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The Dance of Eternity (16)

生物体と遺伝子、組織と個人、個人とアイデアの並行関係

生物進化の研究と、そこから得られる洞察をイノベーティブな組織マネジメントに応用しようとするとき、生物の個体と遺伝子の関係を組織とメンバーの関係に置き換えてアナロジカルに類推することができます。もう一つ重要なアナロジーは「個人とそのアイデア」の関係です。ここでは、この後者の視点をもう少し深く掘り下げてみましょう。

「個体と遺伝子」「組織とメンバー」「個人とアイデア」の包含関係

生物が遺伝的な多様性を獲得し、環境に適応した形質が自然選択によって生き残るのと同様に、組織の構成員もまた多様性を持ち、適応できる者が生き残るというアナロジーが可能です。さらに個人のアイデアが多様であればその中から環境に最も適応したアイデアが生き残るという構図です。前回投稿でも示した図はこのような多様性の獲得と、生き残る選択肢の淘汰というプロセスを示しています。

進化=多様性の発散と収束のプロセス

ヒトは他の種と違って「想像力」を持つ点で特異な存在です。個々のアイデアが発散と収束のサイクルを通じて絶えず置き換わる動的均衡を考えると、ただちに組織メンバーの入れ替えに飛びつく前に個人が絶えず新たなアイデアを生み出し、試し、磨き上げていく体制を整えることができないかを考えることができます。

組織のなかに多様なメンバーがいて、そのメンバーのそれぞれが多様なアイデアを持っている

組織の多様性をメンバーの多様性だけに求めるのではなく、各メンバーが必要に応じて、様々なアイデアを顕在化させたりしまい込んだりすることを通じて自在に多様性を制御できるなら、組織全体として環境変化に対して柔軟になれる可能性がでてきます。エピジェネティクスによる抑制というメタファーで組織=組織メンバーのレベルで考えると、もともと多様な組織構メンバーが、行動規範や組織ルールによって抑圧され、それぞれが持つ潜在的な多様性が環境適応に応じて表出・抑制されると理解できます。組織メンバーもまた本質的には多様なアイデアを内在しており、それを「引き出し」のように必要に応じて開け閉めすることで多様性を出し入れできると言えます。

アイデアのユニークさを追求するなら、普遍的な組織価値やドグマに合わせた「公の顔」ではなく、家庭環境、友人関係、育ちなどを通じて形成された価値観や感性といった「個の顔」に着目すべきです。アイデアがこの「個の顔」に根差しているときこそ、組織構成員の潜在的な多様性が本当の意味で表出し、結果として組織全体の多様性へとつながっていきます。

エピジェネティクスは「環境の要請に応じて多様性が受動的に形成される」のではなく、もともと存在している多様性を、表出に対する制約を緩めたり締めたりすることで制御する仕組みです。人材マネジメントの文脈で言えば、すぐに役立つとは限らないがユニークな人材を採用し育成する人事制度を意味します。競争環境が固定されていて、必要な組織能力が明確な場合や、効率的な日常業務に慣れきっている組織では、このようなマネジメントは簡単ではありませんが、まさにそれが安定化選択の働きなのです。

個人にとっても同様です。すぐには役に立たない活動に時間を使ったり、仕事に直結しない思考を巡らせたり、直接的な利益が見込めない利他的な人間関係を意図的に築くことで自分の中の潜在的多様性を育むことができるのだけど、ついついそれを怠ってしまう。先だって紹介したクレイトン・クリステンセンはその遺作『イノベーション・オブ・ライフ』で、イノベーションのジレンマと重ねて、個人の生活のなかで「大事にしなきゃ、いまのうちに関係を深めなきゃ、(昔けんかしちゃったけど)仲直りしておかなきゃ」と思う人間関係をついついほっぽらかしにしてしまって、手遅れになってから後悔する」ことを戒めています。

Connecting the Dots

話が逸れますが、2005年にスタンフォード大学の卒業式でスティーブ・ジョブズが行った「Stay Hungry, Stay Foolish」という有名なスピーチを思い出さずにはいられません。彼はその中で「Connecting the Dots(点をつなぐ)」という話をしました。過去の出来事や経験は、後から振り返って初めて意味を持つという内容で、大学を中退したあとカリグラフィー(書体デザイン)の講義に潜り込んだ経験が、後にMacintoshの美しいタイポグラフィに繋がったという体験を紹介しています。また、自分が創業したAppleの経営を追い出されたことでNeXTの設立やPixarへの関与に繋がり、それが後にAppleへの復帰と、その後の飛躍に繋がったという体験の話もしています。彼のメッセージは、「未来に向かって点をつなぐことはできないが、過去を振り返ると、その時点では無関係に見えた点のつらなりが意味を持つ」というものでした。


Planned Happenstance(計画的偶発性)

スタンフォード大学のJ.D.クランボルツとカリフォルニア州立大学のA.S.レヴィンが提唱した「Planned Happenstance Theory(計画的偶発性理論)」もあります。これは一見無関係で無作為なできごとを意図的にたくさん作り出し、それを後づけで活かして新たな機会を紡ぎだそうという考え方です。彼らは、その実践のために、好奇心を育てること、継続的な学び、リスクを取る姿勢、失敗を受け入れる勇気を持つことを推奨しています。これらの要素があってこそ、予期しない出来事を有意義なチャンスへと変換することができるのです。

一見すると行き当たりばったりに見えるアプローチながらジョブズのスピーチと重ねると、そもそも「点(経験)」が十分になければ「絵(未来)」は描けない、という視点が浮かび上がります。もしこの文章を読んでいるみなさんが過剰に緻密な計画立案とそれへの固執しがちな傾向を持っていると自覚するならこの理論に触れることに大きな意味があります。

正直に言うと、僕も大企業の勤務時代「結婚→海外留学→昇進」といったステレオタイプのキャリアパスに沿って計画を立ててそれを実践したがっていた時期がありました。でもスタートアップの世界に飛び込んだあとは想定外のできごとや困難の連続で、何度も打ちのめされて泣きを入れたものですが、いま振り返れってみれば、あの出会いや経験がなければ、今の自分はなかったと確信しています。

ブリコラージュ(Bricolage)

フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースが提唱した「ブリコラージュ」にも触れておきましょう。ブリコラージュとは、手元にある材料や道具を組み合わせて新しいものを創造したり、問題を解決したりする創造的な行為を指します。「役に立たないものを無作為に集める」こと自体が目的なわけではないものの、後になって役立つ「豊かな材料のストック」を得るためには、当初は目的がはっきりしないものを集めることも必要であるという含意があります。

すぐには役に立ちそうもない経験、スキル、アイデアを積み上げていくことは簡単なことではありませんが、それこそ未来の創造に不可欠な「素材」なのです。

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