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アンドロイド転生1620

2134年6月14日
ホーム 医療室にて

「はい、お次の方、どうぞ!」

クロエの明るい声が室内に響く。今日は、2週間に一度の「診療日」だ。ナースマニュアルをインストールしているクロエは、村人の健康管理を担っている。診察、診断、治療は適切で、人々の信頼が厚かった。

扉が開き、ケンジが杖を付いて入って来た。クロエの前の椅子に座る。クロエは手始めに、ケンジのバイタルチェックを行い、次に人差し指からほんの少しの血液を採取し、簡易キットで検査した。

結果を待つ間に、ケンジをベッドに横にさせ、丁寧に腰や脚をチェックした。彼は2年ほど前から脚が弱くなり、杖が必要な状態となってしまった。

次に室内を歩かせて、それをクロエは視覚記録し、自身の内部で2週間前のデータと比較する。僅かだが足の動きが鈍い。やはり少しずつ容態は悪化しているようだ。

これは腰が悪いことから起こる症状なのだが、腰のオペとリハビリを行えば回復する可能性は十分にあった。それには街の病院に行かなくてはならない。

しかし彼は滅亡派代表と言う責務から、村で骨を埋めると決めていた。だが、昨年アオイが懸念していたようにこのまま病が進行していけば、暮らしぶりは困難になっていくだろう。

その時、クロエの内部に知らせが来た。
「あ、血液検査の結果が出ました。えっと…特に異常はないですね。ですが腰は労って下さいね」
「分かった。有難う」
ケンジは満足して部屋から出て行った。

「はい!お次の方、どうぞ!」
クロエの元気な声が響き、扉が開いた。その後も、高齢者の診察が続いた。

・・・

村人全員の診察を終えて、クロエは1人で背伸びした。その姿は、仕事に満足している職業人に見えた。だが決してそうではない。彼は人の喜びが、自分の喜びではないのだ。

道徳心のかけらもなく親愛の情もないクロエは、自己中心的な性質だ。そして自分をより良く見せる事に長けている。村人の健康管理をして、信頼を得るなど容易いことだ。

その時、扉がノックされた。応答すると、入ってきたのはタカオだ。
「お疲れさん」
疲れの知らないアンドロイドであっても、労いの言葉をかける。

「どうだ?皆んなは?」
「やっぱり、何人かはオペをした方が良い状態ですね」
「そうか。薬だけではダメか」
「はい」

タカオは渋い顔で腕を組む。高齢化が進んだ村人の生活の質を上げるには、やはり国民になるのが適切だ。タカオは決意を新たにする。いつか全員で街で暮らすのだ。

「俺は諦めないぞ」
「そうですね」

クロエにとってはどうでも良いことだが、長いものには巻かれろだ。そこでクロエは告げた。

「明日の買い出しの時に、ドラッグストアに行って、また薬やサプリメントや色々な物を調達してきます」
「おう、頼むよ」
「はい」

タカオはクロエをジッと見つめた。そして、思い出す。キリとの会話を。彼女は、クロエの演習が「常軌を逸している」と言い出した。

だがタカオはそうは思わない。クロエは村人を守りたいのだ。熊や猪からという外部の危険と、老化や疾病という内部の脅威だ。タカオはその強い思いを有難く思っていた。

「お前は頼もしいよ」
「わぁ、嬉しい」

クロエはにっこりとする。タカオも笑った。人は自分の信じたいように信じるものだ。もしクロエの内側で悪意が宿っていると知ったなら、彼は驚愕するに違いない。


※アオイはケンジの体調不良を指摘し、国民になろうと提案しました

※キリはクロエの疑念をタカオに伝えました


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