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押し切って決めたことは誰も守ってくれない

その場では勢いで通して、相手も「わかりました、それでいきましょう」と言ってくれた。だけども二週間後、聞いたことのない人の名前が出てきて、先方の社内で検討が進んでいて、気づいたら振り出しに戻っている。あるある、で済ませたくない何かがある。

前回の全部あってるけど「これじゃない」の続きです。IT系ベンチャーでPdM・事業責任者をやってきた経験からの話をしています。ひとつの見方として読んでもらえるとうれしいです。


時間差でちゃぶ台が返る

社外との話でよく起きます。押しの強さで通した案件が、あとから別の人が出てきたり、なぜか社内検討が走ったりしてひっそりと元に戻る。

で、そういうときに出てくる指摘はだいたいまっとうです。費用対効果はどうなのかとか、他の優先順位との兼ね合いはどうかとか。ビジネスなんだから当然聞かれることだし、むしろ聞かれないほうが困る。どれもまっとうな話なので、反論のしようもない。

このとき、目の前で「それでいきましょう」と言ってくれた人は、別に裏切っているわけではないんですよね。ただ自分の体重が乗っていないので、守る理由がないだけ。押し切られて決まったものは、押し切られた本人にとっては自分の決定ではなく、正論が来たらすっと譲ってしまう。

とはいえ毎回なかったことになるわけでもなく、むしろそのまま進んでいくほうが多いかもしれません。既成事実化してしまえば真っ向から潰すのも面倒なので、みんなとりあえず乗ったまま。絵として変な話でもないので、それなりに数字が立ったりもする。でも持ちかけた側も乗った側もどこか腑に落ちないまま動いているので、半年とか一年の見直しのタイミングとか、担当が変わるところで、誰も強く止めないまま静かにフェードアウトしていったりします。反対されて潰れるよりこれのほうが厄介で、短期的には成功に見えたりもするので、当人にはうまくいったのかどうかよくわからない。

決まったことと、決めたことは、けっこう違う。じゃあ相手に体重を乗せてもらうには、何をすればいいんでしょうか。

決まる前に渡しておくと

押し切るというのは、相手の判断そのものを動かしにいく行為です。決めていい立場にいるとか、単純に声が大きいとか。速いし、成果もわかりやすい。ただ、これが誰にでも使える手かというとそうでもなくて、そもそも押し切れる側にいないことのほうが多い気がします。

そうじゃないやり方もあって、判断そのものではなく、相手が何を見て決めるかのほうを変えておくというのがそれです。会議で押し切るのが前者なら、会議の前に論点を整理した資料を配っておくのが後者。

後者には権限が要りません。相手は自分で決めたつもりのままで、でも決める内容は変わっている。しかも自分で決めているので体重が乗っている。あとから正論が来てもその人が自分で守ってくれます。

僕はこれを弱い力と呼ぶことにしました。作用は遅いし効いているかも測りにくいんですが、権限が要らないのと、種明かししても関係が壊れないのがいいところだと思います。

手はいくつもある

前回書いた「ゆるい制約を渡す」も弱い力のひとつですが、ほかにもいろいろあります。並べてみると、自分がやっていたことに名前がついた感じがしてちょっと面白いです。こういうやつです。

雑談に混ぜておく。 会議の場で提案すると賛成か反対かの話になってしまうので、その前の雑談のときに、可能性のひとつとしてそれとなく方向性を示しておく。決める場じゃないところで出た話は相手の中でゆっくり馴染んでくれる。

他社の話を少しずらして持ってくる。 よそがやっていることで、そのまま出すと上の人が乗ってこないだろうな、というものを見つけたときに、一度抽象化してから、こちらが持っていきたい方向に少しだけ重心を移して具体に戻す。「あれって要するにこういうことだと思うんですけど、うちだとこういうやり方のほうがよさそうっすよねぇ」みたいな。

枠組みを先に設定する。 まだ何も固まっていない段階で、自分が得意で気持ちよくやれる方向につながりそうなフレームを先にセットしておく(ちょっとせこい)。最初に何の話として始まったかは後々までけっこう効く気がする。

誰から言うかを設計する。 本丸に近くて信頼されている人に先に話を通しておく。同じ内容でも、誰の口から出たかで届き方は変わってくる。

いつ言うかを選ぶ。 ゆっくり進めたい話なら相手に余裕があるときを伺う。急いでいる人に長い話を持っていっても、前提を受け取る隙間がない。

どれも、相手に決めさせにいってはいません。決まる前の材料のほうを、ちょっと動かしているだけです。

これは操作なんじゃないか

と、書いていて自分でも思います。うまいこと転がしているだけなんじゃないの、と。

あとで本人に種明かししたときに納得されるか、しまったと思われるか。 たぶんそこが境目です。「あの事例はこう読み替えたら効くと思って持ってきたんですよ」は言える。言えるどころか言ったほうが次から早い。

言えないほうもあります。相手が立て込んでいるタイミングを見計らって、細かい説明を省いたまま「じゃあそれで進めます」まで持っていく、みたいなやつ。僕もやったことがありますけど、あれはたぶん違います。あとから「忙しそうだったので今のうちに決めてもらいました」とは言えないですし、そもそもやっていることは押し切りとあまり変わらないので、落ち着いたころに「そんな話だったっけ」となる。

そして種明かしできないものはそもそも続きません。一回はうまくいっても、次から警戒されるので結局こちらのコストが上がる。倫理の話をしているというより、単に持続しないという話です。

効かないとき

弱い力はけして万能ではなく、何をどうやっても動かない場面があります。

いちばん多いのは、相手の中で「こうやりたい」が具体まで見えてしまっているとき。前提に働きかけると言っても、そこが固まりきっていると触りようがない。あとは締切が明日だとか、一度きりの相手だとか、そもそも相手に裁量がないとか。時間と、関係の継続と、判断の余地。このどれかが欠けていると、たぶん何も起きません。

具体が固まっている相手に対しては、僕はいったん諦めて、その流れにのってまずは進めます。そのうえで、進めていく途中で出てくる結果のほうを新しい材料として持っていく。動いているものは無視しにくいので、資料で議論するより早いことがあります。まあ、遠回りではあるんですが。

遅いということ

ここまで書いておいてなんですが、この手の厄介なところは、効いたかどうかが途中でわかりづらいことだと思っています。

前提を置いてから相手が動くまでにはラグがあるし、うまくいった場合ほど「相手が自分で決めた」ように見えるので、手柄も見えません。半年くらい経ってから、まったく別の企画の中に自分が言っていた話が入っていた、みたいなことも起きます。うれしいような、さみしいような。

最初に書いた押し切りの話とちょうど裏返しなのかもしれません。強い力は効くのが速いぶん、効かなくなるのも速い。弱い力は効きはじめるまでが遅いかわりに、効いたときには相手のものになっているので、担当が変わっても残っていたりする。

だから待てないと使えないという面はあります。途中で焦って押し切りに切り替えると、それまで積みあげたものまで台無しになってしまう。「結局は押してくるんだな」と学習されると、次から真面目に受け取ってもらえなくなるので。

権限がないと何も動かせない、みたいな気持ちになることがたまにあるんですが、たぶんそんなこともなくて、使える手のほうを知らないだけなんじゃないかなと思っています。その手の話は弱い力で動かすマネジメントにまとめています。たとえば筋が悪い気はしたけど言えなかった話とか。

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