ドッグタグ 《詩》

「ドッグタグ」
頑丈に補強された壁と金網
監視塔とサーチライト
剃刀みたいな鋭い刃の付いた
有刺鉄線
壁の向こう側のアメリカ
死や危険の存在があるからこそ
俺に「自分は生きている」
と言う実感を与えてくれる
正真正銘の恐怖の中で
共に血を与えて
共に血を受け
血を共有する
彼は日々訓練を重ねている
そしてジムで身体を鍛えている
それは日本人が言う
スポーツジムでのトレーニングとは
根本的に違う
ダイエットや見せかけの筋肉は
必要とされてはいない
生き残る為の努力だ
死なない為の努力だ
首に付けた認識票 ドッグタグ
彼は何故ドッグタグが二枚
必要なのか知ってるか
そう話を続けた
一枚は戦場で戦死した遺体に残し
身元確認に使う
もう一枚は持ち帰って遺族への
報告、確認手続きに使う為さ
彼は僕に背中を向けた
首の少し下に円形の刺青
それは明らかに日本の家紋だった
どうして家紋を…
そう訊いた僕に
彼は カッコイイだろう
女房の家の家紋なんだ
そう言って微笑み 少し下を向いて
しばらくしてから顔を上げた
俺が戦場で頭を吹っ飛ばされても
この刺青で俺だって事がわかるだろ
そう彼は答えた
彼の目は金網フェンスを超えた
遠くの空を見ていた
もう随分と前の話しになる
よく彼のエスコートパスで
米軍基地中に入りフードコートで
ハンバーガーやチキンを食った
味の薄いアメリカン バドワイザー
酷い味覚のルートビア
よくこんなもんが飲めるよな
アメリカ人の舌は
おかしいんじゃないか?
湿布みたいな味しかしない
そう言った僕に
お前 湿布食った時あんのかよ
そう言って彼は笑った 僕も笑った
あれから彼は世界を
移動し続けていた
韓国、ハワイ、アメリカ…
時々 彼から手紙が届いていた
最後に僕のところに届いた手紙は
彼の奥さんからだった
其処には彼のドッグタグが
送られて来ましたと
そう書かれていた
頑丈に補強された壁と金網
監視塔とサーチライト
剃刀みたいな鋭い刃の付いた
有刺鉄線
壁の向こう側のアメリカを
僕は見ている
時間の経過と沈黙と
風だけが強く吹いている

