「可能性が高い」と言える人になりたい
葬送のフリーレン第95話「無名の大魔族」を読んだよ。
「莫大な魔力を持つ大魔族は、例外なく長い年月を生きている。なのに人間側に記録が残っていないということは、遭遇した者は全員殺されている可能性が高い(だから戦おうなんて考えてはいけない)」
というフリーレンのフェルンへのアドバイス。的を射ていて正確で、さすがだと思った。
最初に読んだとき「これ、数学の背理法じゃん!」と思ったんだよね。
背理法とは「もし〇〇じゃなかったら、おかしなことになる。だから〇〇だ」という証明方法だ。
今回に当てはめるとこうなる。
もしソリテールが危険じゃなかったら、遭遇した人は生き残って、記録が残っているはず。
でも長く生きているのに記録は一切ない。おかしい。
だからソリテールは危険な大魔族だ。
一見、完璧な証明に見える。
でも数学科出身として白状すると、これ、証明としては穴がある。
「記録がない」理由は、「皆殺しにされた」だけじゃないからだ。
単純に、そもそも人間と会っていないだけかもしれない。
だからフリーレンがやっているのは、証明ではなく推理だ。
「会っていないだけ、という可能性もあるけど、皆殺しの方がありそうだな」という推理。
そう考えると、フリーレンの言葉選びの正確さに震える。
彼女は「危険だ」と断言せず、「危険である可能性が高い」と言った。
これが証明ではなく推理であること、つまり例外がありうることを、本人が一番分かっているのだ。
そしてこの一言が、後にフェルンを救う。
ソリテールはフェルンにこう反論する。
「私は人目を避けてひっそりと暮らしていただけだ。人を殺したことなんて一度もない」
これ、まさにさっきの「そもそも人間と会っていないだけ」パターンの主張だ。
フリーレンの推理のいちばん弱い部分を、ピンポイントで突いてきている。頭が良すぎて怖いw
もしフリーレンが「記録がない大魔族は100%危険だ」と断言していたら、この反論ひとつで話が崩れて、フェルンは迷っていたかもしれない。
でも「可能性が高い」と言われていたフェルンは、こう考えられた。
「例外もありうるとは聞いていた。でも、この魔族が本当に例外なのか、嘘をついているのかは分からない。どちらにせよ油断はできない」
反論されても崩れないアドバイスを、たった一言の精度で実現している。
フリーレン先生、言葉選びが正確すぎるw
「記録がない」は「何もなかった」という意味じゃない。
「記録を残せた人が、誰もいなかった」のかもしれない。
1000年生きたエルフは、データの見方まで一流だった。
ところで、このフリーレンの話。突き詰めると「世界は『真』or『偽』の2択でスパッと割り切れない。だから割り切らずに、そのまま正確に言葉にする」という話だったと思う。
実は最近、まったく同じことを別の場所でも感じた。
村上春樹の新作『夏帆』だ。
小説の中で特に印象に残ったのが、善と悪についての一節。
しかし現実社会にあたっては、善と悪をそれほど明確に仕分けるすることはできない。悪しきことを為す良き者も(かなり多く)いるし、善きことを為す悪しき者も(ごく稀に)いるし、そのへんを見定めるのは、子供ばかりか大人にとってもしばしば難しいことになる。
悪いことをする良い人は「かなり多く」いるのに、良いことをする悪い人は「ごく稀」。
この非対称性、妙にリアルすぎないか?w
たしかに周りを見渡しても、良い人が悪いことをしてしまう場面はけっこう思い当たるのに、その逆はなかなか思い出せない。村上春樹、人間観察の解像度が高すぎる。
そして気づいた。
フリーレンの「可能性が高い」も、村上春樹の「かなり多く/ごく稀に」も、やっていることは同じだ。
白か黒かで断言せず、グレーをグレーのまま、村上春樹にいたって濃さまで正確に言葉にしている。
1000年生きたエルフと、世界的小説家。たどり着いた場所が同じなのが面白い。
先週のブログでこう書いた。
AIが「答えを出す存在」なのであれば、AI時代の人間は「明確な答えのない問いを、しっかり考えられる存在」にならなければならない。
そのためのヒントも、村上春樹の小説から読み解けたらと思う。
一週間経って、ヒントが早速ひとつ見つかった気がする。
それが、このグラデーションを扱う力なのかもしれない。
AIは「真」or「偽」がはっきりした問いに答えるのは得意だけど、白でも黒でもないグレーを、グレーのまま扱うのは苦手と聞いたことがある。
だとしたらAI時代の人間に必要なのは、グレーを無理やり白黒つけることじゃなくて、グレーの濃さを正確に見極める力だ。
僕らもフリーレンを見習って、断言したくなる気持ちをぐっとこらえ、「可能性が高い」と言えるようになりたい。
……と、ここまで書いて気づいたけど、僕は普段から根拠なく断言しがちな人間だったw
まずはそこからだね。
今日、娘と塗り絵で遊ぶ時は、グラデーションを意識して見ようと思うw
今日はそんなところかな、チャオ〜
