【誕生日と最後の支援】
どうも、ねずみです。
ケアマネジャーをしています。
ちょっと…思うところがあったので、久しぶりに書いてみます。久しぶりのくせにむちゃくちゃ不平不満を書いております。
でも最後はフッと笑えるようにしますので、読んでもらえれば嬉しいです。
つい先日、会社で後輩が誕生日だったことを思い出して、会社の自販機でジュースを買って「今日、誕生日やったなぁ?ほら、1番高いジュースやで。」と渡しました。
後輩は、ジュース一本でそんな喜ばれるって…僕普段どんな接し方してんねん…ってなるくらい、満面の笑みで喜んでくれました。
ほんのささやかなことですが、やりとりが嬉しかったです。
その数日後、僕の担当していた利用者さんに急変があり、ご家族への連絡や、救急搬送の手配で、朝からバタバタでした。
90歳超えてもスマホで株のチェックをして、
「今日はいくら儲かった、最近のトランプさんは…」
など、刺激的なお話をしてくれる方でした。仮にカブさんとします。
前日にはカブさんに、スマホの操作方法を教えたり、次の往診で相談する内容を一緒に考えていたのに…。
救急隊が到着しましたが、残念ながらカブさんは息を引き取られてしまいました。
主治医がすぐに来れないということで、現場に来た警察の担当医が検死を行うことになりました。
施設で急変があった時は、事件性がないか警察が調査に来ます。もちろんやましいことはないですが、それなりに気を張っていました。
まだ実感がわかないまま、到着されたカブさんの息子さんたちと話していると、長男さんが
「僕ね、今日誕生日なんですよ。誕生日に亡くなるなんてねぇ…」
とぽつり。
嘘みたいですが、前日が僕の誕生日で、
「実は僕、昨日が誕生日で…。なんかすごいタイミングですね」
と話しました。
長男さんは
「お父さん、ねずみさんのこと1番好きやったからなぁ。なんかそういう巡り合わせなんかな。」
と話してくれました。
事務所に戻り、施設長が休みだったので、副施設長と今後の流れについて打ち合わせをしている中で
「息子さん、今日誕生日だったんですって」
「その流れで、僕、昨日誕生日だったって話になりました」
と話すと、副施設長が《ハッピーバースデー》を歌い始めました。その場にいた職員さん2人(僕の大好きな相談員のおばちゃんと、最近異動してきた元管理者さん)もつられて歌い始めます。
うちの施設では、誕生日の職員や利用者さんに、ハッピーバースデーを歌うのが恒例なんですが、正直カブさんの検死中、このタイミングで歌われるとは思わず、
「あかんあかん、今じゃないです」
と、苦笑いとジェスチャーで止めました。
小声で歌を続ける中、副施設長が
「写真を撮りましょう」
と言い出します。
これまた施設の慣例で、職員の誕生日の写真を撮ってホームページに載せるんですが…その時ばかりは
「勘弁してください」
と、断わりました。ほんとそんな気分じゃなかったので。担当利用者が亡くなってるのに、どんな顔して写真に写れと?
でも副施設長は
「撮りましょうよ〜」
と食い下がってきます。最近社内でホームページに力を入れてるので、どうしてもネタが欲しかったんだと思います。
僕は、自分から誕生日だと言ってしまったし、他の職員さんが好意で祝ってくれてることもあって、「んー、じゃあ、撮りましょうか…。」
と言いかけたタイミングで、警察の方が事務所に来られたので、しれっとその場を離れました。
カブさんの検死が終わり、死亡診断が出たあと、家族さんから声をかけられました。
「ねずみさん、お父さん亡くなった時、服ちゃんと着れてなくてね…葬儀屋さんが来るまでに僕らで着させてやりたいんやけど慣れてなくて。手伝ってもらえる職員さん、誰かおらんかな?」
「あと、葬儀屋さん、今日は来れるかどうかわからんくて…。葬儀屋さん来るまで、父を部屋におらせてもらっても大丈夫かな?」
と。
僕の感覚では、もちろんどちらも「大丈夫です」と即答できることでしたが、施設の確認も必要だと思い、一度事務所に戻って副施設長に確認しました。
返ってきた言葉は――
「服を着てもらうことはできません」
「部屋にいてもらうのは構いません」
でした。
想定外の回答に戸惑いながら、
「服を着させてもらえない理由はなんですか?」
と尋ねると、
「そこに割ける人員は1人もいませんので」
と言われました。
言葉を失いました。
検死も終わり、もうご遺体に触れてはいけないタイミングではない。なのに…服を着てもらう時間すら取れない?
さらに、
「では僕が行くなら問題ないわけですね?」
と尋ねると、
「それなら全然構いません」
と。
――何を言ってるのか??ほんとにわかりませんでした。
文字通り、話にならない。そう思い、無言でご家族の元に戻り、
「よければ僕が着替え、お手伝いさせてもらってもいいですか?」
とお伝えしました。
ご家族と一緒にお体を整える援助をしました。カブさんの身体は、とても冷たくて。
申し訳なかった。やりきれない思いでいっぱいでした。
職員が足りないから着替えを手伝えない?
そんな理不尽な理由があるか。
もしそれが理由なら、職員が業務で手一杯なら、副施設長自身が行けばいい。
たった10分程。その10分間より大事な仕事なんてねぇよ。
死んだらもう利用者じゃない?
金を払わない人だから手をかけない?
そんな考えなら、人の上に立つな。
そんな姿、言動を職員に見せるな。
最後まで、利用者を支えるために、僕たちはいるんじゃないのか。
カブさん自身が、ここを選んでくれたんじゃないのか。
最後まで、
その想いに応えようとは、
思わんのか!
最後の支援ができたことは、介護士として幸せでした。
カブさん、僕はあなたのことが大好きでした。頑固で、だんだん足が弱ってきて、リハビリを進めても、
「いやいらん。歩行器だけレンタルさせてくれ」
と、自分の足で歩いていたカブさん。
支援者としては、困りました。
息子さんたちも
「お父さんは言うたら聞かんからなぁ。」
と一緒によく困りました。
でも、あなたはあなたの生き方を自分で選んでいた。誰に流されることもなく。
格好良かったです。
ほんとにありがとうございました。
葬儀屋さんが来て、ご家族と一緒にカブさんを見送りました。
その列に副施設長がいることに、違和感が拭えませんでした。
事務所に戻ると、副施設長が
「あ、ねずみさん、誕生日の写真撮りましょうよ」
と再び言ってきました。
…まっすぐ目を見て、
「マジで要りません」
とだけ伝えました。
本当に理解できないですし、心の底から、祝ってもらいたくありませんでした。
その後タバコを吸ってると1人の職員が来て、
「目、すごい怖いですよ…。副施設長の対応ですよね」
「ありえないと思います。今までここで生活してくれたカブさんなのに。家族さんの最後のお願いを、あんな簡単に断るなんて…」
その言葉に少し救われました。
誕生日のエピソードを冗談交じりで話せるくらいに、少し気持ちが落ち着きました。
その職員さんが
「サプライズでまたねずみさん祝おうかな〜」
なんて冗談を言ってきて、
「空気読めよ!ブチ切れるぞ!」
って笑いながら返せました。
再び事務所に戻ると、相談員のおばちゃんが小さな声で《ハッピーバースデー》の続きを歌ってくれました。
「ありがとう。」笑って答えられました。
副施設長の対応に違和感を覚えたのは、僕だけじゃなかった。続々と、他の職員さんたちも「違和感があった」と声をかけてくれました。僕の感覚は、おかしくなかった。そう思えて、ほっとしました。
本来なら、副施設長に自分の意見を伝えて、今後に繋げるべきなんでしょう。
ただ、必要なことだけを伝えられる自信がありませんでした。
今までの副施設長の立ち振る舞いから、話を聞いてくれると思えなかったのもあります。
心の中で一定の距離を置く事にしました。
諸々が落ち着いて、朝できなかった仕事をこなしていると、先日誕生日にジュースを奢った後輩が、夜勤で出勤してきました。
事務所のドアからチラチラこちらを見てるから「なんや?俺今忙しいぞ!」と声をかけたら…
《ハッピーバースデー》を歌いながら、僕があげたのと同じジュースを差し出してきました。
力が抜けました。笑いながら、
「お前なぁ…ほんまに空気読めよ。ブチ切れるぞ!」
と言うと、
「えっ、えっ、ぼく何かしました…? は、ハッピーバースデー…。」
と、困った顔をしていました。
僕は
「また気が向いたら説明したる。その時まで、副施設長みたいになるなよ。」
「ありがとうな。」
そう答えて、まだバリバリ仕事を始めました。
口元には、笑みを浮かべながら、ね。
おしまい
