雪原に点P___マスクドnote早時期賞・副賞みほん 本田すのう様
雪原に点P
色の三原色は、重なり合うと黒になる。
光の三原色は、重なり合うと白になる。
人の感情は、どうやら光の方らしい。俺の苛立ちも快感も尊大も寂しさも全部重なり合い、「あぁ」という音と、白い色付きの呼気になった。
30分前、俺は数学の再テストを終えて教室を飛び出したはず。29分30秒前、俺は学校の玄関で最早グレーな白い上履きを脱いだはず。それを案外几帳面な性格を反映した丁寧なやり方で下駄箱に仕舞ったはず。そして、無性に走り出したくなって、その気持ちのとおりにしたはずだ。出入口傍の非常ベル。それが赤い線に見えるくらいの速さで、走り出したはずだ。
田んぼの他にはカカシしかない道を走り抜けた。稲が既に青くなく、黄色くなっていることにすら苛立ちながら、手と足を動かしていたら、大雪原にいた。
この町に、雪なんて降らない。降ったところで、せいぜい粉雪程度のものだ。小学生の頃に1度だけ積もって、手乗り雪だるまを作った。
あるはずのない大雪原を目の当たりにし、俺は、来るはずのないところに来てしまった、と悟った。目の前に足跡は一つもなく、後ろを振り返れば俺の足跡が点線のように続いている。ずっと先、NTTの鉄塔が見える。あの真下に、学校がある。その周りの家々も見える。外壁が全部うるさい青色の、廣澤の家も見える。住む町が見える。その事実にひどく安心した。そしてそういう自分に、ひどく苛立った。
俺以外に色のない空間で、「あぁ」と息を漏らしたら、それは白い息になって漂う。俺の身体から出たものが、俺を先導するように漂っては消える。は? と思う。
さっき解いた数学の問題を思い出した。点Pの軌跡を求めるやつ。
点P、お前は誰だ。どこに住んでて、何を目指してる。使ってるスマホのキャリアはやっぱりドコモか? こんな山しかないところで、ドコモ以外を使うのは勇者すぎるもんな。
俺は点Pのことを知らない。スマホのキャリアを推測するくらいしかできない。それなのにみんな、知った顔で点Pの軌跡を決める。点Pよ、お前は悔しくないのか。どこぞの誰かに軌跡を決められ、決められた割に最後まで軌跡を描いてはもらえず。
もうずいぶんと歩いたのに、俺のスニーカーは不思議と濡れない。振り返る。やっぱり、ずっと町のほうまで、俺の足跡の点線は続いている。真っ白い空間で引き続き点線を描き、ザクザクと歩みを進めれば、やはり白い息が漏れる。点俺の軌跡を求めよ、いや、求めるな。俺の行く先を、勝手に求めた式に当てはめるなよ。
俺は、首が折れそうなくらいに顔を上に向けた。そして、濁点つきの真っ白な「あ」を、腹の底から叫んだ。白い息がゆっくりと、顔の上を漂って、風に乗って斜めに流れる。X軸とY軸しかないこの雪原の上、俺はZ軸を引き、点Pの軌跡を捻じ曲げた。
腹の底から沸き上がる「あ」は連なって「あはは」になり、止まることなく笑いとなって飛び出し続ける。空に映える白い息は、頼りなげな軌跡を描く。いや、この風に吹かれてすぐ消えるぐにゃぐにゃの白い線を、軌跡だなんて呼ぶ奴は、ばかだ。俺はますます愉快になって、ただ息を吐き続けた。
体が冷え、息は少しずつ白さを失っていく。体を動かして、腹の底から温まろう。そう思って俺は、ぐるりとあたりを見回して、確かに明後日の方向へと走り出した。
はい!
マスクドnote企画・早時期賞(私の記事を当てた方に授与)の副賞は
・感想記事
・あなたの記事からインスピレーションを得た掌編
・あなたをゆめかわいい男子にした掌編
のいずれかを選んで頂きます。
私の体力の限界を考え、副賞は【抽選で3名】とさせていただきます。その分気合い入れて書きますゆえ……。
が、まずは偉大なるゲームマスター本田すのうさんに感謝の気持ちを込めて、すのうさんをゆめかわ男子化して1本書かせて頂きました。
すのうさんの名前と疾走感、そして誰も追いつけない所まで行っちゃいそうな感じを、ヒリヒリした男子として表現してみました。ゆ、ゆめかわ……? や、私にとってはかわいいの!!
すのうさん、楽しくしかもめちゃくちゃ大変そうな企画をありがとうございます!
そのパワフルさで、まっさらの雪原に力強い足跡を残していってください。
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もっといい小説を書きます!