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バイト中に遭遇した変な話

私はホラーが苦手で、そのきっかけになった話なのだけど、ホラーだと思って読むとそんなに怖くないと思う。


私はニンゲンが好きだったから、色んな人と会えるのが楽しくて、予定がない日は単発のバイトをよくやった。身体を動かすのが得意だし、人見知りもしなかったから、肉体労働とか声を出すような仕事も頻繁にした。

今回の主題になるバイトは、駅前でのチラシ配りだった。
企業を通したやつではなくて、先輩経由でOBがやってる店のチラシ配ってきて〜って頼まれた。交通費支給、500枚配れたら5000円。
ちょうど今ぐらい。8月のお盆前だった。

駅前ってことで人通りがあるから、配りやすい場所だった。当日は暑かったけど日陰で風もあるからそんなにきつくない。チラシは100枚1束で帯がかけられていて、ダンボールに入れていた。手元のチラシがなくなったらすぐ出せるよう、足元にダンボールを置いた。
30分しないくらいで100枚配り終わって、2束めの帯を切った。チラシはその後も良いペースで減っていった。

そして4束めの帯を切って少し経った頃、近くの店からきたっておじさんとおばさんに声を掛けられて、ここでチラシを配っていたか確認された。配っているのでもちろん頷く。

「この辺でチラシ配りの子が男につきまとわれてるってお客さんが言ってたんだけど、心当たりない?」

なさすぎる。

「かなり近い距離で後ろについてたっぽいんだけど、本当に気づかなかった?」

怖すぎる。

周りでチラシを配っていた女は私だけだった。
でも自分の真後ろに知らない男がいたら普通気づくじゃん。チラシを受け取る人もそっち見たりするじゃん。でも全く心当たりがなくって、恐怖より困惑した。
ふたりからは「配った相手の中に変な人とか、近くにずっといるなって人とかも居なかった?」って聞かれたけど、それもない。そもそもチラシを受け取った人の顔なんていちいち覚えてないし、近くにずっと居るような人もいなかった。
いつ頃の話か分かるか聞いたら、「話聞いたのは15分くらい前だけど、ここからウチの店までの距離考えたら30分くらい前じゃないかな」と言われた。

「あなたが移動する時もピッタリ後ろにくっついてたらしくて、さすがに怖くて声掛けられなかったって」

帰りてぇ〜。

チラシを配る時、ずっと同じ場所に立っているわけじゃない。駅から出てくる人の邪魔にならないように少し移動したり、人が途切れたら反対側に行ったり、自販機に飲み物を買いに行ったりする。その間もついてきていたって思うと、帰りたくなるのは当然で、自然の摂理なのだ。

男の特徴を聞いたけど、又聞きだし「暗い色の服を着た男」くらいしか分からなかった。周りを見渡したけど、そんなモブオタクみたいなセンスの男はいくらでもいた。

おばさんから「今日はもうチラシ配るのやめた方がいいんじゃない?」と言われたので、OBに連絡した。事情を話したら、「普通に怖いから帰ってきな」と言われて、まだ配ってないチラシが入ってるダンボールを閉じて、すぐ店に帰った。

ここまでなら、ただ変な男につきまとわれたかもしれない話で終わるんだが、続きがある。

店で残ったチラシの枚数を聞かれて、それ数えてメモしたら帰っていいって言われた。全部配れなかったけど5000円くれるって言うから、少しご機嫌だった。

4束目を開けてちょっと配ったところで声を掛けられたから、残りは200枚弱あるはず。バラのチラシを全て机に出してダンボールを覗いたら、まだ帯がかかっている最後の束の上に、四つ折りのチラシがあった。

私が配っていたヤツだ。印刷されてる側が表で、雑に折りたたまれている。こんなの入れた覚えはない。

折りたたまれているチラシを開いた。

「ずっと気づかないね」

義務教育ちゃんと終えたのか疑わしいくらい汚ったない字で、そう書かれていた。それが一番怖かった。

ダンボールは足元にあったのに、私に気づかれずにこんなキッショイお手紙を潜ませることなんて出来るんだろうか。無理くね。

半べそになりながらOBに手紙を見せに行った。そしたら、「これは初めてだなあ」と言われた。これはってなんだよとぶん殴りたいのを我慢して詳細を聞いたら、「前にチラシ配りしてた子が辞めたの、変な男がずっと見てくるからって理由だったんだよね」ってしみじみされた。

そういうことは最初に言うんだよ。

念の為ってことでOBがチラシの写真を撮影して、気持ち悪いからって現物は灰皿の上で燃やして、車で家まで送ってくれた。帰り道でマックシェイクも奢ってもらった。怖い思いさせちゃったお詫びらしい。良きにはからえ。

後ろにいた男が誰だったのかは分からない。キショいお手紙については、チラシを渡した誰かが悪ふざけで書いたのかもしれない。OBの店は映え意識のオシャレな喫茶店だったから、チラシを配らせたくない近隣の同業者のいやがらせの可能性もある。
全部人間がやったことだったとしても普通に怖いし、そうじゃなかった可能性については考えたくないので、そろそろ書くのをやめたくなってきた。

とにかく、なんも分からないということしか分からないまま今に至る。

それ以降、私は街頭に立つ仕事はやってない。

後ろに人が立つのもめちゃくちゃ苦手になった。

おれのうしろに音もたてずに立つようなまねをするな……おれはうしろに立たれるだけでも嫌なのでね……

ゴルゴ13

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