【完成体】アンドロギュヌス
どこかにある、小さな国でのお話。
アニタは翼の調子が悪くて主治医を訪ねていた。
『また酷使してますね?』
『やっぱり、それが原因ですか』
『腱が傷んでいるし、羽根も所々抜けている。このままでは数週間の安静が必要になりますよ?』
『それは困ります。先生、助けてください』
『君のことだから、会合に遅れそうになって力を振り切っているのでしょう』
『...はい、つい夢想に耽ってしまって、気づくといつも時間なんです』
『ひとまず、薬を出しておきます。決して無理はしないように』
次はどうなるか分かりませんよ?と釘をさし、医師は厳しいが温かい眼差しでアニタを見送った。
最近のアニタは、いつもにも増してぼんやりしていた。
常に何かを思い、心ここに在らず、気もそぞろ、といった状態。
彼女自身もなぜなのか分かっていなかった。
クリニックからの帰り道でもそうだった。
つい、ぼーっと考えごとに夢中になって、『あっ!』と思った時はもう遅かった。
曲がり角で誰かとぶつかってしまったのだ。
その瞬間、その相手はアニタの腕を掴み、バランスを崩して落下しそうな彼女を助けてくれた。
その掴まれた腕を中心に、体の隅々までカッと火照っていくのを感じたアニタ。
訳もなく涙が出そうな感覚に戸惑いながらも、その青年にお詫びとお礼の言葉を伝えようとするが、言葉が出ない。
ただ潤んだ瞳で見つめるだけのアニタを優しく微笑んで見守ってくれる青年。
それが、アントンとの出会いだった。
『きっと、これだったんだわ』
アニタがつぶやく。
噂には聞いていた“運命の日”。
『この痛みは、お医者様でも治せないわ』
アニタはキュッと痛む胸を押さえながら決心した。
その夜、輝くヴィーナスの光に照らされながら、アニタはアントンの家にやって来た。
アントンの寝室は2階のようだ。
アニタは窓から覗き、アントンが寝ている姿を確認すると部屋に入った。
物音に気づいて目を覚まし、体を起こしたアントンは驚いた様子だが、
特に何を言うでもなく、アニタを見つめていた。
その目には確かに、覚悟と決心が宿っていた。
そのままアントンに覆い被さるアニタを受け止め、2人は文字通り“溶け合う”。
体液や溶液を混ぜ合い、“第二進化”工程は進む。
たまにどちらともなく、うめき声を上げてしがみつく。
完全に溶け合った2人は、ひとつになった。
立派な“完成体”アンドロギュヌスになったのだ。
また一歩、大人への階段を昇った第二形態は夜空に羽ばたいた。
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