都立14病院「最強カスタマイズ」解消の衝撃:44億円のNEC契約が映す医療DX 5つの構造変化:電子カルテ、医療情報基盤、介護情報基盤、全国医療情報プラットフォームはどうなる
電子カルテ統一は始まりにすぎない:都立病院の決断から読む、2030年までの医療・介護「接続革命」全工程
東京都立病院機構が14病院の電子カルテを同一ベンダーの標準パッケージに統一する決断を下しました。病院ごとに積み上げてきた「最強カスタマイズ」を捨て、赤字脱却と全体最適を選んだ背景には何があるのか。国が進める電子カルテ情報共有サービス、介護情報基盤、標準型電子カルテの開発動向を突き合わせ、2026年から2030年にかけて医療・介護の現場がどう変わるかを具体的に読み解きます。病院経営者、介護事業者、ケアマネジャー、そして自分や家族の医療・介護に関心を持つすべての方に、「次の一手」を考えるための地図を提供します。

異動のたびに電子カルテの操作方法をイチから覚え直す。
同じ都立病院なのに、紹介状はFAXで送り、退院サマリーは紙で郵送する。維持管理費は年々膨らみ、改修のたびにベンダーに数千万円を支払い、それでも赤字が止まらない。「うちの病院に最適化した最強のカルテ」であったはずのシステムが、いつの間にか身動きの取れない重荷に変わっていた。これは都立病院だけの話ではありません。
全国約7,000の一般病院のうち、電子カルテの導入率は65.6%。導入済みの病院でも、その多くがオンプレミス型でベンダー固有のカスタマイズを重ねてきた経緯を持ちます。
2026年4月、日本の医療・介護のデジタル基盤は一斉に動き始めます。あなたの職場は、その波に乗れる位置にいるでしょうか。
都立病院機構が捨てたもの、得ようとしているもの
2025年10月、東京都立病院機構はNECとの間で約44億円の契約を締結し、全14病院の電子カルテシステムを同一ベンダーの標準パッケージへ順次統一する方針を公表しました(東京都立病院機構 お知らせ)。この契約金額にはクライアント端末、ネットワーク整備、運用保守費は含まれていません。総額はさらに膨らみます。
それでも、この判断が下された理由は明確です。都立病院機構は2023年度に182億円の赤字を計上しました。コロナ関連補助金の終了が直接の引き金でしたが、病院ごとに異なるシステムを維持するコスト構造が経営を圧迫していた実態は以前から指摘されていました(日本経済新聞「東京都立病院機構、23年度赤字182億円 コロナ補助金終了で」(2024年9月))。
注目すべきは、都立病院機構が単なるシステム更新ではなく「ノンカスタマイズ」を基本方針に掲げた点です。標準パッケージ導入を契機に、病院ごとに異なる業務運用の標準化・共通化を進める、AIや音声ツールも活用しながら業務効率化を図る、と明言しています。つまり、システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせて再設計するという発想の転換がここにあります。
ある都立病院の元勤務医はSNS上で、こう発信しています。「電カル統一で都立病院間の連携強化に繋がる。しかし、業務運用の標準化は別の話。電カル外で運用されている業務がたくさんある」。現場を知る人間ほど、カルテの画面が揃うだけでは足りないことを理解しています。マスターの統一、オーダー名称の標準化、部門システムとの接続仕様、紹介・退院書式の再設計、職員教育、権限設計、二要素認証の導入、端末運用の見直し――これらすべてが14病院横断で同時に動くプロジェクトです。
国の設計図を読む:3つの柱と「3文書6情報」
都立病院機構の決断は、国の医療DX政策と完全に同じ方向を向いています。厚生労働省が掲げる医療DXの3本柱は、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXです(厚生労働省「医療DXについて」)。
中でも現場への影響が大きいのは、電子カルテ情報共有サービスです。全国の医療機関が、オンライン資格確認システムを基盤として、患者の診療情報を電子的に共有できる仕組みが構築されつつあります。共有対象として定められた「3文書6情報」の中身は、3文書が診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書。6情報が傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急および生活習慣病)、処方情報です(厚生労働省「電子カルテ情報共有サービス」)。
自由に何でも共有する世界ではなく、共有価値が高く標準化しやすい情報から全国接続する設計です。このサービスは2025年2月からモデル事業として検証が進行中で、検証・改修を経て2026年度冬頃の本格運用を目指しています(厚生労働省「電子カルテの普及について」(2026年3月12日))。
ここに法的な裏付けも加わりました。地域医療介護総合確保法第12条の3第4項には、2030年12月31日までに電子カルテの普及率を約100%とする政府目標が明記されています。単なる努力目標ではなく、法律に書き込まれた期限です。
電子カルテ普及率の現在地:数字が語る格差
厚生労働省の医療施設調査(令和5年)によれば、一般病院の電子カルテ導入率は65.6%。病床規模別に見ると、400床以上が93.7%であるのに対し、200床未満は59.0%にとどまります。一般診療所は55.0%です(厚生労働省「電子カルテの普及について」(2026年3月12日))。
大規模病院はほぼ導入済みですが、中小病院と診療所には依然として大きな壁があります。日本医師会が紙カルテ利用中の診療所に対して実施したアンケート調査(2025年4~6月、有効回答数5,466件)では、54.2%が「導入不可能」と回答。その理由は、IT操作に不慣れであること、導入費用が高額であること、導入しても数年しか使用見込みがないこと、の順に多く、高齢の開業医ほど導入不可能と答える割合が高い傾向にあります。
この壁を越えるために国が用意しているのが、標準型電子カルテの「導入版」です。デジタル庁と厚生労働省の共同プロジェクトとして開発が進んでおり、2026年度中の完成を目指しています。紙カルテや現行の電子カルテの業務はそのままに、電子カルテ情報共有サービスへの接続機能と電子処方箋の発行機能を持たせたシンプルな設計です。紙カルテを使い続けている診療所でも、このアプリを併用すれば全国の共有基盤とつながれるようになる、という構想です。
一方、病院向けの標準仕様は令和7年度中(2025年度中)に策定され、令和8年度(2026年度)から民間ベンダーが標準仕様に準拠した製品を開発する計画です。ガバメントクラウドの活用、HTTPSベースAPI、各部門システムとの接続仕様の標準化、生成AIなど業務効率化アプリとの連携も想定されています。
今回概要まとめ図
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