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群馬の迷探偵マツの事件簿⑱ ──ミッション~ボンボン二代目社長を暴け!

こんにちは、群馬の迷探偵マツです。

俺ら探偵の日々の調査は、真剣なクライアントの要望に必死で応えようとする俺ら探偵という構図だ。

真剣な大人と大人が繰り広げる人間模様、俺ら探偵の脳内は大量のアドレナリンが分泌される。

緊迫した場面では、本当に「ミッションインポッシブル」のテーマが流れたりする。

その反面、ドリフターズのコントのエンディング曲も何度も聞いている(笑)

今日の話はこっちかな…

(今までの実際の案件から、核となる要素を抜き出して、またはヒントをもらい、設定や登場人物などフィクションを加えて短編小説にしました。)


ミッション~ボンボン二代目社長を暴け!

真夏の方程式

6月を迎え、晴れた日には突き刺すような日差しがやってきた。
今年も群馬の「長い夏」がまた始まったようだ。
俺は夏になるといつも思い出す案件がある。
数年前、梅雨明けの8月のことだ。

ここは、個室居酒屋の堀付きの和室。
群馬県内や埼玉県、栃木県など近郊から頼まれることも多いが、事務所以外の面談場所は、まずこのチェーン居酒屋だ。

自分が最初に受付して部屋に入り、その部屋番号を相談者に伝える。
地元の相談者が、知人に見られても、一人で出入りなら全く問題無いだろう。

多分、県内の全店を制覇している自負がある。

俺は対面に座る男性、森田(仮名)と名刺交換をした。
調査の面談で、名刺交換は珍しく、ほとんどしない、俺が渡すだけだ。
今回は会社として、ある社員の調査をして欲しいらしい。

実は、コロナ禍以降、社員調査が増えている。
それも、ほとんどがずる休みを疑った勤怠調査だ。
コロナにかかったと言えば堂々と休めるし、リモートで自宅で働いて給料をもらう癖が抜けなくなったか、要は体が楽を知ってしまった人間の精神の弱さだろうか...

クライアントの森田さんは、ある老舗和菓子屋の専務で、今回のターゲットは、驚いたことに代表取締役社長だった。

「マツさん、あいつ(社長)の不倫でも発覚すればしめたもんです。宜しくお願いします」

現社長は生粋のお坊ちゃん、まだ就任三年目の四十代だ。
現社長は、三十代から専務として働いていたが、まあ使えないボンボンで、居ても居なくても同じらしい。

社員は誰も相手にして無いような存在だったが、当然の世襲制で3年前社長に就任、でもお父さんは会長として残っており、会長と森田さんたちで、会社の経営を支えてきたが、去年会長が心筋梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人に...

それ以降も、今まで通り会長時代の旧経営陣が実権を握って経営は回しているが、さすがに社長の問題は目に余るものになってきたようだ。
まだ会長の奥さんがご存命の内に、何か手を打とうと言うことになった。

会社のホームページでは、満面の笑みで経営理念を語っているが、会社ではただの厄介者、朝礼前に自ら駐車場のゴミ拾いをするぐらいしか、存在価値が無いという。

「朝礼が終わると、気づけば居ないんです。毎日どこで何をしているのか……」

彼らは、社長を解任するための「最強の武器(不倫の証拠)」を求めていた。

調査初日

午前8時過ぎ、会社から出てきた社長の黒いレクサスは、そのまま裏手にある「実家」へ吸い込まれた。

「マツさん、ここは女のとこ?」
今日の相棒は、スナック「H」のエミさん、今日も「女豹のポーズ」で社長を撮ってくれている。
「いや、今は誰も住んでいないはずの、先代の家だ」
森田さんに前もって聞いていた情報だ。

「社長、出社して5分で帰宅かよ」
俺はハンドルを握りながら苦笑いした。
灯台下暗し、こんなすぐ裏でサボってるか…

2時間後に動いた社長は、ある屋敷へ。
「出た!女か?」
森田さんに住所を送ると、元会長の別宅だった…

午後、動き出したレクサスが向かったのは、街外れの定食屋だった。
俺たちも、チャンスと昼飯の買出しへ。
浮気相手でも一緒なら潜入もするが、一人じゃ意味が無い。

いつもの相棒なら、吉野家とかすき家で済ますが、奮発して「登利平」の弁当を買ってきた。
「うわー、マツさん、久々よ、登利平!」

社長のレクサスを監視できる駐車場で、俺たちは弁当を広げた。

好きな弁当を買っていいよと金を渡したが、なぜか、手羽先とネギ間の焼鳥も買ってきやがった。
「これも美味いのよね、マツさんも好きと思ってさ」って、飲んでるわけじゃない。
「俺はいいや」と言うと
「あら、じゃあ、さやかの夕食に持って帰って良い?」
ちゃっかりしてるぜ、最初からそれが狙いだろ(笑)

「群馬県民のソウルフード」を頬張りながら、俺たちは社長が出てくるのを待った。

そうこうしてるうちに、食べ終わった社長が黒のレクサスに戻った。
俺もエミさんもシートベルトをして待つが、エンジンはかかったが、レクサスは動かない...

5分。10分。
「マツさん、女にでも連絡してるのよ、きっと」
15分。20分。
ちょっと覗いてくると、エミさんが出て行った。
こういう時女性は助かる。
社長が見たとしても、まさか自分を探ってるという警戒心は起きないだろう。

「マツさん、椅子を全開に倒して、高いびきよ」
なるほどね、聞いてた通りの自堕落だ。

結局、社長は食後2時間の昼寝を完遂し、その後、また途中の公園の駐車場に移動して、さらに1時間半の「二次睡眠」に入った。
午後の勤務時間は、まるまる夢の中で使い果たされた。

夕方ひょっこりと会社に顔を出し、夜7時ぐらいで退社した。
そして、日付が変わるまで、パチンコを打っていた。
昼間寝てるわけだ…

調査二日目

二日目の調査も、デジャヴのようだった。
朝のゴミ拾い、実家と別宅での午前休、そして遠方の「二郎系ラーメン店」への遠征。

俺とエミさんは、今日はマクドナルドのドライブスルー。
バリューセットに「マツさん、ビッグマックも買っていい?」とまたさやかちゃんの分も買われてしまう。

ニンニクマシマシで腹を満たした社長が向かったのは、昨日とまた同じ公園だった。
今日は公園駐車場では無く、路駐した社長。
理由は一目瞭然だった。
駐車場は日当たりが良く、真夏は冷房しても暑い。
レクサスが停まったのは、大きな木で日陰がある公園の脇だった。

「マツさん、またお昼寝だよ、きっと」
マクドナルドのポテトを頬張るエミさんと、田んぼの中の砂利道から望遠で昼寝を撮る作戦。

1時間後、寝ぼけ眼で車から降りてきた社長が、辺りをキョロキョロと見回した。
そして、あろうことか公園の植え込みに向かって、股間を探り始めた。

「あ~あ……立ちションだぜ、このおっさん」
「あははは、やだぁ! レディの前よ!」

「くっ、…..これって…….何の証拠?エミさん」
笑いで手が震える俺は、ぶれないように必死で脇を絞めて、カメラを構えている。
その時、社長の前をウォーキングのカップルが通りかかった。

慌ててこっちを向き、ズボンのチャックに手を突っ込んだまま固まる四十代の社長。

「あっはっはっー、コントだわ、これ(笑)」エミさんは大受けだ。
「うわー、ヤバい、今映っちゃった気がする…」俺は、姿が情けなさ過ぎて引いていた。

望遠レンズ越しに見えるその顔は、経営者としての威厳など微塵もなく、ただ叱られた子供のように情けなかった。

「だめだこりゃ……」
俺の脳内を、エミさんの高笑いと共に、久々にドリフターズのコントのエンディング曲が駆け巡っていた。

その後、会社の近くのクリーニング屋に寄った社長のスラックスは、車内で着替えたのか、色が違っていた。
粗相をした証拠として、調査報告書に刻まれた。

俺はメモ帳を取り出し、苦笑いと共に書き留める。
《俺の調査報告書には、股間のモザイクと粗相の記録。きっと探偵業界初の快挙だろう》

調査報告

その後三日間も、大差なく、食事と昼寝の毎日。
閉店までのパチンコ。女の影無し…
食べる場所と寝る場所が違うだけだった。
こんなに楽な調査も初めてだ。
俺とエミさんは、好きなものを好きなだけ食べて、社長の昼寝を撮り貯めた。

後日、俺は森田専務に報告書を提出した。
ページをめくるたび、専務の顔が、どんよりとした土色に変わっていく。

「……不倫はなかったんですか」
「はい。女性の影は一切ありません。ただ、実家と別宅と公園での合計睡眠時間は、週に20時間を超えていますね、酷すぎる…」

専務は、立ちションの証拠写真で固まった。
「はぁ……..。情けない……」
専務の深い溜息が、個室居酒屋の空気をどんよりと曇らせた。

不倫なら「背信行為」として解任の武器にできたが、「ただの怠慢」は100%の株を持つ二代目社長にとって、何の痛手にもならない。
役員たちの期待した「武器」は、いびきと尿意の記録に化けてしまった。

「株の配当金は仕方ない。だが…….。こんな奴に報酬を払う必要は無いだろう。これを持って、会長の奥様(大女将)に直訴します。マツさん、俺たちの調査は無駄じゃなかった」
専務の目に、微かな闘志が戻っていた。
暖簾(のれん)を守る男たちの戦いは、ここからが本番というわけだ。

事務所に戻り、俺はマンデリンの豆を挽いた。
社長が実家で見ていたのは、どんな夢だったんだろう。
誰もいなくなった家で、かつての「ぼっちゃん」に戻って貪る眠りは、そんなに心地いいもんだったのかい?

俺は冷めたコーヒーを飲み干し、メモ帳に最後の一行を記した。

《探偵メモ:不倫は家庭を壊すが、無能な潔白は会社を腐らせる。ボンボン社長のモザイクは、彼の股間だけではなく、仕事への『情熱』をもボカシていたらしい》

「……さて、次行ってみよう!」(いかりや長介のだみ声で)

観測史上最高の日本記録を更新した、真夏の群馬県。
高崎の街には、今日も誰にも止められない、うだるような「熱気」が吹き荒れていた。

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