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マルタの迷える旅人(フランス恋物語87)

Sightseeing

10月17日。

2週間のマルタ留学も中盤に入った土曜日。

この日は、学校主催のツアーに参加することになっていた。


朝9時前に、私たちを乗せたバスは学校を出発した。

参加者は、クララカオリさんルームメイトのヨハン、学校内の生徒であるヨーロピアン3人、そして引率の女性ガイドが一人付いていた。

今日は観光にふさわしい晴天で、これからどんな一日になるのか、私はワクワクしていた。

Blue Grotto

一番初めに連れて来られたのは、マルタ島南部にある青の洞門(ブルーグロット)だった。

洞門とは、長年の風と波の浸食によってできた、海の洞穴のことだ。

小舟は9人乗りで、ツアーグループ全員で乗った。

ライフジャケット着用なので、万が一海に落ちても溺れることはないだろう。

「今から25分くらいかけて洞窟の中を巡ります。朝の光が差し込むと美しい、今頃の時間が見頃ですよ。」とガイドが説明した。


私はイタリアのカプリ島に行ったこと思い出した。

「大学生の時、”青の洞窟”を見に行ったけど、天候不良で見られなかったんだよね。

今日のは確実に見られるから嬉しい。」

すると、「青の洞窟に行ったことがある」というクララが反応した。

「青の洞窟、私は見たわよ。

どっちが綺麗だったか、後で言うわね。」


私たちを乗せた舟は、ゆっくりと洞窟内に入って行った。

不思議なのは、外にいた時の海の色はの濃い青だったのに、洞窟内では光の加減で明るい水色に変わったことだ。

”青の洞窟”経験者のクララが言う。

「青の洞窟は、入るまでにボートの上で1時間以上待たされたけど、こっちはすぐに行けるからいいわね。」

現実的なコメントにみんなで笑った。

舟はいくつもの洞窟を周っていき、洞窟によって、青、蒼、水色、エメラルドグリーンと様々な海の色に変化して、本当に不思議だった。


洞門巡りを終えてクララに、今日巡った青の洞門と、カプリ島の青の洞窟、どちらがいいか尋ねてみた。

「そうね・・・。

どちらが美しいかは比較できないけど、こっちの方が楽だし、一度に色んな海の色を楽しめるからお得だと思うわ。」

私は彼女のアドバイスを聞いて、「もう青の洞窟は見に行かなくてもいいかな」という気になれた。

Valletta

次に訪れたのは、世界遺産の街ヴァレッタ

【Valletta】(ヴァレッタ)
オスマン帝国を打ち破った聖ヨハネ騎士団により、1571年に造られた城塞都市。
当時のマルタ騎士団長であり、町の完成につくしたジャン・パリゾ・ド・ラ・ヴァレットから名前が付けられた。
かつて歴代の騎士団長が利用し現在大統領府となっている騎士団長の宮殿や、床に騎士たちの墓標が刻まれている聖ヨハネ大聖堂、1552年に建てられた歴史の古い聖エルモ砦など、マルタの歴史を静かに伝える建造物が多く残されている。
1980年、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された。

ヴァレッタのレストランでランチを食べた後、午後の観光がスタートした。

レストランの近くにあった騎士団長の宮殿は、「今日は政府の関係で入場できない」と言われ、外観を見るだけだった。


次に訪れたのは、聖ヨハネ大聖堂だった。

ここは、1577年に騎士団がキリストの授洗礼者聖ヨハネを称えるために建てた大聖堂だという。

当時のヨハネ騎士団の富と権力は強大なものであったことから、内部は、金の装飾、大理石の柱、ラピスラズリを埋め込んだ床など豪華絢爛そのものだ。

天井画が細かく描かれており、ここだけ見ると、大聖堂というより宮殿のようだと思った。


階段のある坂道を降りて次に来たのが、海岸沿いの公園・アッパーバラッカガーデン

17世紀半ば、マルタ騎士団員だったバルビアニ(イタリア人)が造り、19世紀のフランス占領を機に一般開放されるようになったという。

この公園からはグランドハーバー、スリーシティーズ(ヴィットリオサ、サングレア、コスピクア)、造船所などが一望できた。

また、500年の歴史があるという大砲は現在も現役で、「毎日正午と16時に空砲が鳴らされる」とガイドから聞いて驚いた。


ガイドから自由時間と言われたので、私たち4人はメインストリートのリパブリック通りの階段を登った。

この通りの両側に建つ建物は蜂蜜色の石材”マルタストーン”で統一されているが、それに各住居が思い思いに配色した”ガラリア”と呼ばれる出窓が映えて、とても可愛らしい。

坂を登り切った所から海を見下ろした景色はとても美しく、私がヴァレッタの中で一番感動した瞬間だった。

Mdina

ヴァレッタ観光の後に向かったのは、イムディーナだ

イムディーナの玄関口であるメインゲートが、テーマパークに出てきそうな遺跡っぽい門みたいで、異世界への入口に感じた

【Mdina】(イムディーナ)
アラブ時代に造られた、城壁に囲まれた静かな街。
ヴァレッタが都に移る前、かつてはマルタの都だった
金で造られた彫像や聖パウロの人生が描かれた壁画が残っているイムディーナ大聖堂や、聖アガタ教会サンタソフィア邸など、中世の建造物を多く見ることができる。

聖パウロ大聖堂に入ったが、さっき行ったヴァレッタの聖ヨハネ大聖堂がすごすぎて、罰当たりなことに物足りなく思ってしまった・・・。


それよりも、次に行った巨大墓地”カタコンベ”の方が珍しくて興味深い。


ツアーでは、「聖パウロのカタコンベ」「聖アガタのカタコンベ」の2ケ所を回った。

「地下の迷路を歩いてると、ゲームの世界に迷い込んだようだね。」とヨハンが言った。

Dinner

ディナーは、テラス席からイムディーナの景色が見渡せるフォンタネッラで食べることになった。

だんだんと薄暗くなっていく街並みはとても美しくて、この絶景を眺めながら食事ができるのはとても贅沢な気分だ。

私たち4人は、サラダやピザ、ラザニアなどをみんなでシェアして食べた。

また、ここは”マルタで一番チョコレートケーキが美味しい”ということで有名なのだが、甘い物がそんなに好きではない私とカオリさんは二人で半分こすることにした。

「このチョコレートケーキ、めちゃくちゃ大きいし、しかも甘いですよね。

やっぱり半分こにして良かった。」

「そうだよね。

でも、ヨハンとクララは普通に一人分美味しそうに食べてるから不思議だよね。」

逆に、このヨーロピアン二人は、私たち二人の小食ぶり(!?)に驚いているようだった。

The silent city

のんびりとした食事が終わると、ガイドが言った。

「ここのイムディーナは『静寂の街』と呼ばれていて、特に夜の美しさが評判なの。

今から出発しますが、迷子にならないように気を付けてね。」


明るい時間帯のイムディーナも良かったが、夜はグッっと神秘さが増して情緒たっぷりだ。

立派な造りの城郭都市なのに、おとぎ話のように何かが起こって住民が急にいなくなってしまった街・・・私はそんな印象を受けた。

「すごい、映画のセットみたい!!」

「昼も夜も両方見られて良かったね。」

みんなのはしゃぐ声が聞こえる。


・・・写真を撮るのに夢中になっていると、ツアーのメンバーとはぐれてしまったことに気が付いた。

『静寂の街』だけあって、視界の中には本当に誰もいない。

今いる細い路地裏は、ところどころに点る灯りだけが頼りで、ホラー映画に出てきそうな鎧を着た騎士が、いきなり現れてもおかしくない雰囲気だ。

どうしよう・・・すごく怖い。

不安な気持ちで駆け出したら、こちらに向かってくる人影が見えた。


・・・ヨハンだ!!

思わずヨハンに抱きつくと、彼は私を安心させるように背中を撫でてくれる。

「レイコ、心配したよ。

でも、すぐに見つかって良かった。」

この時のヨハンは、10歳年下なのも忘れるくらい、すごく頼もしく思えた。

「心配かけてごめんなさい。」

彼は明るく言った。

「気にしないで。ちゃんと見てなかった僕たちも悪いんだから。

さ、行こう。みんな待ってるよ。」

ヨハンはごく自然に、私の手を取って歩き出した。

これは、辺りが真っ暗なのと迷子防止のためであって・・・それ以上の意味がないことくらいわかっている。

それでも私は、ヨハンの手の温もりを感じられて嬉しかった。

Kaori

帰りのバスは、カオリさんと隣の席になった。

カオリさんは私より一回り上の42歳だが、もっと若く見えたし、心から人生を楽しんでいる感じが何より魅力的だった。

彼女の部屋はちょうど私の部屋の真上のシングルルームで、何度か遊びに行かせてもらった仲だ。

二人とも”バツイチ・子ナシ”という境遇で、そんな共通点も仲間意識を芽生えさせていた。


このバスには私たち以外日本人はいないので、日本語で恋バナをした。

「私は今東京に同棲中の彼氏を置いてきてるんだけど、レイコちゃんは彼氏いないの?」

彼氏か・・・!?

「一応最後の彼氏は8月まで付き合っていたフランス人かな。

その後もちょこちょことあったと言えばあったけど・・・。」

カオリさんは興味津々に聞いてきた。

「レイコちゃん美人だからモテそうだもんね。

ところで、今は好きな人はいないの!?」

好きな人・・・。

一瞬、ヨハンの顔が浮かんだが、私はそれを打ち消した。

「今はいないですよ。

ほら、あと2週間で私帰国だし。

日本に帰って落ち着いたらゆっくり探します。」

カオリさんは拍子抜けしたように言った。

「そうなの?

じゃ、また新しい恋バナができたら報告してね。

私も11月末には帰国するし、東京戻ったらまた会いましょう。」

カオリさんとなら気が合いそうだし、ずっと仲良くしたいと思った。

「是非是非!!マルタを発つ前に連絡先交換しましょうね。」

私たちは約束をした。

in our room

その夜、バスルームから出ると、リビングのソファでうたた寝しているヨハンがいた。

「ヨハン・・・。今日のツアーで疲れちゃったんだな。」

その寝顔に目をやると、彼の長い睫毛が頬に影を落としてとても綺麗だった。

思わず頬に触れたくなったが、その衝動をそっと抑えた。


ベッドに入って寝ようとすると、イムディーナで、ヨハンと手を繋いだ感触が蘇った。

やっぱり、私は彼に惹かれつつあるのだろうか。

マルタにいるのは残り1週間。

平和にこの留学生活を終わらせるためにも、彼への感情が気のせいであることを私は祈った。


しかしこの数日後、「彼のことが好き」だということに気付く出来事が起きてしまうのである・・・。


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