住民相談、ChatGPTに入力して大丈夫?個人情報の境界線
夜十時すぎ。その日受けた相談を活動報告用にまとめようと、パソコンの前に座りました。
手元のメモには走り書きで、
「○○町の△△さん(78歳)、家の前の側溝が詰まって雨のたびに水があふれる」
とあります。
これをChatGPTに貼り付けて、「読みやすい文章にまとめて」と頼めば五分で終わる。そう思って入力欄にカーソルを合わせた、その手が止まりました。
この名前と住所、そのまま入れて大丈夫なんだろうか。
一度止まると、もう先に進めません。
「たぶん平気」と言う自分と、「いや、どこかに残ったら」と言う自分が、画面の前で小さくにらみ合う。
結局その晩はメモを閉じ、いつもどおり手で書き直しました。
要約が便利なのは分かっている。なのに、いちばん助けてほしい住民相談だけは、怖くてAIを使えない。
この「怖くて手が止まる」は、ITに詳しくないからではありません。
本当の問題は、
「入れていい情報」と「入れてはいけない情報」の線引きが自分の中にないことです。
基準がないから、毎回ゼロから「なんとなく不安」で判断するしかない。
逆に言えば、一つ基準を持つだけで迷いはほとんどなくなります。
覚えることは一つだけ
セキュリティの専門家になる必要はありません。
覚えることは、たった一つです。
個人を特定できる情報を取り除いてからAIに入力する。
これだけです。
これができれば、ChatGPTは住民相談の要約や活動報告の下書きづくりで、とても便利な道具になります。
なぜ、そのままAIに入力してはいけないのか
理由は二つあります。
① モデル改善に利用される設定になっている場合がある
個人向けChatGPTでは、設定によっては入力した内容がモデル改善に利用されることがあります。
現在は「Improve the model for everyone(モデル改善)」をオフにすることで、この利用を停止できますが、設定状況は利用者自身が管理する必要があります。
そのため、
設定に頼るより、最初から個人情報を入力しない方が確実です。
② 一度外部サービスへ送った情報は完全には取り戻せない
AIサービス各社は安全対策を講じていますが、どんなオンラインサービスにも絶対はありません。
実際、2023年にはOpenAIで一部ユーザーに他ユーザーのチャット履歴タイトルなどが表示される不具合が発生しました。
頻繁に起こるものではありません。
それでも、
氏名・住所・相談内容がセットになった情報は、万一の際の影響が大きすぎます。
だから私は、
「そもそも個人を特定できる情報は送らない」
という考え方をおすすめしています。
入れてはいけない情報
危ないのは、一つ一つの情報よりも組み合わせです。
氏名
住所
電話番号
メールアドレス
勤務先
屋号
役職
病名
家族構成
借金や離婚などの事情
特に危険なのが、
氏名 × 住所 × 具体的な相談内容
この三点セットです。
また、小さな自治体では、
「○○地区の一人暮らしの高齢女性」
だけでも誰なのか推測できる場合があります。
名前だけ消せば安全とは限らない点に注意が必要です。
NG例とOK例
NG例
山田花子さん(桜町3-2-1、78歳)から、自宅前の側溝が詰まって雨のたびに冠水するとの相談。息子さんは県外で本人は独居。市役所に連絡したが対応が遅いと不満。
OK例
住民A(高齢・独居)から、自宅前の側溝の詰まりにより大雨時に冠水するとの相談。市の対応が遅いとの不満あり。活動報告用に200字でまとめてください。
AIに伝えたいのは、
「誰が相談したか」ではなく、「どんな課題があり、どう整理したいか」
です。
毎回手で伏せ字にするのは大変
ここまで読んで、
「理屈は分かった。でも毎回名前を探して消すのは続かない」
と思われた方も多いでしょう。
その感覚は正しいです。
忙しい日の夜に、一件ずつマスキングする作業は、意外と負担になります。
私が普段使っている議員向けクラウド「センタイ」では、この部分を仕組みでカバーしています。
相談メモを入力すると、
氏名
住所
電話番号
などをAIへ送る前に自動でマスキングしてから処理します。
さらに、
AI学習に利用しない運用
事務所ごとにデータを分離して管理
といった設計になっているため、毎回人が気を付け続けなくても、安全にAIを活用できます。
ChatGPTだけで安全に使うなら
道具を増やさなくても、次の五つを習慣にすれば十分実用的です。
氏名 → 「住民A」「住民B」に置き換える
住所 → 「市内」「○○地区」程度まで丸める
電話番号・メール → 削除する
勤務先 → 「会社員」「自営業」など属性に置き換える
病名・家族構成・金額 → 必要最小限までぼかす
最後に一度だけ声に出して読みます。
「この文章だけ読んで、誰のことか分かるだろうか?」
分かりそうなら、もう少し情報をぼかします。
慣れれば十数秒で終わります。
イニシャルは意外と危ない
よくあるのが、
「山田さんをYさんにしたから大丈夫」
というケースです。
地域では、
「Yさん」
「○○地区」
「一人暮らし」
だけで推測できることがあります。
イニシャルは隠したようで、実はかなり情報が残っています。
「住民A」まで抽象化するくらいが安心です。
よくある質問
Q. ChatGPT Plusなら個人情報を入力しても大丈夫?
A. 有料・無料と個人情報の扱いは別の話です。
モデル改善への利用は設定で変更できますが、最も確実なのは最初から個人情報を入力しないことです。
Q. 相談者から「AIには入れないでほしい」と言われたら?
A. その場合は、伏せ字化していてもAIを使わず手作業で対応するのが安心です。相談者の意向を尊重することも信頼関係の一つです。
Q. 議員向けツールと設定変更したChatGPTの違いは?
A. ChatGPTは利用者が毎回正しく設定し続けることが前提です。
議員向けツールは、設定忘れがあっても個人情報がそのまま送信されないよう、仕組み側で防ぐ設計になっている点が大きな違いです。
住民相談は、議員活動の中でも最も機微な情報を扱う仕事です。
だからこそ、
「AIを使わない」のではなく、「安心して使える形にして使う」
という考え方が、これからますます大切になっていくと思います。
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