見出し画像

自撮りの効能

今月、通りすがりの東京駅前で、T3 PHOTO FESTIVAL 2025が開催されていました。それで、思い出したのですが、昨年のT3 PHOTO FESTIVAL 2024で目にした作品が発端で、まわりまわって、近ごろわたしは自撮りの効能を実感しています。

T3 PHOTO FESTIVAL 2024

昨年の10月のある日。東京駅の近くのビルを通りすがった時、T3 PHOTO FESTIVAL2024という写真のイベントが開催されていました。イベントの期間中、東京駅を中心に、あちこちのビルの中やその合間で、多くの写真を展示していることを知りました。都会のビルの合間で、面白い展示方法で、そして無料で、多くの素敵な作品を観る機会に恵まれました。

ミッドタウン八重洲から 2024


土田ヒロミ「愛知・一色黒沢」

さて、この時、ミッドタウン八重洲の屋外で始めて目にした写真家土田ヒロミさんの「愛知・一色黒沢」(1969年)という作品がとても印象に残りました。作業着を着た4人の男女が、木陰でお酒を飲みながら、ごろりんと横になって和む様子を写した一枚でした。4人の緩んだ自然な表情が、なんだかとってもいいな、と思ったのです。素人なので、難しい感想はありません。ただ、素直になんだかとっても良いな、と思いました。写真は平面です。それに、その作品はモノクロで、1969年と今から50年以上も前に撮られたものですが、大きなその写真を観ているわたしも、まるでその木のそばで、4人と一緒に団らんしているかのような感覚になりました。土田さんは、カメラを通して記録しているわけですが、カメラの隔たりがないような、感覚を覚えました。よく、雑誌や本の中には、「カメラ越し」とか「ファインダー越し」とかカッコよく書いているのを目にしますが、カメラもファインダーも存在しないような、そんな感覚でした。

「愛知・一色黒沢」を見てから、その写真が掲載されている写真集を見たくなり、先ずは近所の図書館を探してみました。でも、残念ながら見つかりませんでした。その後、恵比寿の写真美術館の図書館になら置いてあるだろうし、一般人でもその図書館を利用できる、という朗報を耳にしました。早速、写真美術館の図書館へ行ってみると、「愛知・一色黒沢」が掲載されている、土田ヒロミさんの『俗神』という写真集を閲覧することができました。写真集から、日本の急速な経済成長が、日本にあった土着のものを侵食していく様を記録に残したいという土田さんの思いを知りました。その後も、土田さんのことが気になり、少しずつ作品や情報を気にして見るようになりました。


さて、わたしは、ネットストーカーやらなりすましやら、サイバートラブルに数年、悩まされていました。2025年の2月頃からは、リセットのために、LINEを含むSNSのほぼ一切を止め、できるだけ、スマホを使わないように、ひっそりと過ごすようにしていました。情報収集は、自主的なネット検索、街の掲示板、本屋、図書館、チラシなど、限られた中でしていました。そんなアナログに近い生活をしていたのですが、たまたま乗った大江戸線の車両が、六本木駅に停まった時だったか、珍しく六本木を訪れた時だったか、フジフイルムギャラリーで開催されるという土田ヒロミさんの写真展『俗神』の大きなポスターに遭遇し、これは行かねば!と、頭にインプットしていました。

3月末、写真展『俗神』の初日、フジフィルムギャラリーを訪れたところ、土田さんご本人が外国のテレビのインタビューを受ける様子を目の前で見学する機会にめぐまれました。土田さんは、外国人記者を前に、とても楽しげにお話しされていました。ご年齢は80代とのことでしたが、エネルギーに満ち満ち、気さくで愉快な印象を受けました。わたしも、どさくさに紛れて記念写真を一緒に撮っていただき、元気をもらいました。

さらにその後、5月には、自由参加の『俗神』ギャラリートークへ足を運び、作品への思いや、土田さんがとらえる日本人らしさというものをついて直接質問をさせていただく機会にも恵まれました。土田さんは、やっぱりここでも、多くの来場者を和やかなムードへ一気にとりこむ、そんなエネルギーに満ちた、愉快な写真家さんでした。

カメラでもって、写真を撮るのが写真家ですが、土田さんご本人が、周囲の人を和ませるというか、被写体と融和していくエネルギーに満ちていて、だからこそ、あの「愛知・一色黒沢」から感じた、観ているわたしもその作品の世界にいるかのような感覚にさせる写真が撮れるのかしら?と、思うようになりました。

土田さんは、わたしが小さい頃にテレビで見た動物学者のムツゴロウさんのようです。ムツゴロウさんが、はじめて出会う動物に近寄っていって、ベロベロ舐められたり、甘噛みと本噛みの際どいラインさえ動じないで、ニコニコと懐に入り込むと、どんな動物とも仲良しになっちゃうアレです。土田さんは、その場にいる人と上手いこと融和してしまう、そんなお人柄だから、カメラ越しではない、ファインダー越しではない、そのような写真をお撮りになるような気がしています。


セルフポートレートからスマホの自撮り

ギャラリートークでは、土田さんがこれまで取り組んでこられた、ヒロシマの遺品を撮影した作品について、そして、長らく毎日(?)撮影されているというセルフポートレートについてのお話しをお聞きしました。土田さんには、双子のご兄弟がいらっしゃって、ポートレートを通して気づいた双子の相対的な不思議なお話しも、興味深いものでした。

土田さんのセルフポートレートのお話から、わたしは、街で熱心に自撮りをする外国人や日本人の女子たちを思いました。写真家の土田さんが撮るセルフポートレートとあちこちで見かけるスマホの自撮りでは次元が違う!と、専門家の人には怒られてしまうかもしれませんが、わたしはそう連想しました。それまでわたしにとって、自撮りは理解できない世界でした。

(なんで、そんなに自分を撮りたいの?)

と、少しバカにしたような感情がありました。でも、今思うと、それは、どこか自信のないわたしの奥底に潜む、自信がある人を羨ましく思う感情からだったようです。

わたしは、少し前から、敢えてやったことのないことをしてみたり、行ったことのない場所に行ってみる生活をするようになり、これまでには無かった、多くの発見や気づきが得られるようになりました。

そんな中、人生イチ身体と向き合ってやってみたダイエットの名残りで、食事をスマホで記録し続けていたのですが、土田さんのセルフポートレートとそれから連想した街の自撮り女子をきっかけに、今年の6月頃から食事と一緒に自撮りを敢行してみることにしました。もろん、もういい歳ですから、自宅で食事をするときに限ります。

外見に自信がなく、できればあまり写真に写りたくない、と思って長いこと過ごしてきたわたしにとって、自宅で誰もみていないにも関わらず、自撮りのハードルはとても高いものでした。腕をどう伸ばして、どの指でシャッターボタンを押すのがいいのか、考えることからスタートでした。食事と自撮りをはじめた頃の写真を、今振り返って見てみると、まるで、石ころのような顔をしています。きっと誰しもそうだと思いますが、スマホで自撮りをすると、自然とその写真を自分で見直します。すると、

(ええーっ!こんな硬い表情なの?髪は乱れていていいの?眉毛が欠けたままでいいの?)

という、自分に対する感想が生まれ、その感想は、

(せっかくならニカっと笑ったら?髪は整えた方がよくない?眉毛もちゃんと足してみたら?)

という、自分に対するアドバイスへと変化をし始めました。

そのうちに、今日は美味しい海苔の佃煮の瓶を開けます!となれば、瓶詰めの宣伝広告のような写真を自撮りをしたり、と自宅での食前、密かに遊ぶようになりました。(ここに書いてしまいましたから、もう密かではなくなってしまいました。)最近は、わざと変な顔をしてみるようにもなりましたし、若干出てきた額の皺を見ても、多少の悲しみはあるものの、そこを笑いに変えられます。年齢を重ねて図々しくなったこともあるでしょうが、4ヶ月ほど、この遊びを生活に組み込んだことで、自撮りの効能は大いにあると感じています。引け目に感じがちな年齢や、見た目のコンプレックスを蹴ちらす、元気が湧いてきたような気がします。

自分でも、たった4ヶ月の変わりようがとても面白い。最初はまるで、石ころのような硬い表情の写真でしたが、近ごろの写真をみると、自分の写真なのにぷぷぷ、と笑ってしまうこともしばしばです。もしかしたら、自撮りの回数を重ねる毎に、ちまたでよく聞く“自己肯定感”というものが、わたしの中でメキメキと爆上がりしているのかもしれません。

さて、ここにきて、改めて、セルフポートレートを撮り続けておられる写真家の土田ヒロミさんを思うと、土田さんのエネルギーの源は、もしかしたら、長らくお撮りになっているセルフポートレートも一役買っているように思います。違うかもしれませんが、勝手にそう思っています。毎日毎日、ご自身の写真を撮ってそれを見ることで、毎日自然とご自身と向き合うことになり、“自己肯定感”なるものが、ものすごい高さを保っていらっしゃるような気がしてなりません。

わたしが、写真家の土田ヒロミさんと同じ時代を生きていて、直接ご本人にお会いし、作品についてお聞きできたことは、とても面白くて、幸せなことです。もしも、また土田さんにお会いするチャンスがやってきたならば、今度はセルフポートレートを撮ることで、ご自身にどんな変化が起きたのか?直接お聞きしてみたいところです。もしやセルフポートレートも、エネルギーの源なのではありませんか?と。


いいなと思ったら応援しよう!

くりたなお よろしければ応援お願い致します! 頂いたチップは、取材などの活動費に使わせていただきます。