見出し画像

アキラの青春物語 第39話


第39話 ミレニアムだよ全員集合

クリスマスが終わっても、
俺の心の中はまだ少しだけ浮かれていた。

ミホと過ごした初めてのクリスマス。

みなとみらいの景色、
観覧車、
マフラー、
あの時間の空気――。

思い出すたびに、
口元が勝手にゆるむ。



アキラとミホ


「おいアキラ、
     何ニヤニヤしてんだよ。
     気持ちわりぃな」
トシヤにそう言われて、
俺はハッとした。

「してねぇよ」
「してるしてる。昨日もしてた」
「してたな」
「してた」
ユウ、ショウ、ヨウタまで乗っかってくる。

冬休みの昼下がり。

俺たちはいつものように地元で集まっていた。

ショウの原付の後ろに
乗せてもらって公園へ行き、
グローブとボールを持って、
野球の練習をする。
これが最近の楽しみになっていた。

タイガースの試合はオフシーズン。

だったら自分たちでやるしかない。
「よし、ノックいくぞー!」

ヨウタがバットを持つと、
みんなの目つきが少しだけ真面目になる。

地元でふざけてる時も多い俺たちだけど、
野球になると変なところで熱くなる。

そこが、なんだかんだ好きだった。

「アキラ! 前出ろ前!」
「わかってるって!」
カキン、
と高く上がった打球を追いかける。

冬の空は高くて、
息は白くて、
でも身体はすぐ熱くなる。

「うおっ、まぶしっ……あ、やべ!」
ポトッ。

「おいー!」
「落とすなよー!」
「クリスマスボケしてんじゃねぇぞ!」
みんなに笑われて、俺も笑った。

「うるせぇ、次取るからいいんだよ!」
休憩時間、
公園のベンチに座ってジュースを飲む。
缶の冷たさが手にしみる。

ショウがコーラを一気に飲んで、
ぷはっと息を吐いた。

「なぁ」
「ん?」
「大晦日、集まろうぜ」
その一言で、空気が変わった。

ヨウタがすぐ食いつく。
「いいじゃん! どこで?」
「いつもの公園でいいっしょ」

「寒いけど?」
「寒いからいいんだろ、年末感あるし」
トシヤがニヤニヤしながら言った。

「家でテレビ見てるより
  絶対おもしれぇって。
  紅白とか格闘技とか、
  どうせ後から話聞けるし」
「いや格闘技は見たいだろ」
「お前、そこかよユウ」

みんなが笑う。
俺も、すでにワクワクしていた。

家で年越しそば食べて、
テレビ見て、気づいたら寝る。

それも悪くないけど――
いや、今の俺は、それじゃ足りなかった。

「いいな、それ。集まろうぜ」
「だろ?」
「どうせなら、いろんなやつ呼ぼうぜ」
トシヤが言うと、ショウも大きくうなずく。

「それな。男だけじゃもったいねぇ」
「お前それ言いたいだけだろ」
「当たり前だろ!」
ヨウタが真顔で言って、全員吹いた。

「じゃあ誰呼ぶ?」
「地元メンバーだな」
「アツコとか?」
「ジュンも呼べるんじゃね?」
「ナカムも来そう」
「イシザキは?」
「あいつ、寒いって言いながら来るタイプ」
「ウスイも呼べるだろ」
名前が次々に出てくる。

こういう時間が、たまらなく楽しい。
「よし、手分けして連絡しようぜ」
「アキラ、お前PHS持ってるだろ。今かけろよ」 「今!?」
「今だよ。勢いが大事」
ショウに背中を押され、
俺はPHSを取り出した。
アンテナを伸ばして、番号を押す。

この“かける前の緊張感”が、
妙に好きだった。
プルルル……。

「もしもし?」
「あ、アツコ? アキラだけど」
「え、なに急に。どした?」
「大晦日、公園で集まるんだけど来る?」
「行く行く。何時?」
「たぶん11時くらい?」
「オッケー。じゃ、ジュンにも言っとくわ」
「マジ? 助かる」
「てかミレニアムじゃん。行くに決まってるし」
テンション高っ。

電話を切ると、みんなが身を乗り出してきた。
「どうだった?」
「秒でオッケー」
「よっしゃ!」
次はジュン、ナカム、イシザキ、ウスイ……。
かけるたびに、みんな反応がいい。

「え、集まるの? 行く行く」
「ミレニアムだろ? そりゃ行く」
「寒いけど行くわ」
「誰来る? え、アツコ来るの? 行く」
最後のやつ、絶対それが理由だろ。

「お前ら単純すぎるだろ」
「お前もな」
「俺は違う」
「いや、お前は一番わかりやすい」
ユウに言われて、反論できなかった。
たしかに俺は今、なんでも楽しかった。

ミホと付き合って、
友達とも遊べて、
冬休みで、
年末で、
しかもミレニアム。

世界がちょっとだけ、
前より光って見えていた。




大晦日。

夕方からソワソワしていた俺は、
何回も時計を見ていた。

「まだ行かないの?」
母さんに笑われる。

「まだだよ。11時くらい」
「夜遅いんだから気をつけなさいよ」
「わかってる」
そう答えながら、
俺は自分の部屋でPHSを手に取った。

ミホに電話をかける。
プルルル……プルルル……。

「もしもし?」
「ミホ?」
「うん、アキラ。どうしたの?」
「今日さ、
   これから地元のみんなで集まって遊んでくる」 「大晦日だもんね」
「うん。公園で」
「寒そう」
「寒いと思う」
ミホがくすっと笑う気配がした。

「ちゃんとあったかくして行きなよ?」
「してるしてる」
「ほんとに?」
「たぶん」
「たぶんって何」
俺も笑った。

ミホの声を聞くと、
なんか落ち着く。

クリスマスの余韻がまだ残っているのか、
電話越しでも少し照れる。

「ミホは家?」
「うん。家族で年越し。
   たぶん0時は起きてるよ」
「じゃあ、あけおめ電話していい?」
「いいよ」
「ほんと?」
「うん。待ってる」
「……やった」

自分で言っておいて、
声がちょっと弾んだ。

「アキラ」
「ん?」
「バイクとか、無茶しないでね」
「……うん」
「気をつけて遊んできて」
「ありがと。行ってくる」
「いってらっしゃい」
電話を切ったあと、
しばらくPHSを見てしまった。

幸せって、
こういうことかもしれないと思った。



その時。
ポポポポポ! ブンブン!
家の外から、聞き慣れた原付の音が響いた。
「来た」

窓からのぞくと、
ショウがヘルメット片手に
こっちを見ている。

「アキラー!」
「今行く!」
玄関で靴を履きながら母さんに言う。

「行ってくる!」
「はいはい、気をつけてね!」
「うん!」
外に出ると、夜の空気が冷たくて、
一気に目が覚めた。

ショウとアキラ


「おせーよ」
「まだ10分前だろ」
「年末は10分が命なんだよ」
「なんだその理論」
ショウの後ろにまたがる。

今では当たり前みたいにしているけど、
1年前の俺なら考えなかった行動だ。

夜11時に、
原付二人乗りで遊びに行くなんて。

でも、
今の俺はそれを怖いと思わなかった。

むしろ、
世界の方から「こっち来いよ」
と誘ってくる感じがした。

キラキラした方へ。
おもしろい方へ。
知らない方へ。
振り返る理由なんて、なかった。

「飛ばすぞ!」
「おい寒いからほどほどにしろ!」
「無理! テンション上がってる!」
「それが一番危ねぇんだよ!」

ショウの笑い声と排気音が夜道に溶けていく。
公園に着いた瞬間、もう賑やかだった。

「おせー!」
「待ってたぞー!」
「アキラ来た!」
トシヤ、ユウ、ヨウタはもちろん、
ジュン、ナカム、イシザキ、ウスイまでいる。

しかもその奥には、
アツコたちの姿も見えた。

「うわ、ほんとに来てる」
「だから言ったろ」
ショウが得意げに言う。

アツコが手を振ってきた。
「アキラー! あけおめまだー?」
「まだだろ!」
「練習練習!」
ジュンも笑っている。

「ミレニアムなんだから、
今日は騒がなきゃ損じゃん」
「その理屈、なんか正しい気がする」
イシザキは寒そうに肩をすくめていた。

「いやマジで寒いな」
「お前、来る前から言ってたよなそれ」
「でも来ただろ?」
「たしかに」
ウスイは缶コーヒーを持ちながら、
すでに大人ぶっている。

「こういう日はホットだな」
「なんでお前だけ渋いんだよ」
なんとなく輪ができて、
なんとなく崩れて、
また別の輪ができる。

何をするわけでもないのに、
ずっと楽しい。

アキラの仲間たち


中学時代の先生のモノマネを始めるやつ。
バイクの改造の話で熱くなるやつ。
恋バナをふっては茶化されるやつ。
ジュースを飲んでるだけなのに、
やたら盛り上がるやつ。

男だけの時とは明らかに空気が違う。

みんなニコニコ……
いや、どっちかというとニヤニヤしていた。

「お前、
    さっきからアツコの近く行きすぎじゃね?」

ユウがトシヤに言う。
「行ってねぇよ、たまたまだよ」
「3回連続で“たまたま”あるか」
「あるだろ」
「ねぇよ」

その横でヨウタが小声で言った。
「俺、今日なんか髪いい感じじゃね?」
「知らねぇよ」
「お前に聞いてねぇ」
笑いすぎて腹が痛い。

時計を見る。
11時50分。

「あと10分じゃん!」
誰かが叫ぶ。
一気に空気がざわつく。

「カウントダウンどうする?」
「10秒前からでいいだろ」
「いや1分前からやろうぜ」
「長ぇよ!」
「じゃあ30秒!」
「中途半端!」

こういう、
どうでもいいことで本気で揉める感じが、
また楽しい。

11時59分。
「おい、静かにしろ!」
「無理だろ!」
「せーので行くぞ!」
そして誰かの声に合わせて、
みんなで叫んだ。

「10!」 「9!」 「8!」 「7!」 「6!」 「5!」 「4!」 「3!」 「2!」 「1!」
「うおおおおおおーーー!!」
「あけおめーーー!!」
「ミレニアムだーー!!」
「2000年問題だーー!!」
「電気消えてねぇぞ!!」
「水道も出るぞ!!」
「よかったーー!!」
公園中に笑い声が響いた。

誰かがジャンプして、
誰かが拍手して、
誰かが意味もなく走り出す。

ハイテンション


テンションが上がりすぎて、
全員ちょっとバカになっていた。

でも、こういうバカは最高だった。

俺は少し輪を外れて、
PHSを取り出した。

アンテナを伸ばして、
ミホに電話する。
プルルル……。

すぐにつながった。
「もしもし!」
「ミホ、あけましておめでとう!」
「アキラ、あけましておめでとう!」
向こうも少し嬉しそうな声だった。

後ろではまだみんなが叫んでいる。

「うるさいね、楽しそう」
「めっちゃうるさい」
「ふふ、いいね」
「ミホ、今何してた?」
「家族でテレビ見てた。
   今ちょうど年越したところ」
「そっか」

「アキラは?」
「公園。みんなで騒いでる」
「想像できる」
「できるの?」
「できる。アキラ、今すごい笑ってるでしょ」 「……笑ってる」
「やっぱり」
なんだかそれだけで、
また嬉しくなる。

「今年もよろしくな」
俺が言うと、
少し間があって、
ミホが言った。

「うん。今年もよろしくね」
「また遊ぼうな」
「うん。いっぱい」
「……よし、約束」
「約束」
電話を切ると、
胸の中があったかかった。

ミホとアキラ


公園の寒さは相変わらずなのに、
不思議だった。
そのあとも、
俺たちは騒ぎ続けた。

「おい、今年の目標言おうぜ!」
「急だな」
「じゃあ俺、もっとバイク速くする!」
「やめろ危ねぇ」
「俺、彼女つくる!」
「毎年言ってる」
「うるせぇ!」

アツコたちの方でも盛り上がっていた。
「え、初詣行く?」
「今から!?」
「寒いし無理!」
「でもなんか行きたくない?」
「わかるー!」

誰かが歌い出し、
誰かがツッコミを入れる。

年が明けたのに、
やってることは別に変わらない。

でも、それがすごく特別に感じた。
……と、その時。

「おーい、君たち」

低い声がして、
みんな一斉に固まる。
振り向くと、
警察官が二人立っていた。

「やばっ」
「来た」
「終わったか?」

一瞬、空気が止まる。


でも、
年配の警察官の方は怒鳴るでもなく、
少し困った顔で言った。

「盛り上がるのはいいけどね、
  近所迷惑になっちゃうから」
「……すみません」
トシヤが珍しく素直に頭を下げる。

もう一人の警察官が、
少し笑いながら言う。

「今日はお正月だから、
  今回は見逃す。
  だから、早く帰りなさい」
「え、マジで?」
ヨウタが思わず口にして、
ユウに肘でつつかれる。

「お前、余計なこと言うなって」
俺たちは口々に
「すみませんでした」
「ありがとうございます」
と言って、
渋々解散することになった。

「えー、まだいけるって!」
「いけねぇよ」
「また集まればいいだろ」
「次いつ?」
「知らん。でもまたやろうぜ」
その“また”があるのが、嬉しかった。

ショウの原付のところまで戻りながら、
俺は空を見上げた。
冬の夜空は冷たくて、
でもどこか澄んでいて、
新しい年の始まりっぽかった。

「アキラ、何ぼーっとしてんだ?」
ショウがヘルメットを投げてよこす。

「いや、なんか……すげぇ年越しだなって」
「だろ? ミレニアムだからな」
「それ、関係あるのか?」
「あるある。全部ミレニアムのせい」
ショウは適当なことを言って笑う。

でも、たぶん少しだけ本当だった。

クリスマスの余韻。
ミホの声。
地元の仲間たち。
原付の夜風。
公園での大騒ぎ。

警察に注意されて解散する感じまで。
去年の俺にはなかった景色が、
今は当たり前みたいに目の前にある。

俺はきっと、少しずつ変わっている。
子どものままじゃない。

でも大人でもない。
その途中が、たぶん一番おもしろい。

「今年も、たくさん遊ぼうぜ」
俺が言うと、ショウがすぐ返した。

「遊ぶだけかよ」
「……じゃあ、たくさん新しいことする」
「それならいいな」
原付のエンジンがかかる。

俺はショウの背中につかまりながら、
心の中でそっと誓った。

今年もたくさんの新しい経験をして、
遊びまくるぞ。

そう心に決めた、15の夜だった。

15の夜

#アキラの青春物語
#青春ミレニアム
#大晦日だよ全員集合
#ミレニアムだよ全員集合
#青春小説
#恋愛小説
#青春ストーリー
#創作小説
#連載小説
#note創作
#高校生の青春
#地元の仲間
#年越しの思い出
#大晦日
#カウントダウン
#2000年問題
#原付青春
#エモい物語
#懐かしい青春
#続きが気になる

いいなと思ったら応援しよう!