アクロポリスの夕焼け(フランス恋物語63)
Ellinikí Dimokratía
8月下旬のある日。
私はニコラと共に、ギリシャのアテネにいた。
前日の夕方にはパリからアテネに入り、ニコラが予約してくれたKing George, a Luxury Collection Hotelというホテルにチェックインした。
このホテルは、アテネの中心部であるシンタグマ広場の近くに位置し、アテネ市内を観光するのに便利な立地にある。
7階のレストランのテラス席から、ライトアップされたアクロポリスを眺める昨夜のディナーは、格別だった。
お金には糸目を付けないニコラだけあって、彼が選んだホテルは利便性はもちろん、ラグジュアリーによる高揚感も、ロマンチックな演出もすべて満たしてくれる。
「この後行くサントリーニ島は、どんなホテルを予約してくれているんだろう?」
今まで知ることのなかった非日常を体験させてくれるニコラは、何でも叶えてくれるあしながおじさんのような存在だった。
その代わりに、私は彼の果てないオリエンタリズムや日本女性への渇望を満たしてあげている。
先日、ニコラは自らの偏執狂的嗜好を暴露し、私を驚かせた。
「ギリシャで、何かとんでもない要求をされないだろうか?」
私は恐れと楽しみが混ざった半々の気持ちで、この旅行を迎えていた。
Athína
ホテルで朝ご飯を食べて、朝9時頃に出発してアクロポリスを目指す。
ニコラは「タクシーで行こうよ。」と言ったが、私は、「街並みを見たいし、運動がてら歩こう。」と提案した。
朝だというのにアテネは暑く、路上では犬が日陰にへばって寝ている。
こんな風景を見ると、同じヨーロッパでも、パリとギリシャはまったく気候が違うとしみじみ思う。
しばらくすると、パルテノン神殿が見えてきた。
「朝イチだから、観光客そんなにいないよね。」
そう言っていたのに、遠くからでもたくさんの観光客がパルテノン神殿の階段を登っているのが見える。
「さすが、ギリシャが世界に誇るアクロポリスだね。」
ニコラが感心したようにつぶやいた。
Acropole d'Athènes
やがて、アテネ最大の観光名所・アクロポリスに到着した。
教科書などで見る度に「いつか行ってみたい」と憧れていたパルテノン神殿だったが、実際見てみると工事の足場だらけで少しガッカリした。
【Parthenon】
パルテノン神殿は現存しているギリシア古代建築では最高峰の技術を誇って建築された神殿の一つ。
ドーリア式の神殿は、合計46本の立派な円柱が支えており、その表面に施された装飾彫刻には完成までに15年もの歳月を要したといわれている。
パルテノン神殿はアテナ女神を祀った神殿で、微妙な曲線を描いている46本の柱は鑑賞者が下から見上げた時に均等に見えるよう綿密に計算された結果の造形で、柱一本一本も太さや間隔を変えて建てられてる。
「まぁ、ヨーロッパの建築物なんてたいていいつもどこか工事中だから仕方ないよね~。」
正直な感想を述べると、ニコラはこんな事を言った。
「こういう世界遺産はあまり真近で見るより、少し遠くから眺めるくらいがちょうどいいのかもしれないよ。」
「でも、せっかく行ったからにはちゃんと見たいよね。
見なきゃわからないし。」
私は好奇心の塊だから、何でもこの目で見ておきたいのだ。
アクロポリスの券は他の遺跡との共通券になってて、アクロポリスの見学が終わったら他の遺跡も回ってみることにした。
古代アゴラ(=ギリシャ語で市場という意味)や、ケラミコス遺跡を見学したが、だんだんどの遺跡も同じに見えてきた。
次は、趣を変えて遺跡以外の物を見ようということで、ミトロポレオス大聖堂に入った。
堂内は、ギリシャの教会独特の彩色がとても綺麗だった。
「同じキリスト教でも、フランスと違うデザインなんだね。」
私が言うと、ニコラは教えてくれた。
「同じキリスト教でも、カトリックとギリシャ正教は違うよ。」
それを聞いて、キリスト教にも色んな宗派があることをを思い出した。
暑さで体力を消耗した私は、「休憩がてら、そろそろランチを食べよう。」と提案した。
私たちは近くにあったレストランで、鰯のフライとチキンサラダを食べた。
ギリシャは魚介類と野菜が美味しいので、私はこの国がもっと好きになりそうだと思った。
Templum Iovis Olympii
ランチを終えると、更に南下して共通券が使えるゼウス神殿へ。
公園のようなところに15本のコリント式列柱が建っている姿は、圧巻としかいいようがない。
ゼウス神殿も形はパンテオンと似ていたが、パルテノン神殿のような工事の足場がなかったのでより自然な感じで見られて良かった。
敷地内には、古代ローマ時代の家屋や町並みを囲んでいた市壁、浴場などの遺跡や、柱頭装飾の一部も無造作に、ゴロゴロ転がった状態で転がっているのが面白かった。
Numismatic Museum of Athens
この日最後に向かったのは、旧シュリーマン邸を使った貨幣博物館。
トロイの発掘で有名なシュリーマンは子どもの時TVで知って以来興味を持っていた人なので、アテネの彼の家は絶対行きたかった。
コインそのものよりも、新古典主義とネオルネッサンス建築の影響を受け、内装はポンペイの建築を模倣したという建物に心を惹かれた。
アテネの街は近代的な建物で埋まっていてゴミゴミした印象だったので、とりわけこの建物はとても上品な印象を受けた。
Lycabettos hill
貨幣博物館を出ると、「ディナーに行こう」と、私とニコラはタクシーでリカヴィトスの丘に向かった。
リカヴィトスの丘はアテネ最高峰(標高273m)の高さを誇り、その頂上にある地中海料理レストラン「オリゾンテス・リカヴィトス」のテラス席からは、アテネ市全域、そしてエーゲ海までパノラマビューで楽しむことができる。
本来はケーブルカーで登っていくものなのだが、一日中歩き回って疲れた私たちはタクシーでショートカットした。
リカヴィトスの丘の頂上付近で降ろしてもらい、少し歩くと、アテネの景色を眼下に一望できる場所に出た。
丘のてっぺんには、ギリシャ独特のデザインの、こじんまりとして真っ白で可愛い聖ゲルギオス教会が見える。
教会の周りには展望台があり、たくさんの観光客がアテネの景色を眺めたり写真を撮ったりしていた。
丘のてっぺんで夕焼けの日に照らされながらはためくギリシャの旗が印象的で、もともと好きなあの旗をさらに好きになった。
Orizontes Lycavittous
「オリゾンテス・リカヴィトス」のロケーションは、やはり最高だ。
特に夕暮れ時の、夕陽がアテネの街をピンク色に染めていく景色は絶景で、これを見ながら飲むスパークリングワインの味はすごく美味しく感じた。
「Quel beau paysage !」(何て綺麗な景色でしょう)
私の感動の声に、ニコラは嬉しそうに頷く。
しかし、暗くなってくるとアクロポリス以外は日本の夜景とあまり違いが解らなくなってきた・・・。
「夕景は素晴らしかったけど、夜景はアクロポリス以外は日本と変わらないね。
六甲山みたい。」
ニコラが尋ねる。
「六甲山ってどこ?」
「大阪の近くの神戸という街にある山だよ。日本三大夜景の一つ。」
日本好きなニコラは興味津々だ。
「そうなんだ。
京都や大阪は行ったことあるけど、神戸はないな。
また、一緒に行って案内してくれるかい?」
私が「Bien sûr!」(もちろん)と言うと、ニコラは頬にキスをした。
スパークリングワインを飲んだ後は、ギリシャのブランデーMETAXA(メタクサ)を生まれて初めて飲んでみた。
メタクサは、ブランデーより味も香りも深く甘く、暑くて濃いギリシャの夜にピッタリのお酒だ。
料理は、ギリシャの名物料理ムサカ(挽肉とナスを重ねて焼いたもの)、カラマリア(イカのフライ)、タラモサラタ(魚の卵をペースト状にしたもの・パンに付けて食べる)を注文すると、どれも美味しかった。
やっぱりギリシャ料理は日本人の口に合うと思った。
向かいにいるニコラも美味しそうに食べている。
明日から行くサントリーニ島も、すごく楽しみだ。
Hotel
ホテルに戻ると休む間もなく、ニコラは私をベッドに押し倒した。
今日、暑い中あんなに歩き回ったのに、ニコラの”スポーツ”は相変わらず精力的だ。
いや、むしろ”旅”という非日常から、いつも以上に盛り上がっているのかもしれない。
私はニコラを喜ばせるため、今日残っている労力をすべてその行為に注ぎ込んだ。
終わった後、ニコラは私に最大の賛辞を贈った。
「レイコ、やっぱり君は最高だよ。
今まで色んな国の女性と"faire l'amour"をしてきたけど、レイコが一番いい。」
・・・私にとってニコラとの"faire l'amour"は、"スポーツ"と変わらない。
それで世界一と褒められるということは、オリンピック日本代表として金メダルを取ったような、そんな誇らしい気持ちになった。
「そういえば、ここギリシャはオリンピック発祥の国だったな・・・。」
終わった後の心地よい疲労が私を眠りへと誘う。
明日のサントリーニ島観光のためにもしっかり睡眠を取らないと・・・。
サントリーニ島の旅は、私を驚かせるハプニングが待っているのだった・・・。
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