『タピオラ』という居場所
タピオラという居場所
学生時代の友達から、「タピオラのことを書いてみたら?」と言われました。
確かに今でも集まると話題になるし、懐かしいなと思ったので、少し書いてみます。
この記事をその友達が見たら、きっと
「そうそう、カレスパ食ったよな!」
「てかあの時お前、めちゃくちゃ調子乗ってたよな(笑)」
なんてツッコみながら笑うんじゃないかな。
街の空気に混ざる、コーヒーとタバコの匂い
予備校時代、僕は駅裏にあった予備校に通っていました。
今振り返ると、ずいぶん大らかな時代でした。
少しガラが悪かったというか、自由だったというか。
授業が終われば仲間と路上に座り込んで語り合い、ファミレスに何時間も居座る。
今なら怒られそうですが、当時はそれが当たり前でした。
そんな僕たちの憩いの場が、喫茶店「タピオラ」です。
店に入ると、コーヒーとタバコが混ざった独特の匂い。
棚には漫画がずらりと並び、午前中から夜まで常連の大人や学生たちで賑わっていました。
スマホなんてない時代です。
じゃあ何をしてたかって、とにかく漫画を読んで、そして話していました。
音楽の話
服の話
漫画の話
恋愛の話
将来の話
よくあんなに話すことがあったなと思います。
タピオラに行くのに約束なんていりませんでした。
とりあえず行く。
すると誰かしら友達がいる。
「お、来てたのか」
「お前もか」
待ち合わせ場所というより、行けば誰かに会える場所。
一人で行ってもそのうち誰かが来る、そんな空間でした。
迷っても結局これ。名物「カレスパ」
名物は「カレスパ」というスパゲティです。
カレースパゲッティの略なんですけどね。
それがもう、本当に美味しくて。パスタ自体もカレー粉で炒めてあり、カレーソースとの相乗効果であっという間に完食。
具がゴロゴロしているところもお気に入りでした。
たぶん一番人気のメニューで、何度食べたかわかりません。
迷っても結局カレスパ。テーブルを見渡せば誰かが食べている。
ここで『課長島耕作』を読み耽り、大人の世界を学び(笑)、
昼寝をして店員さんに怒られ、一日が終わることも珍しくありませんでした。
背伸びばかりしていた、あの頃の僕たち
受験生なのに授業はサボりがち。
今の自分が当時の自分を見たら、「何してるんだよ」と言うでしょう。
でも当時は、友達から教わったメタルやメタルハードコアを聴きまくるのにも夢中でした。
最初は何がいいのかさっぱりわからないのに、聴いているうちにある日突然どかんとはまる。
気づけば好きな音楽も、本も、服も、たいてい友達や先輩たちから教わったものでした。
そして新しく知ったものは、またタピオラに持ち帰って仲間に話す。
そうやって僕たちの世界は少しずつ広がっていった気がします。
予備校時代は、高校の先輩や後輩、違う高校の先輩や後輩とも知り合いになりました。
先輩たちには本当によくしてもらったと思います。
もちろん、ちょっと怖い先輩もいましたけどね(笑)。
今の人には伝わりにくいかもしれませんが、当時は服や持ち物にも独特の価値観がありました。
「このブランドを着ているとすごい」
「このアイテムを持っているとすごい」
そんな空気が確かにあったんです。
今思うと、かなり背伸びをしていました。
服屋にもよく通っていました。
店員さんとランチに行ったり、常連だった先輩方にかわいがってもらったり。
服の話だけじゃなく、音楽のことや人生のことまで教わりました。
今考えると不思議ですが、服屋の店員さんの家に泊めてもらったことまであります。
格好つけたくて必死だった僕は、服屋で
「お前、本当にそれが好きなのか?」
「流行に乗ってるだけだろ」
「いいものっていうのはさ……」
なんて言われたりもしました。
完全に見透かされていたんですよね。
後輩を連れてタピオラに行き、知っている音楽や本を勧めては知ったかぶりで人生を語る自分。
「こいつ、ちょっとうざいな」と今なら思います。
何者でもないのに何者かになった気でいたけれど、みんな大人と子どもの狭間で、根拠のない自信だけを抱えていたんだと思います。
変わっていく街、消えてしまった居場所
そんな風に遊んでばかりいたのに、大学受験は得意分野が出たラッキーも重なって受かってしまいました。
「なんであいつが?」なんて声も聞こえましたが(笑)。
進学してからも、就職してからも、地元に帰ればとりあえずタピオラへ向かいました。
大学の友達を連れて行くこともありました。
「タピオラ行こうよ」
それが僕たちの合言葉でした。
お店に行けば「久しぶり」と声をかけてくれる。
それが嬉しかった。
でも、
駅裏にあった映画館が消え、
街の風景が変わり、
タピオラも閉店してしまいました。
昔は映画館のあたりから音楽が流れていて、
その音が街の空気に混ざっているだけでなんだか気持ちがよかった。
当時はそんな景色がずっと続くものだと思っていました。
いつでも行けると思っていたから、最後の方は足が遠のいていたことが悔やまれます。
今でも昔の仲間と会うと、つい口に出てしまいます。
「タピオラ行こうよ」
「もう閉店したんだよな」
もうあの場所には行けません。
けれどその言葉ひとつで、
コーヒーとタバコの匂い、
漫画の棚、
カレスパの匂いと味、
そしてバカみたいに笑い合ったみんなの顔が一気に蘇ります。
タピオラはただの喫茶店ではありませんでした。
何者でもなかった僕たちを丸ごと受け入れてくれた、
かけがえのない居場所。
僕たちはあの場所でカレスパを食べ、
背伸びをして、
笑い、
悩み、
そうやって青春を過ごして大人になりました。
あの頃は、あんな毎日がずっと続くと思っていたんだけどね。
僕たちは、カレスパで青春を過ごして、大人になったんだよね。
