【犯罪心理学×更生】再犯はなぜ起きるか|環境と支援の失敗
再犯した人間を見て、「やっぱり変われなかった」と言うのは簡単だ。
しかしその言葉は、問いを閉じてしまう。
「なぜ変われなかったのか」「何があれば変われたのか」
この問いを持ち続けることが、再犯を減らすために必要な思考だ。
再犯は本人の意志の失敗である前に、多くの場合、環境と支援の失敗だ。
この構造を理解しないまま「更生しろ」と言い続けることは、水のない場所で泳げと言うに等しい。
1|再犯の統計が示すこと

法務省の犯罪白書によれば、刑事施設への入所者のうち、再入所者——過去に受刑経験のある者——の割合は約50%を超えている。
つまり、刑務所に入る人間の半数以上が「また戻ってきた人」だ。この数字は、現在の更生支援の構造が機能不全に陥っていることを示している。
再犯のタイミングにも特徴がある。出所・出院後の最初の数ヶ月が最もリスクが高い。住居が定まらない、仕事が見つからない、頼れる人間がいないという状況が重なる時期と、再犯のピークが一致する。これは偶然ではなく、因果だ。
2|再犯リスクを高める因子

犯罪心理学では、再犯リスクを高める要因を「犯罪誘発的ニーズ(Criminogenic Needs)」として整理している。
代表的なものを挙げると、反社会的な仲間関係、薬物・アルコール依存、住居の不安定さ、就労の困難、認知の歪み(「自分は被害者だ」「相手が悪い」という思考パターン)、そして感情調節の困難さだ。
重要なのは、これらは「性格の問題」ではなく「介入可能な問題」だという点だ。
仲間関係は変えられる。依存症には治療がある。住居は確保できる。就労は支援できる。認知の歪みは認知行動療法で修正できる。再犯リスクは、適切な介入があれば下げられる。
問題は、その介入が十分に機能していないことだ。
3|支援の空白地帯

日本の更生支援の最大の問題は、「施設内支援」と「地域支援」の間に巨大な空白があることだ。
刑務所・少年院の中では、ある程度体系化されたプログラムが提供される。
しかし出た後、その支援を継続して受けられる場所が圧倒的に少ない。
更生保護施設(ハーフウェイハウス)は存在するが、定員に対して需要が多く、すべての出所・出院者を受け入れられない。
就労支援の制度もあるが、「元受刑者・元少年院出院者」という経歴を持つ人間を積極的に採用する企業は少ない。
民間の支援団体が補完しているが、財源と人材の限界がある。制度の網の目をすり抜けた人間が、支援なしに社会に放り出される構造が続いている。
4|依存症と再犯の深い関係

再犯の背景として、薬物・アルコール依存の問題は切り離せない。覚醒剤事犯の再犯率は特に高く、薬物依存の治療が更生支援の核心課題の一つだ。
しかし日本では、薬物依存を「犯罪」として処罰する枠組みが強く、「疾患」として治療する視点が弱い。
薬物依存は脳の報酬回路の変容という医学的な問題だ。
意志の力だけで克服することは、骨折した足で走れと言うのと同じくらい非現実的だ。
ダルク(DARC)のような民間の薬物依存回復支援施設が大きな役割を果たしているが、公的な支援との連携や財政的な安定性には課題が残る。
処罰だけでは依存症は治らない。治療と回復の場所が、再犯防止の根幹になる。
5|認知行動療法と「考え方の癖」

更生支援の手法として、認知行動療法(CBT)の有効性は国際的に確立されている。
犯罪につながる思考パターン——「自分は損をした」「相手が悪い」「どうせ自分はダメだ」——を認識し、より現実的で適応的な思考に置き換えるトレーニングだ。
日本の刑事施設でも「コアプログラム」として導入が進んでいるが、実施の質と量にばらつきがある。
プログラムを受けた後、その思考の変化を日常生活の中で維持するためのフォローアップが不十分だという指摘もある。施設の中で身につけたスキルが、過酷な出所後の現実の前で崩れていく。
6|「諦めない支援者」の存在

データや制度の話を続けてきたが、最後に、再犯防止で最も効果があることの一つとして研究が繰り返し指摘しているのは「継続的に関わる支援者の存在」だという話をする。
保護司でも、NPOのスタッフでも、元当事者のピアサポーターでも——「あなたのことを諦めない」と言い続ける人間が一人いるかどうかが、再犯率に影響する。
これは感情論ではなく、アタッチメント理論と一致する実証的な知見だ。安全基地となる人間関係が存在するとき、人は変化できる。
施設でのプログラムより、地域での継続的な関係性の方が、長期的な更生に寄与するというエビデンスがある。
制度を整えることと、人が人に関わることは、どちらかではなく両方必要だ。
7|最後に少しだけ感想

再犯はなぜ起きるか。支援が途切れるから。環境が変わらないから。頼れる人間がいないから。
そして社会が「もう一度失敗した人間」を受け入れる準備ができていないから。
この構造を変えずに、個人の意志だけを責め続けることは、問題を個人に押しつける社会の怠慢だ。
更生は孤独な作業ではない。社会全体で支えるものだ。
その認識が広がることが、再犯率を下げる最初の一歩だと思っている。
参考資料
・法務省「令和5年版 犯罪白書」2023
・Andrews, D.A. & Bonta, J. “The Psychology of Criminal Conduct”, 5th Ed., Routledge, 2010
・原田隆之『サイコパスの真実』筑摩書房、2019
・NPO法人DARC「薬物依存からの回復支援」活動報告書、2024
・浜井浩一『刑務所の風景——社会の窓から見た刑事司法』日本評論社、2006
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