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君が、スピカに会う頃には。

仕事から家に帰ってくると、窓を開けて換気をする。
昼間に籠った熱が、外へと流れてゆく。

扇風機を回す。
滞留した空気が、少しずつ動き出す。

「ふぅーーーーー。」
今日も一日を無事に終えることができた。
最近は、気を張りながら仕事をしていることが多いので、カバンを床に下ろすと同時に、
ようやく溜まった疲れに体が気づく。

少し黄昏たい気分だ。
カーテンから外を覗いてみると、久しぶりに月が見えた。
その近くで金星と木星がキラキラと瞬いている。
最近は、夜になっても晴れることが少なかったので、こうして夜空を見上げることは、久しぶりだな。

点滅する青の信号機が、視界に入る。
小走りすれば、渡り切れそう。
なんて考える日だから、ちょっと余裕がないんだろうな。
でも、普段の僕はせっかちな一面もあるので、たいして変わらないか。

夜空を飛んでゆく飛行機。
ついでに、僕の抱えすぎた荷物も載せていって欲しい。

飛行機が進んでゆく方角を辿ってゆけば、
そこに一つだけ小さく輝く星が。

─── 『アークトゥルス』だ。
うしかい座の一等星である。

思わず見惚れてしまう。
ここまでギラギラとした街中からでも、ハッキリと見ることができる。
全天で4番目に明るい星だという。

久しぶりの星空鑑賞に、少し感傷的になってきた。
僕から君の光は感じられるけれど、
君からは僕のこと分からないんだろうな。
それは当たり前のことなんだけどさ。

このアークトゥルスは、実はこの宇宙を旅している。
とんでもなく速いスピードで、夜空を走り抜けているという。
いつの日にか、アークトゥルスはこの夜空から姿を消してしまう。
まぁ、その時には僕はここ地球には居ないだろうけれど。
でも、それでいいと思っている。

すぐ近くには、おとめ座の一等星『スピカ』がいるらしい。
それでも、この街からは見ることができない。もっと静かな場所に行かなければ。

今のアークトゥルスは、このスピカを目指して移動している。
いずれは、スピカの隣までやってくるという。

この2つの輝く星。
遥か昔の人は、『夫婦星』と呼んだ。
互いを見つめ合うように静かに佇む姿から、そう名付けられたのだろうか。
とてもステキな呼び方だ。

星と星に物語があるように、
僕らの人生にもストーリーがある。

もし今の自分が真っ暗な夜空に隠れてしまっているのなら、
アークトゥルスのように、駆け抜けてみればいい。
太古の時代にはきっと、この地球に彼の光は届いてなかったはずだから。


────しばらくすると、おぼろ雲の中に隠れてしまった。
今夜の星空鑑賞は、これにて終わり。

来週からは、雨の日が続くから、
またしばらくは見上げることもないのかな。
星を見れないのは、やっぱり寂しい。

月がそこにいてくれるだけで、
僕はきっと知らぬうちに、救われていたんだろうな。

あの分厚い雲を、飛行機ならすり抜けていけるのだろうか。
それでも星空を見るために、飛行機に乗る人間はいないか。

信号が青に変わり、しばらくして点滅する。
「あ、今なら立ち止まれそうだ。」

またね、アークトゥルス。

君がスピカに会う頃、僕はもういないけれど。
それでも今夜、君に会えてよかった。

窓を閉める。
扇風機が、ひとり静かに首を振っている。







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