【あなたに会えて幸せ】/第5章第22話「溶けた虚勢とアロマキャンドル」
動画をアップロードした後、
私はトモキを見つめて静かに切り出した。
「今日からここに住んでいい?」
驚くトモキ。
「ダメ?」
上目遣いで覗き込む私に、トモキは大慌てで手を振った。
「い、いや。もちろんオッケー。
だけど、パジャマくらいは持ってきた?」
「パジャマ、下着、歯ブラシ、マグカップ」
「あ、なら大丈夫か。いきなりだから驚いた。
あとはどうするの?」
「大家さんには、1カ月後に退去すると、伝えたわ。
冷蔵庫・ベッドなどの大きなものは、粗大ゴミ。
パソコンとIHクッキングヒーターとフライパンと食器は、持ってきていい?》
「うん、持っておいでよ。いつも、ふわとろオムレツを作ってるあのIHクッキングヒーターだもの」
「他、衣類や化粧道具。
週末にお父さんに運んでもらうね」
「わかった。ようこそ❗ 奥さま💓」
「よろしくお願いします。旦那さま💓」
トモキは、大家さんに入居者1名追加を報告した。
私は、トモキの膝に乗って、思い切り甘えた。
「愛してるわ」
初めて言う言葉。
「僕も愛してる」
聴きたかった言葉。
視界が一瞬で滲み、大粒の涙がトモキの肩にぽろぽろと零れ落ちた。
養護学校を卒業して、自立しなきゃと一人暮らしを始めてから、誰の助けも借りるまいと、ずっと肩を張って、随分と尖って生きてきたなぁ。
トモキの腕の中は、そんな私の虚勢を優しく溶かしてくれる、世界で唯一の聖域だった。
「ね、新しい手話を覚えてくれる?」
「うん、教えて!」
「右手を握って、手の甲が上ね。
左手で、右手を【いい子、いい子】。
但し、空中に浮かせて」
「こう?」
「そうそう! 上手い🎵
長いけど、見て」
私たちにしては、今までで一番長い手話。
自分を指差し、
相手に手のひらを差し出し、
右手の握り拳を空中で【いい子、いい子】、
相手に手のひらを差し出し、
両手の人差し指を立てて、軽く曲げ、合わせ、
アゴヒゲを2回撫でる。
「ありがと。良くわかるよ。嬉しいな」
私たちは向かい合って、手話で伝えた。
-- 私は、あなたを愛してる。
-- あなたに会えて幸せ。
私たちは、抱き合った。
「狭いけど、ベッドで寝る?」
「ウン🎵 お風呂入って寝よう❗」
私がトモキの膝に乗ったまま、車椅子は浴室へと向かった。
浴室には、トモキが一人暮らしの時から工夫してきた「高床式」の動線が用意されていた。
浴槽のフチの高さが、車椅子の座面とちょうど同じフラットになるよう設計されたお風呂だ。これがあれば、大きな機械なんか使わなくたって、自分たちの力だけで浴槽に入れる。
トモキが先に、私が次に。
ひとりずつ入る。
という段取り。
「あ!」
「あ?」
「今さらなんだけど、、、」
「どした?」
「今さらなんだけど、こんな明るい所で、
裸を見せ合うのが、恥ずかしいの、、、」
「あ、そうかそうか。実は俺も、、、」
「トモキも?」
「ちょっと待ってていただけますか?
奥さま」
「はい、だんなさま💓」
5分くらい経って、トモキはアロマ・キャンドルを2つ持って帰ってきた。
浴室の照明を消すと、ユラユラ揺れるキャンドルが、仄かな明るさで私たちを包んだ。
アロマの香りが、気持ちを落ち着かせてくれた。
「素敵ねぇ、、、」
私たちは、ゆっくり服を脱いだ。
第23話に続く
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