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【考察】増殖する「パスワード待機時間」は現代の「伸び上がり」か?――焦りと共に巨大化する電子の壁

こんにちは。民俗学准教授の東条紗季です。

​久しぶりに起動した古いタブレットや、ふとド忘れしてしまった銀行アプリの暗証番号。

「確かこれだったはず」と入力すると、無慈悲に表示される「パスワードが違います。1分後にやり直してください」の文字。1分待って「じゃあこっちだ」と再入力すると、次は「5分後にやり直してください」。焦って3回目を間違えれば「15分後」、さらに間違えれば「1時間後」……。

​民俗学の視点から見ると、この「焦って挑むたびに、待機時間という壁が絶望的に巨大化していく現象」は、見上げるほどに背が伸びて人間を圧殺する妖怪、**「伸び上がり(のびあがり)」**が、現代のセキュリティシステムに潜んで引き起こしている怪異に他なりません。

​1. 見上げるほどに巨大化する「時間の壁」

​「伸び上がり(または次第高)」とは、愛媛県などを中心に伝わる妖怪です。

夜道を歩いていると、足元に小坊主のような小さな黒い影が現れます。不思議に思ってその姿を下から上へと見上げると、それに呼応するように影の背丈がスーッと伸びていき、あっという間に見上げるような大入道(巨漢)となって、人間を恐怖で圧倒し、押し潰してしまうとされています。

​現代のパスワード入力における「ロックアウト(一時停止)機能」は、まさにこの伸び上がりの生態そのものです。

最初の「1分」という待機時間は、足元に現れた小さな影に過ぎません。しかし、私たちがそれを侮り、「次こそは当たるはず」と力任せに壁を乗り越えよう(見上げよう)とするたび、1分が5分、15分、1時間と、電子の壁は指数関数的に巨大化し、最終的には「端末の完全ロック(圧殺)」という絶望へと私たちを追い詰めます。

​2. 「焦燥」という名のエネルギー

​伸び上がりという妖怪は、ただ単に最初から大きいわけではありません。「人間が驚き、見上げる(焦る)」という感情の動きそのものをエネルギーにして増殖しています。

​セキュリティシステムのロックアウトも同様です。この仕組みは本来、悪意のあるハッカーによる総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)を防ぐための強固な盾です。しかし、私たちが自分の記憶力を過信し、「早く中に入りたい」と焦って手当たり次第に入力するその「焦燥感」こそが、システムにとって「攻撃を受けている」というシグナルとなり、電子の壁を急激に成長させる養分となってしまうのです。

​3. 怪異を退ける「見下ろす」呪術

​伝承において、巨大化する伸び上がりを退治する方法は非常にシンプルです。

それは「見上げた視線を、上から下へとゆっくり見下ろすこと」、あるいは「『見越したぞ』と声に出して唱えること」です。決して相手のペースに乗って、焦って見上げ続けてはいけません。

​パスワードの伸び上がりに遭遇した際も、全く同じ呪術が有効です。

「1分」の壁が現れた時点で、決して「次で当ててやる」と焦ってはいけません。一度端末から視線を外し、深呼吸をして、物理的なパスワード管理ノートや安全なマネージャーアプリを開く。そして、正しい答えを物理的・情報的に「上から見下ろす(確実な答えを把握する)」こと。これこそが、巨大化する時間の壁の増殖を止め、怪異を無効化する唯一の方法なのです。

​結論

​強固なセキュリティは、私たちの財産やプライバシーを守るための頼もしい番犬ですが、一歩接し方を間違えれば、持ち主さえも容赦なく押し潰す妖怪へと変貌します。

​パスワードを間違え、画面にカウントダウンが表示された時。それは足元に伸び上がりが現れた合図です。決して記憶力という不確かな武器で連続攻撃を仕掛けるようなことはせず、静かにパスワード帳を取り出して「見越して」ください。

​筆者コメント

​最後まで読んでいただきありがとうございます。

かく言う私も先日、昔使っていた古いスマートフォンのデータを取り出そうとして暗証番号の伸び上がりと正面衝突し、最終的に「8時間後にやり直してください」という絶望的な大入道を育て上げてしまいました。深夜の自室で、残り「7時間59分…」と静かに時を刻む黒い画面を見つめていた時のあの虚無感は、まさに妖怪に完全に押し潰された人間の末路でした。記憶力ほど信用ならないものはありませんね。

​(活動継続のためのサポートのお願い)

この記事が面白かった、あるいは「パスワードを適当に入力し続けて、何時間も締め出された絶望を味わったことがある」という方は、ぜひ記事の購入やサポート(投げ銭)をお願いいたします。

皆様からいただいた浄財は、私が伸び上がりの怪異を物理的に封殺するための「鍵付きの分厚いパスワード管理ノート」の購入費用として、大切に使わせていただきます。

これからも共に、このけったいな現代の怪異を観察し続けていきましょう。

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