「モジャ公」初回完全解説!『宇宙へ家出』/Fキャラは家出する⑧
藤子キャラクターたちは、家出する。
シリーズ第8弾(=第一部完)は隠れた名作「モジャ公」から。
モジャラ・ドンモ・天野空夫のダメダメ3人組が、
ポンコツロケットに乗って、宇宙へ家出する!
まず皆様に問いたい。「モジャ公」を知っていますかと・・。
「モジャ公」とは何か? まずは藤子・F・不二雄大全集にも収録されている「モジャ公」についてのF先生の解説を見てみよう。(要点のみ)
・「モジャ公」は「21エモン」の二番煎じである。
・「21エモン」とは、F先生の定番手法であるありふれた生活環境に異分子を飛び込ませることから発想する生活ギャグマンガ。
・「21エモン」の生活環境が未来だったせいか、読者に受けなかった。
・書き残した材料はまだあったのに連載は終わってしまった。
・そのタイミングで新連載の話をもらい、了解のもと二番煎じを作った。
この中で重要なのは、「21エモン」には書き残した材料があるという点であろう。「21エモン」は21世紀のオンボロホテルつづれ屋を舞台とした生活ギャグマンガとしてスタートする。最初の頃は「異分子」である宇宙人が客としてホテルにやってきて、毎回騒動を起こすお話だった。
ところが連載が進んでいくと、21エモンたちが地球から宇宙へと飛び出して色々な星を巡るという珍旅行を描いたストーリーマンガとなる。日常に異分子が入るのではなく、自分たちが異分子となって宇宙(非日常)に飛び込んでいく形式となった。
ただこの旅行路線はそれほど盛り上がらずに連載が終わってしまう。「宇宙旅行編」は、行く先々の星の世界観のユニークさと、地球での常識が全く通じない恐怖が交わった傑作シリーズである。是非この「宇宙旅行編」については近日中に記事を執筆したい
こうした連載の経緯から、藤子先生が語る「21エモン」における「書き残した材料」とは、この「宇宙旅行」の部分を指すものと思われる。
作者自ら「モジャ公」は二番煎じと公言しているように、似ている点が非常に多い。まず宇宙を旅する3人組が、少年(21エモン・空夫)・宇宙生物(モンガー・モジャ公)・ロボット(ゴンスケ・ドンモ)であること。星々を移動していくストーリー仕立ての展開であること。地球の常識が全く通用しない宇宙の恐怖をさらりと描いている点、などである。
異なる点は、空夫が現代(1970年頃)人であること、旅のきっかけが「冒険心」から「家出」となったことだろう。
「21エモン」は「見知らぬ宇宙を知りたい」という前向きな欲求で旅立つが、「モジャ公」は「家よりはマシ」という後ろ向きな理由となっている。作品全体が壮大な「家出」となっているのである。

「モジャ公」最大の魅力は、空夫たちが旅する星々のユニークな世界観や風変わりな宇宙人たちである。その魅力については稿を改めて考察していくこととして、本稿では出発の原点となった初回『宇宙へ家出』を検証しておきたい。
「モジャ公」『宇宙へ家出』
「週刊ぼくらマガジン」1969年1号・2号
本作の掲載誌は講談社の「週刊少年マガジン」の弟分として刊行された「週刊ぼくらマガジン」である。対象年齢は小学校の低学年向けで、創刊号から連載されている。
ただ同時に連載されている作品が「タイガーマスク」や「天才バカボン」という一癖あるものだったこと、「モジャ公」自体もかなりホラーな描写も含まれるので、「週刊ぼくらマガジン」の対象年齢が低学年と聞いて正直驚いた。
また、すっかり小学館作家となっていたF先生としては、講談社で週刊連載をするという珍しいタイプの作品でもある。
本作は雑誌掲載時と単行本収録時で大幅な改定が行われている。そのあたりを整理しておこう。
シリーズのスタートとなる『宇宙へ家出』は全2回で描かれたオープニングエピソードだが、単行本では第一回目の後半を書き直し、第二回目を全面的カットして収録された。第二回目をカットすることでお話がうまく繋がっていない現象が起きているので、これについては後ほど触れる。

まずは単行本バージョンを見ていく。
冒頭、広い宇宙の描写から始まる。何者かが何かを探しているようだ。何者かの視点は地球に移ってくる。地球については「文化レベル0.3、星間連合にも入っていないの未開の星」だと語られている。
続けて、地球のある少年にフォーカスが当たる。どうやら探し求めていた男であるようだ。少年の名は天野空夫。名前(フルネーム)は作中では出てこないが扉絵で紹介されている。
空夫は悩み深い表情で「どっかへ消えてしまいたい」と欠伸をする。なんかスカッとすることはないかと思っていると、そこにピテカンという不良少年が子分二人を連れて歩いてくる。このピテカンが「ピテカントロプス」から取られたかどうかは不明である。
なぜか空夫とピテカンは睨み合いとなり、殴り合いの喧嘩へと発展するが、見事に撃退され、これで99回連続敗北となるらしい。負けると分かっている喧嘩をしても懲りる様子を見せない変人である。
「どこかに何かこうぞくぞくするような面白いことないかね」と女の子の友だちに語るほど、ワクワクを求めている様子が伺える。
ちなみに話しかけている女の子はしずちゃんに酷似している。とてもかわいい外見だが、本作ではほとんど出番が無かったので、直後に連載が始まった「ドラえもん」で復活させたのかもしれない。

空夫の家は団地の二階。部屋に入るとかあさんがいないことにホッとする。どうやらテストで0点を取ったのでどう説明しようか悩んでいるようである。冒頭からため息交じりだったのは、そういう理由からであった。
そこへママが帰宅。先生に何回叱られたか聞いてくるので、「一回」だと答えると「優秀じゃない?」と誉めてくる。だいぶ不出来な子のようである。少年は0点のことをきりだそうとするが、かあさんは「宿題やっときなさい」だけ告げて台所に行ってしまう。
少年は言い出せなかったので、仕方がないとテストを丸めてくずかごに捨ててしまう。この切り替えの良さは、Fキャラとしては少し珍しい設定かもしれない。

と、ここまでの空夫の怠惰な姿を見ていた何者かたちは、すっかり空夫を気に入ってしまったようだ。そして「耐久力テスト」と称して、空夫を部屋中に飛ばしてボロボロにする。空夫の体の強さを調べたようである。
空夫が飛びまわったことでにゴミ箱から0点の答案が散らばり、部屋の掃除に現れたかあさんに見つかってしまう。答案を捨てたということでママは激怒。説教が始まって嫌になったところで、手元に謎のボタンが転がってくる。これを取って押すと目の前のかあさんが止まってしまう。
そこへようやく二人のキャラクターが姿を現す。宇宙生物のモジャラとロボットのドンモである。二人は一緒に家出する人物を探していていて、同じような境遇の人を求めていたのだ。その境遇とは、何をやっても叱られてばかりで世の中が嫌になっている人であるという。

空夫はまず動きが止まってしまったママについて、何をしたんだと問い質すと、「タイムロック」を押したので時間の流れが止まったのだという。そして有無を言わさず空夫をロケットへと引きずっていく。そして乗り込んだかと思うと、あっという間に宇宙へと飛び出してしまう。
家出したい、消えたいと空夫が呟いていたので、一緒に宇宙へ旅立つことは了解済みだというわけである。空夫は当然大慌て。「宿題をやってない、親が心配する」と、もう一度地球に戻してくれるよう頼みこむ。
「宇宙に家出とは極端すぎる」と家に帰る空夫。モジャ公やドンモは「気が変わったら戻ってこい」と告げる。そして帰宅し、タイムロックを解除すると、再びママの猛烈なお説教が始まってしまう。それを受けて空夫は「やっぱり宇宙に行くぞ!」と家を飛び出すのであった。

と、ここまでが単行本バージョンの初回である。しかし、雑誌掲載版では初回の後半が少し違う。タイムロックの効果を確かめるために一度町を歩いているシーンが描かれている。
町では世界中が凍り付いたように誰も動いていない。そこに止まっているピテカンたちを見つける。空夫はこれまでの99回分のお返しだとばかりにピテカンたちをボコボコにしてしまう。

続けて、単行本では全面カットされた第二話についても補足しておこう。
空夫は家出をする前にまずは月にでもテストドライブして欲しいと頼む。するとロケットは一瞬で月に到着。外に出ると真空空間なので空夫はコテンと気絶してしまう。
そこでドンモが空夫に「適応カプセル」を飲ませて復活させる。このカプセルは、真空・熱さ・寒さ・高圧に耐えることができるようになる薬で、話もテレパシーでできるようになる優れもの。

単行本では適応カプセルを飲ませるシーンをカットしているため、二話目以降で空夫が宇宙空間にそのまま存在できる点が説明できていない。
月ですったもんだがあった後、空夫は宇宙旅行の準備をするために一度帰宅する。家ではママは寝ているが、タイムロックを解くと「宿題やっとくんですよ」と寝言を言う。それを聞いた空夫は家出の前に宿題だけを済ませるというオチに繋がっていく。

実は「モジャ公」の最終回エピソードで空夫は地球に戻ってくるのだが、ママが寝ているシーンで時間が止まったままとなっている。(地球だけ時間が止まっていた?)
単行本ではこのシーンがカットされているので、地球に帰ってきた空夫がママが寝言を聞いて「昔の通りだ」と呟くセリフの意味合いが伝わらなくなっている。

初回の大幅改変によって、①適応カプセルの存在②ママの寝言の意味 が失われてしまったことは少し残念ではある。そうした事情を考慮して大全集ではカットしたバージョンも掲載したのかもしれない。(そうではないかもしれないが・・)
さて、全8回に渡る「家出」編はこれにて終了。改めて振り返るとママ(パパ)に叱られて家出するパターンのいかに多いことか。実の子供には明日から優しく接してあげようと、少しだけ反省して記事を終えたい。
藤子作品を色んなテーマで語ってます!
