#469 エビの養殖で森が消える?~マングローブ林が減った理由~
スーパーや回転寿司で見かけるエビ。
日本では天ぷらやエビフライ、お寿司など、身近な食材の一つです。
しかし、そのエビを育てるために森が切り開かれていると言われたら驚く人も多いのではないでしょうか。
実は東南アジアでは、エビの養殖が広がる一方で、「マングローブ林」と呼ばれる森林が大きく減少しました。
なぜ「エビ」と「森」が関係しているのでしょうか。
その背景を知ると、私たちの食卓と遠く離れたアジアの環境問題が、意外なほど深くつながっていることが見えてきます。
マングローブ林とは?
まず、「マングローブ」とは一本の木の名前ではありません。
海水と川の淡水が混ざり合う河口や海岸に生える樹木の総称です。
インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンなど、東南アジアには広大なマングローブ林が広がっています。
この森林は、単なる「海辺の森」ではありません。
例えば、
・魚やカニ、エビなどの産卵・生育場所になる
・海岸が波で削られるのを防ぐ
・高潮や津波の勢いを弱める
・二酸化炭素を大量に吸収・貯蔵する
など、自然環境にとって非常に重要な役割を果たしています。
そのため、マングローブ林は「海のゆりかご」と呼ばれることもあります。
エビ養殖が急速に広まった
1970~1980年代になると、日本やアメリカ、ヨーロッパでエビの人気が急速に高まりました。
天然のエビだけでは需要を満たせなくなり、東南アジアでは輸出用のエビ養殖が盛んになります。
エビ養殖は外貨を稼げる産業として期待され、多くの国で急速に広がっていきました。
しかし、養殖池を造るには
・海に近い
・平らな土地
・海水を引き込みやすい場所
が必要です。
この条件に最も適していたのが、マングローブ林だったのです。
なぜマングローブ林が伐採されたのか?
マングローブ林を切り開けば、比較的短期間で養殖池を造ることができます。
さらに、養殖したエビを海外へ輸出すれば高い収益が期待できました。
そのため、多くの地域で森林を残すよりも、養殖場へ転換する方が経済的に有利と考えられるようになります。
結果として、東南アジア各地で広い面積のマングローブ林が失われました。
もちろん、森林減少の原因はエビ養殖だけではありません。
都市開発や農地への転換などもあります。
それでも、エビ養殖はマングローブ林減少の大きな要因の一つと考えられています。
森がなくなると何が困る?
マングローブ林が失われると、さまざまな問題が起こります。
まず、魚やカニなど多くの生き物が育つ場所が減ってしまいます。
その結果、周辺の漁業にも影響が及ぶことがあります。
また、海岸を守る働きが弱まるため、波による侵食が進みやすくなります。
さらに、高潮や津波への防災機能も低下します。
2004年のスマトラ沖地震では、マングローブ林が残っていた地域の方が津波被害が比較的小さかったという研究も報告されています。
近年では、気候変動との関係でも注目されています。
マングローブ林は森林の中でも特に多くの二酸化炭素を蓄える能力があることから、「ブルーカーボン」を支える重要な生態系として世界的に保全が進められています。
環境に配慮した養殖も広がっている
もちろん、現在のエビ養殖がすべて環境破壊につながっているわけではありません。
近年では、マングローブ林をできるだけ残しながら養殖を行う方法や、水質管理を改善した持続可能な養殖が広がっています。
また、「ASC認証」のように、環境や地域社会へ配慮して生産された水産物を認証する制度も整備されてきました。
さらに、失われたマングローブ林を回復させるため、東南アジア各地では植林活動も進められています。
インドネシアやベトナム、タイなどでは、政府や地域住民、国際機関が協力し、海岸沿いにマングローブを植え直す取り組みが続けられています。
マングローブ林は魚介類のすみかになるだけでなく、高潮や津波から海岸を守り、二酸化炭素を吸収する重要な役割も担っています。
そのため近年は、「環境を守る森林」としてだけでなく、地球温暖化対策につながる「ブルーカーボン」の一つとしても世界中から注目されています。
環境保全と産業を両立させる取り組みは、少しずつではありますが着実に広がっているのです。
日本とのつながり
この問題は、決して東南アジアだけの話ではありません。
日本は世界有数のエビ輸入国です。
スーパーや回転寿司で食べているエビの多くは、東南アジアや南アジアで養殖されたものです。
つまり、私たちが日常的に食べているエビと、マングローブ林の環境問題は無関係ではありません。
もちろん、「エビを食べることが悪い」というわけではありません。
大切なのは、私たちの食生活が世界の環境や産業とつながっていることを知ることです。
環境に配慮した認証付きの商品を選ぶことも、私たちにできる一つの行動と言えるでしょう。
おわりに
「エビの養殖で森が消える?」
一見すると結びつかないように思えるこの二つには、実は深い関係がありました。
東南アジアでは、世界中の需要に応えるためエビ養殖が発展しました。
その一方で、養殖池を造るためにマングローブ林が失われ、生態系や防災、地球温暖化にも影響が及ぶようになりました。
そして、この問題は日本とも無関係ではありません。
私たちが普段何気なく食べているエビは、遠く離れたアジアの自然や人々の暮らしとつながっています。
社会科では「マングローブ林は熱帯の海岸に広がる森林」と学びます。
しかし、その先にある環境問題や私たちとのつながりまで考えると、地図帳の中の知識が、ぐっと身近なものに感じられるのではないでしょうか。
【目次】
【参考】
