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テンプラニーリョから見えてきた、ブドウの外見と内面

今回は教本の「スペインのブドウ品種」の章、テンプラニーリョのパートから。(スペインさん、ワールドカップ優勝おめでとうございました🇪🇸)

(テンプラニーリョは)標高が高いと、夜間に気温がぐっと下がるため、適度な酸を保つことができる

「ゼロからスタート!ソムリエ試験 1冊目の教科書」

成熟度の高いテンプラニーリョからは黒系果実が香る、タンニンが多い長期熟成タイプのワインがつくられ、成熟度の低いものからは赤系果実の特徴をもった、軽やかで早飲みのスタイルが生まれます。

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天ぷらがどうしてもちらつく名前のブドウ「テンプラニーリョ」は、標高が高い場所が向いているよう。もともと酸が高くない品種のようで、標高が高いとその酸を失いすぎずに済むようだ。

さらに新しく出てきた単語「黒系果実」「赤系果実」。表現自体がよく分からないのと、そもそも成熟度が高い低いとはなんなのか、熟度によってなぜこうも味わいが変わるのか、が気になったので、それぞれ調べてみます。



標高が高いと、なぜ酸が保たれるのか(リンゴ酸と酒石酸の話)

ブドウの酸味のもとは、主に2種類の酸です。
リンゴ酸酒石酸(しゅせきさん)。同じ酸でも性質がかなり違います。

リンゴ酸
熱に弱く、気温が高いとブドウ自身の呼吸(糖や酸をエネルギーとして消費する働き)によってどんどん分解・消費される。しかもこの呼吸は日中だけでなく夜間も続くため、夜の気温が下がりきらない産地ほど、リンゴ酸が失われやすいということになる。

酒石酸
酒石酸は温度による変化がほとんどなく、熟度が進んでもわりと安定して残り続ける。

これを踏まえると、標高が高い産地で酸が保たれる理由がはっきりします。

以前の記事(「ワインの気候区分は、実は世界共通で4つしかなかった」)でも書いた通り、標高が上がると気圧が下がって空気が薄くなり、夜間は熱を留めておく力が弱くなるため、気温がぐっと下がりやすくなります。

夜が涼しいとブドウの呼吸が抑えられ、リンゴ酸が消費されずに残りやすくなる。つまり「標高が高い→夜が冷える→呼吸が抑えられる→リンゴ酸が保たれる→酸のしっかりしたブドウになる」という論理のようです。


「黒系果実」「赤系果実」って何のこと?

次に、そもそも「赤系果実」「黒系果実」というテイスティング表現が何を指しているのか、整理しておきます。

黒系果実: ブラックベリー、カシス(黒スグリ)、ブラックチェリー、ブルーベリー、プルーンなど。色が濃く、甘みやコクを感じやすい果実のイメージ。

赤系果実: 赤いサクランボ、クランベリー、レッドカラント(赤スグリ)、ラズベリー、イチゴなど。色が明るく、酸味を感じやすい果実のイメージ。

ふむふむ。これらの香り、なんとなくイメージはつくものの、それぞれの匂いを嗅いで判別できる自信はないなあ。みんな普段どうやって嗅ぎ分ける練習をしているんだろう?

香水屋さんみたいに、カップの中に匂いを閉じ込めて毎日嗅げるようにしておくとかなのかしら。


「成熟度が高い/低い」とは、何を指しているのか

次に、「成熟度が高い/低い」という言葉そのものも、実はひとつの数値だけを指しているわけではないようです。調べてみると、ブドウの成熟度は大きく3つの側面に分けて考えられているよう。

  1. 糖・酸の成熟度(工業的成熟度): 糖度(Brix)が上がりきり、酸(特にリンゴ酸)が落ち着いてくる段階。数値で測りやすいので、収穫の目安として最も一般的に使われます。

  2. フェノール成熟度: 果皮のアントシアニン(色素)が最大量に達し、果皮や種のタンニンが「量」だけでなく「質」としても穏やかになってくる段階。種の色が緑から茶色に変わっていくのが、分かりやすい目印とされています。

  3. 香りの成熟度: 青っぽい/野菜っぽい香りが薄れ、そのブドウ品種らしい果実香や華やかな香りが出てくる段階。

つまり「成熟度が高い」とは、これら3つの側面すべてが十分に進んでいる状態のことで、「成熟度が低い」はその手前の段階、ということになります。

ちなみに、この3つの成熟度は必ずしも同じタイミングでピークを迎えるわけではなく、糖はもう十分なのにタンニンや香りがまだ追いついていない、というケースも実際にはあるようで、これが収穫時期を判断する難しさにもつながっているようです。


それぞれが変化する仕組み

前の章で出てきた3つの成熟度のうち、糖・酸の成熟度とフェノール成熟度(色とタンニン)について、それぞれの変化する仕組みを見ていきます。香りの成熟度は仕組みが複雑なので、また別の機会に。

糖の成熟度: 葉で行われる光合成によって作られた糖が、ブドウの実へと運ばれて蓄積されていきます。熟すというのは、つまり「糖を運び込む時間が長かった」ということでもあるので、熟度が上がるほど糖度も上がっていきます。

酸の成熟度: 前の章で書いた通り、リンゴ酸は熱によって呼吸で消費されていく性質があります。熟すのにかかった時間が長い(=暖かい時期に長くさらされた)ほど、リンゴ酸はどんどん消費されて減っていきます。一方の酒石酸はあまり変化しないので、結果として全体の酸味は下がっていきます。

フェノール成熟度(色): ブドウの色素(アントシアニン)は、ブドウが色づき始める「ヴェレゾン」という時期を境に作られ始めます。このタイミング自体は、糖の蓄積や、ブドウが熟す際に分泌されるホルモン(アブシジン酸)によってスイッチが入ると考えられているようです。つまり「熟すぞ」という体内サインが色素を増やすサインも兼ねている、ということです。

ただしそれだけでなく、日照(特に紫外線)も色づきを後押しする、もう一つの重要な引き金のようです。房に日光がしっかり当たると、色素合成に関わる遺伝子の働きが強まり、逆に葉に隠れて日陰になった房は着色が弱くなることが確認されています(Journal of Experimental Botany)。畑で色づきを良くするために、房の周りの葉をあえて落として日当たりを良くする「除葉」という作業が行われるのは、この日照の効果を活かしたものです。つまり色の濃さは、「体内の熟すサイン」と「外からの日照」という、2つの要因が重なって決まっている、ということのようです。

フェノール成熟度(タンニン): 果皮や種に含まれるタンニンも、実は色素(アントシアニン)と同じ生合成の経路から作られています。なので、色が濃くなるタイミングとタンニンが増えるタイミングは、体の仕組みとして連動しているようです。さらに種自体も、未熟なうちは緑色で硬く渋みの強いタンニンを持っていますが、熟すにつれて茶色く変化し、タンニンの質そのものも滑らかで穏やかなものに変わっていくとされています。

これらが同時に進むからこそ、「よく熟したブドウ=糖度が高く、酸が穏やかで、色が濃く、タンニンがしっかり(かつ滑らか)」という組み合わせが生まれ、逆に「熟度が低いブドウ=糖度が低く、酸が高く、色が薄く、タンニンが硬い」という組み合わせになる、ということのようです。

この延長で考えると、「黒系果実・タンニンが多い長期熟成タイプ」は熟度が高いブドウの特徴と、「赤系果実・軽やかで早飲み」は熟度が低いブドウの特徴とうまく対応しているように思います。ただし、赤系果実/黒系果実という具体的な香りの種類と、色素の種類(アントシアニンにも複数の型があるようです)がどこまで直接結びついているかは、まだ研究段階の部分もあるようで、断定的な一次資料までは見つけられませんでした。

まとめ

  • 酸味のもとは主に酒石酸とリンゴ酸で、リンゴ酸だけが熱に弱く呼吸で消費される。標高が高い産地は夜間の気温が下がりやすく、呼吸が抑えられるためリンゴ酸(=酸味)が保たれやすい

  • 「赤系果実」「黒系果実」は味わいの傾向を果物にたとえたテイスティング表現

  • 「成熟度」は1つの数値ではなく、糖・酸の成熟度/フェノール成熟度/香りの成熟度という3つの側面の組み合わせで、必ずしも同時にピークを迎えるとは限らない

  • 糖・酸・色・タンニンが熟度とともに変化するのは、糖の蓄積時間・リンゴ酸の熱による消費・色素とタンニンの共通した生合成経路という、それぞれ別々だが連動したメカニズムによるもの

  • 熟度が高いほど黒系果実・しっかりタンニン、熟度が低いほど赤系果実・軽やかタンニンという対応関係はありそうだが、香りの種類と色素の種類の直接的な結びつきまでは、まだ推察の域を出ていない部分がある

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