2040年の医療と介護をつなぐ「包括期機能」。新たな地域医療構想が描く"治し支える"という転換点:新たな地域医療構想策定ガイドラインに関する資料
どーも、セオドアアカデミーです。
2026年1月16日、厚生労働省が第9回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会で提示した「新たな地域医療構想策定ガイドライン」。
この資料は、日本の医療提供体制が2025年モデルから2040年モデルへと大きく舵を切ることを宣言したものです。
今回は、介護保険・医療保険の現場で働く専門職の視点から、「なぜ今この転換が必要なのか」「具体的に何がどう変わるのか」「私たちの実務にどう影響するのか」を、多角的に掘り下げます。
統計データ、政策の背景、そして現場の声を織り交ぜながら、この大きな変化の本質に迫ります。

"2025年問題"の先にある"2040年の現実"
団塊の世代が後期高齢者に、そしてその先へ
「団塊の世代が75歳以上になる2025年」。この言葉は、医療・介護業界で長年語られてきた目標年でした。地域医療構想も、この2025年を見据えて病床の機能分化(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)を進めてきました。
しかし、時は過ぎ、私たちは今、2025年の"その先"を見つめる段階に来ています。2040年に向けて、日本の人口構造はさらに大きく変化します。大都市部では高齢者人口が増加する一方、地方では既に減少局面に入っている地域も少なくありません。
厚生労働省の推計によれば、2024年度を100とした場合、2040年度の医療需要は118になると見込まれています(厚生労働省「新たな地域医療構想策定ガイドライン」令和8年1月16日)。ただし、この「需要増」は単純な量的拡大ではありません。医療の高度化・低侵襲化、在院日数の短縮、在宅医療や外来医療の充実、介護への移行などにより、入院受療率そのものは低下傾向にあります。実際、がん患者の入院は減少し、外来患者は増加しています。2023年のデータでは、がん入院患者のうち入院期間が2週間未満の患者の割合は約60.6%に達しています(厚生労働省「患者調査」)。
つまり、2040年に向けて増えるのは「医療需要の総量」ではなく、「高齢者特有の医療ニーズ」なのです。
高齢者救急の"ミスマッチ"という構造問題
高齢者の救急搬送は年々増加していますが、その多くは従来の「手術が必要な重篤な急性期」とは異なる性質を持っています。
誤嚥性肺炎、骨折、脱水、尿路感染症──これらは確かに処置が必要ですが、手術よりも、入院早期からのリハビリテーションや栄養管理、口腔ケア、そして介護との連携が重要になる症例です。
DPCデータ(2023年)を分析すると、85歳以上の急性期入院では、手術や高度な処置を伴う患者の割合は約30%に過ぎません。これは、65歳以上全体の約40%、75歳以上の約37%と比べても低い数字です(厚生労働省DPCデータ分析)。
しかし現実には、こうした高齢者患者の多くが、7対1等の急性期病棟で受け入れられてきました。診療報酬上は「急性期」に分類されるものの、実際には「治療+早期リハビリ+退院支援」という包括的なケアが求められる患者層なのです。

今回のガイドラインが示す"3つの構造的転換"
転換1:「回復期」から「包括期機能」への再定義
今回のガイドライン案の最大のポイントは、従来の4区分(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)のうち「回復期」を廃止し、「包括期機能」として再定義したことです。
包括期機能の定義は以下のように示されています:
「高齢者等の急性期患者について、治療と入院早期からのリハビリ等を行い、早期の在宅復帰を目的とした治し支える医療を提供する機能」
「急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能」
「特に、急性期を経過した脳血管疾患や大腿骨頚部骨折等の患者に対し、ADLの向上や在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する機能(回復期リハビリテーション機能)」
つまり、これまで「急性期を終えた後のリハビリ」と位置付けられていた回復期が、「高齢者の急性期治療+早期リハビリ」という機能をも包含する形に拡張されたのです。
この背景には、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟が果たしてきた役割があります。これらの病棟では、救急患者を受け入れつつ、入院早期からリハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取り組みを行い、早期の在宅復帰を支援してきました。こうした実績を踏まえ、包括期機能として制度的に位置づけることになったわけです。
転換2:「改革モデル」を前提とした必要病床数の算出
これまでの地域医療構想では、現状の医療需要をそのまま将来人口に投影して必要病床数を推計してきました。しかし今回は、「改革モデル(効率化の取り組み)」を織り込むことが明示されています。
具体的には:
受療率低下の反映:医療技術の進歩や在宅移行により、入院受療率が下がるトレンドを計算式に組み込む
病床稼働率の引き上げ:現在の低下している稼働率ではなく、将来の集約化を見込んで高めの稼働率を設定(高度急性期75%、急性期78%、包括期90%、慢性期92%)
包括期機能への患者シフト:75歳以上の急性期患者のうち、医療資源投入量は高くても、約5割を包括期需要としてカウント
この「5割」という数字は、高齢者の急性期入院のうち、手術や高度な処置を伴う患者が約3割程度であることを踏まえたものです。残りの患者は、包括期機能による「治し支える医療」で対応可能と見なされます。
また、回復期リハビリテーション病棟における整形外科疾患の患者については、入院直後からの速やかなリハビリ提供と、集中的リハビリ後の速やかな外来・在宅移行を想定し、平均在院日数の短縮を見込んだ推計が行われます。
転換3:外来・在宅医療の「見える化」と構想区域の再編
従来の地域医療構想は入院医療が中心でしたが、今回は外来医療・在宅医療・介護連携も構想の対象に含まれることが明記されました。
全国推計では、外来需要は今後減少しますが、在宅医療需要は2040年に向けて激増します。2023年を基準とすると、2040年の在宅医療需要(年間延べ算定回数)は約1.5倍になると推計されています(厚生労働省NDBデータ分析)。
これに伴い、構想区域(二次医療圏)についても、人口規模や患者流出入を踏まえた再編・統合の点検が求められます。人口が極めて多い大都市部と、人口の少ない地域では、医療提供体制の在り方が大きく異なるためです。
今回の概要まとめ図
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