子ども心に戦争のことを考えさせられた童話「炭焼きの辰」ー時代が変わっても、変わらないでいなければならないものがある
こちら、1971年11月初版の「少年少女/現代創作民話全集1」として刊行された童話「炭焼きの辰」です。中の人は小学4年生ころ、家にあったこの本を読みました。岐阜県の山間地にある青山村で明治生まれの炭焼き、中西辰五郎が、68歳となり、故郷を離れてベトナム戦争中の米軍の軍用機修理などをしている息子の呼び掛けに、とうとう村を離れる決心をしたところに、小学5年生の2人が話を聞きに来て、そして半生を語り聞かせるというスタイルです。
話はフィクションですが、細部はそれぞれ根拠がある話でまとめられています。そして、昭和の戦争の時代、その後の変貌が決して良い方向ではなかったなど、読み返すたびに教えられること、気づくことの多い本です。

著者の岸武雄さんは岐阜の揖斐川上流の生まれ。そんな小さい頃の思い出と、岐阜県の民話をまとめる作業をする中での知見がリアリティーを持って伝えられます。いろりひとつでも、そこに味わいを感じている人の機微をとらています。

主人公は中西辰五郎。1970年ごろに68という設定で、1903(明治36)年の生まれ。代々の炭焼き、といえば聞こえは良いですが、山間地で土地持ちでなければ、これしか道がないというころです。ある晩、雪の道で紡績工場帰りの娘を助けた縁で、その娘と結婚します。辰五郎20歳、妻おふさ18歳。そして、2人して、何とか食べていくだけの炭焼き生活を、しかし、一番自然に近い所での生活を楽しむさまが、一時の平穏な時代を伝えます。

そして、何とか食べていくだけという生活の中で、徴兵検査を受けることに。現役に2年取られると、家族はやっていけないと思って居る辰五郎に、軍縮の時代で、くじのがれができればと教えてくれます。が、じが悪いということで「丙種」となります。真っ黒で軍医の目もくらんだのだろうとか。

そして、昭和の初期のこと、炭焼き仲間を食い物にする親方に反発して仲間を説き伏せ、法外な山の値段を割り引かせることに成功しますが、これがストライキのやり方と同じだとして、警察に引っ張られます。自分の思ったこと、行動が、誰かが背後にいるとされる。これなど、ささやかですが、中の人も時々Xなどで何党の手先だの何協会から金をもらっているだの、最近も何議員とつながっていたりしてーなどと言われましたが、個人が行動するということを信じられない、信じないというのは、当時も今も変わらないようですね。

そして満州事変が勃発。仲間が出征して、現地の凄惨な話を聞きます。「だれがええ、わるいというもんではなかろ。いちばんわるいのは、こういう罪な戦争をおっぱじめる連中じゃ。戦争によって金もうけたり、くらいがすすむことをたくらむ連中じゃ」

そして太平洋戦争が始まり、村からも出征続き。長男の清太も出征します。出征の行列の雰囲気は、こんな感じだったのです。

そして1945(昭和20)年7月、母親が死ぬ間際に紡績に出ている孫娘のミサに会いたいというので、辰五郎は岐阜に出ます。そしてその晩、7月9日、空襲を受けて娘と焼夷弾が降る中逃げ惑い、防空壕に飛び込みますが、そこに爆撃をくらいます。そしてぐったりした娘を背負ってやっと逃げ、娘の求めていた水がある場所について背中からおろすと、既に娘、ミサは亡くなっていました。

そんなつらい時代を心が壊れたように過ごしますが、やがて時と共に、そのつらさも薄らぎ、ある日、息子の清太が無事帰ってきたのを祝うため親戚を呼び、白米ご飯をふるまいます。岐阜の農家が炭と米を代えてくれというので手にいれた「闇物資」でした。すると、おじが同じようにして手に入れた酒を持って来て、久しぶりに皆でささやかな祝い、となります。一杯の白米ごはんの有難さ、尊さを感じる一幕です。

そして戦後まもなくはずっと需要も高く、それなりに収入も上向いてきた中、「きれいな空気と水、それにあったかい人の心と平和な世の中、それさえあればじゅうぶんなのじゃ」と語ります。
しかし、今、きれいな空気と水はあるでしょうか。あったかい人の心は。そして戦争のない世の中は。何とも申し訳ない気持ちになりました。

そして、1967、68年ころ、あることを機に学校へ怒鳴り込みにいくことになるのですが、ここは物語りの山場。ぜひ、本を読んでほしいのですが、その中でこの項だけ。「世の中がいくらどうかわろうと、人間のやさしいしょうねだけは、先生さまよ、ちゃんと植えつけてくださるのが、教育ではないのかえ」。
不覚ながら、ここで涙する中の人です。


そして、敗戦前と比べ「学校の先生さまのしょうねは、いまよりもっとあったかかったわい。先生さまよ、世の中も教育も、進歩するどころか、わしゃ、だんだんわるうなるようにおもえてならんが、ちがっとるかえ?」
辰五郎さん、申し訳ないが、世の中も教育も、きれいにはなったようですが、なんか荒んでいるようです。ありがたいものが当たり前になると、そのありがたさが見えなくなるようです。
ぜひ、今の時代にこそ、辰じいのまっすぐな気性が必要なんだと思います。でも、少数ではあっても、いや、見えないだけかもしれません。そういうしょうねを持った人が。虐げられている人をなお叩こうとする人々や政治の下にあって、常にそこに寄り添う人たちがいます。声をあげる人たちがいます。そのしょうねが一部ではなくなる時代にしていきたい。
中の人も、その一人でありたい。
この本は、既に絶版かもしれませんが、中の人は「日本の古本屋」で手に入れました。みつけたら、お手にとってみてください。貧しい時代だからこそ見えたもの、そして、それを今の時代にも見えるようにすること。小さい時でも、大きくなってからも、学べる一冊です。
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