#468 アフリカは日本よりキャッシュレスが進んでいる?~アフリカが「スマホ大陸」と呼ばれる理由~
日本ではコンビニやスーパーで交通系ICカードやQRコード決済を利用する人が増えています。それでも、現金払いはまだまだ身近な存在です。
一方、アフリカには「財布を持たず、携帯電話だけで生活する人」が珍しくない国があります。
しかも、その多くは銀行口座やクレジットカードを持っていません。
「銀行口座がないのに、どうやってお金をやり取りするの?」
そう思うかもしれません。
実はサハラ以南アフリカでは、「モバイルマネー」と呼ばれる仕組みが急速に普及し、送金や買い物、公共料金の支払いまで携帯電話一台で行えるようになっています。
現在では、この地域が世界最大のモバイルマネー市場となっており、「スマホ大陸」と呼ばれることもあります。
なぜアフリカでは、このような独自のキャッシュレス社会が発展したのでしょうか。
アフリカのキャッシュレスは日本とは順番が違う
日本では、まず銀行口座を作り、キャッシュカードやクレジットカードを持ち、その延長線上でスマホ決済が広がりました。
つまり、
銀行口座 → カード → スマホ決済
という流れです。
一方、アフリカの多くの国では違いました。
銀行支店やATMが十分に整備される前に、携帯電話が急速に普及したのです。
そのため、
携帯電話 → モバイルマネー → 金融サービス
という、日本とは逆の順番でキャッシュレス社会が発展していきました。
このように、古い技術を飛び越えて新しい技術へ一気に移行する現象は
「リープフロッグ(Leapfrogging)現象」
と呼ばれます。
アフリカのモバイルマネーは、その代表例として世界中で研究されています。
「モバイルマネー」というアフリカ流キャッシュレス
アフリカのキャッシュレスを語るうえで欠かせないのが「モバイルマネー」です。
これは携帯電話番号を財布代わりにして、お金を送ったり受け取ったりできる仕組みです。
代表例が、2007年にケニアで始まった「M-Pesa」です。
利用方法はとてもシンプルです。
まず、町中にある代理店へ現金を持って行きます。
代理店が携帯電話を操作すると、その金額が自分のモバイルマネー口座へチャージされます。
その後は、相手の電話番号を入力するだけで送金でき、買い物や公共料金の支払いにも利用できます。
ケニアには数十万か所もの代理店があり、「銀行支店よりもモバイルマネーの窓口の方が近い」という地域も少なくありません。
現在、サハラ以南アフリカは世界最大のモバイルマネー市場となっており、世界の口座数・取引額の多くを占めています。
なぜ銀行より携帯電話が先に広がったのか
その背景には、アフリカならではの事情があります。
多くの国では長い間、銀行支店やATMの数が少なく、農村部では口座を作るために何時間も移動しなければならない地域もありました。
一方で、携帯電話は基地局さえ整備すれば利用できます。
さらに、プリペイド式のSIMカードが普及したことで、高額な契約を結ばなくても必要な分だけ料金を支払って利用できるようになりました。
現在では、携帯電話の契約数が人口を上回る国もあります。これは、一人で複数のSIMカードを使い分ける人が多いためです。
こうして、多くの人にとって
「銀行口座を持つ」よりも
「携帯電話を持つ」
方がはるかに身近なものになりました。
その結果、銀行を経由せず、携帯電話が金融インフラの役割を果たすようになったのです。
モバイルマネーが社会を変えた
モバイルマネーが普及すると、その上にさまざまなサービスが広がりました。
例えば、
・公共料金の支払い
・農産物の売買代金の受け取り
・家族への仕送り
・タクシーやバスの料金支払い
などが携帯電話だけで行えるようになりました。
さらに近年では、少額ローンや保険、ネット通販なども利用できるようになっています。
取引履歴がデータとして残るため、それまで銀行から融資を受けにくかった人でも、信用を証明しやすくなったという効果もあります。
日本では銀行やカードが土台となってキャッシュレスが広がりました。
一方、アフリカではモバイルマネーが土台となり、その上に金融サービスが発展してきました。
同じキャッシュレスでも、歩んできた道のりは大きく異なります。
「スマホ大陸」にも課題はある
もちろん、課題もあります。
都市部と農村部では通信環境に差がありますし、高齢者や女性など、十分に利用できない人もいます。
また、詐欺や不正送金への対策、デジタル金融に関する知識を広めることも重要です。
さらに、一つの通信会社やサービスに依存しすぎることへの懸念も指摘されています。
それでも、これまで金融サービスを利用できなかった人々が、携帯電話一台で送金や貯蓄、支払いを行えるようになった意義は非常に大きいと言えるでしょう。
おわりに
日本では長く、アフリカを「インフラが遅れた地域」と考える人も少なくありませんでした。
しかし、キャッシュレスという視点から見ると、そこには全く違う姿が見えてきます。
アフリカは、銀行やクレジットカードを十分に普及させる前に、携帯電話を金融インフラへと発展させました。
これは「遅れていた」のではなく、別のルートで未来へ進んだ例とも言えます。
私たちは「先進国」「発展途上国」という言葉で世界を見がちです。
しかし、一つのテーマだけを見れば、未来を先に体験しているのは必ずしも先進国とは限りません。
アフリカが「スマホ大陸」と呼ばれる理由を知ることは、世界を見る視点そのものを少し変えてくれるのかもしれません。
【目次】
【参考】
・JICA「アフリカの今を知る」https://www.jica.go.jp/Resource/publication/mundi/1902/ku57pq00002hxl7o-att/03.pdf
