節分の半分は優しさでできています(#毎週ショートショートnote)
「先生、最近豆をぶつけられないんです」
精神科診察室のドアを遠慮がちに開けて、赤鬼が入ってきた。
角は少し丸く、金棒は入口にきちんと立てかけてある。
「痛いもんね」
「違います。人間が豆まきをしなくなったんです」
鬼は椅子に座り、ぽつりと言った。
「ぼくたち、悪者の役をしてますけど、本当は年に一度の節分の日、人間の中の怒りとか、妬みとか、不安とか、発散したい気持ちを全部背負って、追い出される係なんです。豆をぶつけられながら」
医師は白衣のまま鬼の目を見つめた。
「なるほど、優しいんだね」
「でも最近は、うるさいとか面倒とかで、追い出されないままの気持ちが家に残って、人が刺々しくなるんです」
医師はしばらく考えてから、ポケットの豆を一粒、机に置いた。
「診断名は社会的節分不足症候群」
「治りますか」
「うん、豆まきじゃなくてもいい。誰かのせいにして発散する、年に一度の儀式が必要なんだ」
鬼は少し安心した顔をした。
「じゃあ今日は、退散しなくていいですか」
「いいよ。代わりに一言だけ言って帰ろう」
二人は小さく声をそろえた。
「福は内。優しさも、内。」
鬼は金棒を担ぎ、少し軽くなった背中で帰っていった。
節分の半分は、やっぱり優しさでできている。
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