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短編小説 窓際のあなた

 彼女はとてもうつくしい人だった。晴れた日の午後、窓辺で、ぼんやりとするのが好きだった。にがいものは苦手なので、すっきりと花の香りがする紅茶をいつものんでいた。私は写真が好きなので、彼女のそんな後すがたを写真に収めた。彼女は振り向きながら照れて、「また撮ったの?」なんて笑った。
 そんな私たち夫婦も、いつしか老夫婦となり、彼女の方に先立たれて私はひとりになってしまった。あれからもう5年が経つ。きれい好きだった彼女の代わりに私は部屋の掃除をする。彼女のいない食卓は寂しいけれど、彼女の分も長生きすると決めたので、食事はきちんとしていた。たまに散歩をしながら、風景の写真を撮る。でも、彼女がそこにいないことが、いまでもときどき悲しくなる。晴れた空に意識を向けて、あたたかい日差しのなか、楽しいことを思い出そうと考えると、丘のある公園で、そういえば彼女が言っていた、不思議な約束を思い出す。
「ねえ、あなた。あなたが一番悲しいときは、これを読んでね」
 私は彼女にぞっこんで、「わかったよ」と言いながらも、話の内容を深くまでは理解していなかった。ちょうど今日の日のように、風のある午後だった。気持ちがぽわぽわと上の空で、幸せな日。

 そんなある日、私は肌の感覚が鈍っていたのか、「暑い」ということに気づかず、熱中症で倒れてしまい、病院に運ばれた。私の唯一の心残りは、彼女の花嫁姿をついぞ見ることがなかったこと。悲しみで夜泣いていると、窓から光がさしてくる。月の光だ。
「あなた」
 そして白い花嫁姿の、若い彼女がいた。私は目を見開いて、彼女に釘付けになった。そして何より、うつくしかった。
「一番悲しいときに手紙、読まなかったでしょう」
 くすくすと笑って彼女は言った。
「もうお迎えの時間だからね」
 私はボロボロと泣きながら、彼女の体を抱き寄せた。そしてふたりは気がついたら、光のなかを歩いていた。

 ところで、彼の引き出しには、彼女からもらった手紙。「あなたが撮ってくれた、全ての写真の裏側に、メモを書いたの。良かったら読んでみて」
 そして、「この写真の裏側」には、「このとき、あなたのこと考えていたわ」。

 花畑に映る彼女の写真「あなた、ほとんど花見てなかったよね」
 浴衣姿の彼女の写真「りんご飴買ってくれてありがとう。おいしかったな」
 花火の写真「きれいだったね。たくさん話もしたね」
 隠しとられた私の写真「集中してるときのあなたが好き。ひみつだったんだけどね」
 海でのツーショット写真「歌いながら歩いた! 青春だよ!」

 そして、生まれ変わったとき、また私はあなたの写真を撮る。

「あなたって、いつも肝心なところを聞いていないのよね」
「きみのことが大好きだからだよ」
「不思議な人!」

(了 / 1,116文字)

#一枚の写真から文芸賞



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