【犯罪心理学×更生】少年院を出た後|更生の構造と社会の壁
少年院を出た日のことを、今でも覚えている。
手続きを終えて門を出ると、世界がそのまま続いていた。
車が走っていて、人が歩いていて、コンビニがあって、スマホが光っていた。自分だけが止まっていたのに、外は何事もなく動き続けていた。
その感覚は、解放感というより、切断感に近かった。
どこに繋がればいいのか、誰に話せばいいのか、何から始めればいいのか。答えを誰も教えてくれなかった。
あの瞬間が、「更生の構造」というテーマを考え続ける原点になっている。
1|少年院とは何をする場所か

少年院は罰を与える場所だと思われがちだが、法律上の位置づけは「矯正教育を行う施設」だ。
少年法に基づき、非行少年の再非行防止と社会復帰を目的として、生活指導・職業指導・教科教育・体育指導・特別活動指導を行う。認知行動療法を取り入れたプログラムや、被害者への理解を深めるワークも実施されている。
施設の中での生活は、規律が厳しく、時間が管理され、自由は制限される。
それでも、まともに食事ができて、屋根があって、誰かと話せる環境は、外の生活よりも安定していたという少年が少なくない。
これは施設の問題ではなく、施設に来る前の生活環境の問題だ。
2|出院後に何が起きるか

問題は出た後だ。法務省のデータによれば、少年院出院者の再入院・再犯率は出院後2年以内で約20〜25%に上る。この数字をどう読むかは難しい。
「4人に1人が再犯する」と見ることもできるし、「4人に3人は再犯していない」と見ることもできる。ただ、再犯した側の背景を見ると、共通するパターンが浮かぶ。
住む場所がない。働く場所がない。頼れる人間がいない。この三つが重なったとき、再犯のリスクは急上昇する。少年院でどれだけ丁寧な矯正教育を受けても、出た先の環境がそれを支えられなければ、変化は持続しない。
施設の中での更生と、社会の中での更生は、別の問題だ。
3|社会の壁という現実

出院後に直面する壁は、想像より具体的だ。まず就職だ。履歴書に空白期間があれば理由を聞かれる。
少年院にいたと正直に言えば、ほとんどの場合、採用されない。嘘をつけばいつかバレるリスクを抱えて働くことになる。どちらを選んでも、スタートラインに立つ前に消耗する。
住居の確保も難しい。保証人がいない、連帯保証を引き受けてくれる家族がいない、初期費用がない。
この壁を越えられずに、路上生活や劣悪な環境に流れ込む元少年がいる。
そこで出会う人間関係が、再び非行や犯罪への入口になるという連鎖は、支援の現場では繰り返し報告されている。
学歴の問題もある。少年院在院中に高卒認定を取得できる制度はあるが、十分に活用されていない。
中卒のまま社会に出ると、就職の選択肢が著しく狭まり、低賃金・不安定雇用という経済的な脆弱性が再犯リスクと直結する。
4|保護観察という仕組みとその限界

出院後の多くの少年には、保護観察が付く。保護観察官と保護司が連携して、定期的な面談や生活状況の確認を行う仕組みだ。
保護司は地域のボランティアで、身近な大人として少年の相談に乗る役割を担う。
この仕組みは理念としては優れている。地域の人間が関わることで、施設と社会の橋渡しができる。
ただし、保護司の高齢化と担い手不足が深刻で、一人の保護司が多くのケースを抱える状況も生じている。
また、保護司との相性や地域差によって、支援の質に大きなばらつきがある。制度はあるが、均一に機能していない。
5|「更生」とは何かという問い

ここで根本的な問いに戻る。更生とは何か。「二度と犯罪をしないこと」だとすれば、それは消極的な定義だ。
「社会に参加して、生活を営めること」だとすれば、それは環境の問題でもある。
「自分の過去と向き合いながら、自分なりの生き方を作ること」だとすれば、それは長い時間のかかる内的なプロセスだ。
僕が少年院を出てから今に至るまでに、どれだけの時間がかかったかを考えると、「更生は施設を出た瞬間に完成する」という発想がいかに現実から離れているかがわかる。
更生は終着点ではなく、継続するプロセスだ。
そのプロセスを支える関係性と環境が社会側にあるかどうか、それが問われている。
6|社会が問われていること

少年院出院者の再犯を「本人の意志の問題」として片付けることは、現実を見ていない。
住む場所があり、働ける環境があり、話せる人間がいれば、再犯率は下がる。
これは感情論ではなく、国内外の研究と実践が積み重ねてきた事実だ。
社会が受け入れる仕組みを整えることが、個人への説教より再犯防止に効果的だ。
「約束と関係性こそがすべて」という僕の出発点は、少年院を出た後の経験から来ている。繋がれる場所があったこと、話を聞いてくれる大人がいたこと
それが今の自分の土台になっている。
それがなかったら、どうなっていたかはわからない。
制度ではなく関係性が、人を変える。
ただ、その関係性を生みやすくする制度の設計は、社会の責任だ。
参考資料
・法務省「令和5年版 犯罪白書」2023
・法務省矯正局「少年院における矯正教育の概要」2024
・原田隆之『入門 犯罪心理学』筑摩書房、2015
・山本譲司『累犯障害者』新潮文庫、2009
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