ。探検隊員はみんなやられてしまった」
そしてパイロットは倒れ込んで息を引き取るのであった。
「悪魔の星」というキーワードが強烈な、見事に不穏なオープンニングである。

②カリスト星 6P
宇宙局。カリスト星は木星の衛星であることが図解される。カリスト星は小さくな青白い星で空気も水もない。ところが、三度も探検隊を送ったが無事に帰れたものはいないという。
ここにカロルがパイロットの件で報告に来たのだが、科学者二人が意見をぶつけ合っている。
フェル博士・・・カリストには何か恐ろしい怪物が住んでいるのでは
チッペル博士・・・失敗は探検隊の準備不足
もともと仲が悪かったようで、激しい口論となるが、宇宙局長官が取りなし、二人で素晴らしいロケットを設計して欲しいと依頼する。とても一緒に仕事ができないと互いに苛立つ科学者二人。
この話を聞いたカロルは、自分もロケットの運転ができると言ってアクロバットな飛行を見せて、自分も探検隊に加えることを認めさせるのであった。
こうした科学冒険ものは、主人公の少年少女が冒険に加わるのは無理があるのだが、藤子作品ではさらりと同行メンバーに入ってしまう。

ちなみに「カリスト星」は実在の星で、木星の第4衛星である。大きさはガニメデに次ぐ二番目。直径は約4820キロ。水星よりも若干小さいくらいで、太陽系全体で12番目の大きさだという。かなりデカい衛星なのである。
空気も水もないと作中では語られているが、実際にはその後の観測で薄い大気があり、水もあるのではないかと言われている。
③でかちびロケット 6P
カロルにカリスト星探検のメンバー、グレッグ隊長とムック隊員が紹介される。長官と共に4人で、フェル博士とチッペル博士のロケットの様子を見に行くと、フェルが担当した頭の部分はでかく、チッペルが担ったしっぽの方はチビサイズと、見事にバラバラの形となっている。
どちらも譲らず、チッペル博士は堪忍袋の緒が切れて、勝手にカリストを探検すると言って出て行ってしまう。仕方が無いので、フェルが一人でロケットを作ることになる。
すると、先ほど出て行ったチッペルが、あり合わせのロケットを使って、いち早くカリストに向けて出発してしまう。
仲の悪さをロケットの形で表現するのは分かりやすくて良い。

④しゅっぱつの日 9P
カロル、フェル博士、グレッグ隊長とムック隊員の最小メンバーで「悪魔の星」へ出発。この人数・人選で大丈夫なのか、少々心配。
カロルたちが乗り込んだロケットが発射される。そこでは重力圏を脱出するためにG(重力)がかかる様子が丁寧に描かれる。まるでロケット発射の様子を見てきたかのようなSF描写で、藤子先生の力量に驚かされる。
宇宙空間に出ると、カロル(=子供)の視点で、宇宙空間が真っ暗なこと、船内が無重力状態でフワフワと浮き上がってしまうことが描かれる。自然と宇宙の知識が刷り込まれる。
靴のボタンを押すと磁石で床にくっつくことができる仕組み。これは現実はどうなのだろうか?
最新鋭のロケットなので、途中で先発したチッペル博士のロケットを追い抜いていく。悔しがるチッペルなのであった。

⑤星のジャングル 7P
続けて、火星と木星の間にある小惑星帯(メインベルト)を抜けていく。本作では「星のジャングル」と呼ばれ、小さな星がいっぱい浮かんでいるとても危ない場所と説明される。
実際はロケットが抜けるのが難しいほどの星の密度ではないだろうが、作中ではかなりの数の星が飛び交っていて、エンジン室にぶつかって修理が必要となってしまう。
自分が修理をすると言って、ロープもなく宇宙空間に飛び出すカロル。なかなか無鉄砲な性格であるらしい。

⑥カロルのしっぱい 8P
カリストに到着。グレッグとムックの二人だけが冒険に出掛けて、カロルと博士はお留守番。
一緒に行きたかったとヘソを曲げるカロルに、博士がチョコレートを渡してこれでも食べて気を直すよう言われるが、宇宙マスクを被っているので食べられない。とても自然な流れで、空気のない星にいることはどういうことかを読者に示す演出である。
また、引力が小さい星なので、ピョンピョンと飛び回ることができる。読者も喜ぶだろうシーンだが、調子に乗ったカロルは、飛び過ぎてクレバスに落ちてしまう。これがカロルの失敗である。

⑦はい色のせかい 5P
探検中のグレッグとムック。静かで不気味な地表を進む。すると一キロほど先に何かが動いているのが見える。
そろりと向かうと、チッペル博士のロケットが着陸している。近づくと、ロケットの脇に大穴が開いていて、中はグチャグチャ。何か、恐ろしいことが起こったようだ。
すると外から「わあっ」という悲鳴が聞こえてくる。いよいよ「悪魔」の正体が明かされる!
ここまで47ページ使っているが、まだ敵の正体が明らかにされない。ジワジワと読者の期待値を高めながら、クライマックスに向けて盛り上げていく構成となっている。
⑧10メートルのうで 17P
グレッグとムックが出掛けて1時間経っても連絡がないので、カロルが様子を見に行くことになる。たった一人の少年が見知らぬ星を探検に行くという、なかなか凄い展開となっているが、もはやここまでくると何の違和感も感じない。
夜の星を進むカロルは、
「まわりにいるのは星ばかり。僕も星になったみたいだ」
とロマンチックな感想を言う。
ピョンピョンと進んでいくと、その先に砂煙が見える。近づくと、砂の中から両手が突き出てカロルを掴む。驚き離れると、中からチッペル博士が姿を現わす。チッペルは、あっという間にロケットを壊され、他の乗組員たちはみんなやられたという。チッペルだけが、砂に潜って助かったのだという。
では、相手とは何者なのか? ここまで52ページ。まだまだ正体を明かさない。
シューシューと音がする。すると、今度は長い手が地中から何本も伸びてきて、二人に襲い掛かる。フェル博士の発明品の電気ピストルで応戦するが、腕の数が多すぎてキリがない。逃げまどって、小高い丘に登ると、グレッグとムックがいたので合流する。

二人が言うには、既に取り囲まれていて、手も足も出ない状態だという。チッペル博士は、腕のような化け物は、動物ではなく、植物であると見解を述べる。「ムシトリスミレ」のような食中植物で、人間たちを食べるつもりなのだと予測する。普段は何を食べているのかは不明だが。
腕の怪物が四方から4人に迫って来る。応戦するが、銃の弾が切れてしまい、絶体絶命のピンチ。すると空から液体のようなものが降ってきて、腕の化け物をフニャフニャにしてしまう。
フェル博士はロケットに乗って助けに現れたのだ。着陸したロケットに慌てて乗りこむカロルたち。間一髪、カリストからの脱出に成功するのだった。
カリストの謎は解けた。不仲だったフェルとチッペルは、互いに自分が意地っ張りだったことを反省して謝る。しかしここでも、自分こそが謝るべきだと意地を張ってしまう二人なのであった。
カロルは鼻唄を歌いながらロケットを運転する。隊員に探検はこりごりかと聞かれて、「とんでもない」と答える。そして、
「僕は星の子。大きくなったら、宇宙の果てまでも探検するんです」
と力強く、夢を語るのであった。
本作執筆時の藤子不二雄両先生は、まだ24歳。漫画の子は、まだ広い宇宙に飛び立ったばかりで、重力圏を抜けたあたりだろうか。その後二人は、大きく育って、漫画界の最高峰まで辿り着くのである。
初期作品を順番にレビューしてます。
