#438 飛行機のハイジャック犯はどこの国の法律で裁かれる?
映画やニュースで飛行機のハイジャック事件を見たとき、
「犯人はどこの国の法律で裁かれるのだろう?」
と疑問に思ったことはないでしょうか。
例えば、
日本からアメリカへ向かう飛行機
機体は日本の航空会社
犯人は第三国の国籍
事件が起きた場所は太平洋上
このようなケースでは、空の上には国境線がありません。
では、犯人は日本の法律で裁かれるのでしょうか。
それとも、犯人の母国なのでしょうか。
その答えをたどると、国際法の仕組みが見えてきます。
基本は「属地主義」
通常、犯罪は「属地主義」という考え方に基づいて裁かれます。
属地主義とは、
「犯罪が行われた場所の法律を適用する」
という考え方です。
例えば、日本国内で窃盗事件が起きれば、日本の刑法によって裁かれます。
これは世界の多くの国で採用されている原則です。
しかし、飛行機のハイジャック事件では問題があります。
それは、
「空の上には明確な国境がない」
ことです。
特に国際線が公海上を飛行している場合、単純に属地主義を適用することができません。
そこで登場するのが、「旗国主義」という考え方です。
飛行機は「登録された国の領土」とみなされる
船には国籍があるように、飛行機にも国籍があります。
正確には、
「どの国に登録されているか」
が決まっています。
国際法では、飛行機は登録国の管轄下にあると考えられています。
つまり、日本に登録された航空機は、空の上でも日本の法律が適用されるのです。
例えば、日本航空や全日空の飛行機でハイジャック事件が起きた場合、公海上であっても日本が裁判権を持つことになります。
これを「旗国主義」と呼びます。
船が掲げる国旗によって国籍を示すことから、この名前が付いています。
ハイジャック対策のために国際条約が作られた
しかし、航空機の登録国だけで問題が解決するわけではありません。
犯人が別の国へ逃亡した場合、登録国だけでは対応が難しいことがあります。
そこで各国は、ハイジャック事件に対応するための国際条約を整備してきました。
まず1963年に採択されたのが「東京条約」です。
東京条約では、
航空機の登録国に裁判権があること
機長が犯人を拘束する権限を持つこと
などが定められました。
しかし、1960年代後半になると国際的なハイジャック事件が急増します。
そこで1970年に採択されたのが「ハーグ条約」です。
ハーグ条約では、
「ハイジャック犯を引き渡すか、自国で裁くか」
という原則が定められました。
つまり、
「犯人をかくまってはいけない」
というルールを国際社会全体で共有したのです。
さらに1971年のモントリオール条約では、航空機の爆破や空港施設への攻撃など、ハイジャック以外の航空テロについても国際的な処罰の枠組みが整備されました。
東京条約、ハーグ条約、モントリオール条約は、それぞれ、
機内犯罪
ハイジャック
航空テロ全般
を対象としているのです。
これによって、犯人が特定の国へ逃げ込んで処罰を逃れることが難しくなりました。
着陸した国が裁くこともある
実際の事件では、航空機の登録国だけでなく、着陸した国が犯人を裁くこともあります。
例えば、
飛行機がどの国に登録されているか
犯人の国籍
被害者の国籍
どこの空域で事件が起きたか
どこの国へ着陸したか
など、さまざまな要素を考慮して決定されます。
そのため、
「必ず登録国が裁く」
とは限りません。
複数の国が裁判権を持つ場合もあるのです。
その際は、関係国同士で協議し、どの国が起訴するかを決めます。
実際のハイジャック事件ではどう裁かれたのか
では、実際の事件ではどこの国が犯人を裁いたのでしょうか。
パンナム73便ハイジャック事件(1986年)
アメリカのパンナム機が、パキスタンのカラチ空港でハイジャックされました。
犯人たちはパキスタン当局によって逮捕され、まずパキスタンの法律で裁かれました。
その後、主犯格の一人はアメリカへ移送され、アメリカでも裁判を受けています。
関係国ごとに異なる犯罪事実について裁判が行われたのです。
つまり、
着陸国であるパキスタン
登録国であるアメリカ
の双方が関与したケースです。
よど号ハイジャック事件(1970年)
日本航空351便が、日本赤軍によってハイジャックされた事件です。
犯人たちは北朝鮮へ向かいましたが、後に逮捕・帰国したメンバーは日本で裁判を受けました。
日本の航空機だったこと、日本人による犯罪だったことが大きな理由です。
9.11同時多発テロ(2001年)
アメリカ国内線4機がハイジャックされ、大規模テロに発展しました。
事件はアメリカ国内で発生し、航空機もアメリカの航空会社でした。
そのため、捜査・裁判はアメリカの法律に基づいて進められました。
この事件をきっかけに、世界の航空保安体制は大きく変わったのです。
船舶の海賊事件はどうなるのか
ここで気になるのが、
「船の場合はどうなるのか」
という点です。
基本的な考え方は飛行機と同じです。
船も「どの国に登録されているか」が決まっており、登録国の法律が適用されます。
これも旗国主義です。
ただし、海賊行為には大きな特徴があります。
海賊行為には、例外的に「普遍的管轄権」が認められています。
海賊は国際社会全体に対する犯罪と考えられているため、どの国でも取り締まり、裁くことができるのです。
例えば、ソマリア沖で海賊が日本の船を襲った場合、
日本
船籍国
犯人を拘束した国
など、複数の国が裁判権を持つ可能性があります。
ハイジャックと海賊行為は、どちらも国境を越えて発生するため、国際協力が欠かせないのです。
空の上にも法律はある
空の上には国境線がありません。
しかし、法律が存在しないわけではありません。
飛行機には国籍があり、国際条約によって各国の協力体制も整備されています。
そのため、ハイジャック犯が
「空の上なら逃げ切れる」
ということはありません。
むしろ、ハイジャックは国際社会全体で厳しく取り締まられている犯罪なのです。
普段何気なく乗っている飛行機。
その安全は、各国の法律だけでなく、国境を越えた国際的なルールによって支えられています。
空の上の出来事を考えると、私たちが暮らす世界が思った以上に複雑な仕組みでつながっていることが見えてくるのです。
【目次】
