がんとアル中 第12話
転移とスリップ、そして荒地の魔女の憂鬱
夫の左肺2箇所に転移したがんを手術で切り取ることができるか否か
判断するまでの検査は国立がん研究センター中央病院で行い、今回は肺の一部を切除することでなんとかなりそうだということになった。
問題は呼吸器科の混雑具合。
混みすぎていて手術の目処が立たないなんてことあるんだ……病気の大変さって本当、色々。
そこで担当の先生の判断で、以前国立がん研究センターにいらっしゃったという呼吸器科の先生を紹介していただき、今回は別の病院に移って手術を行うことに決まった。
◆震える馬車馬
新しい病院には夫ひとりで通うこととなった。
手術となると、夫はそれなりの期間仕事を休むことになる。
私は可能な限りの仕事を引き受け、馬車馬としてフル稼働することで話が落ち着いたのだ。
一回やってみたかったんだよね、大黒柱ってやつ。
家族に対してはそう言って笑ったけどその実、手はブルブル震えてた。ちなみにこれはアルコールのせいじゃないよ。
3度目の転移でわたしたちは察したのです。
あ、これ続くやつだなって。
手術が無事に終わって落ち着いたからといって安心することはもう2度とない。これは一生続くものと思って生きていくのだと腹をくくった。
ようやく闘病生活の勘所をつかんだ感じね。何事も慣れって大事。いちいちショックを受けて大騒ぎしていては身が持たないことも思い知ったのです。
正直転移はものすごく怖いのだけれど、受け入れてしまえばその状況下で少しでも楽しく生きるしかないと謎のポジティブ成分が分泌されてハイになってくる。なんだろう、脳内麻薬みたいなものなんだろうか。

さて。
覚悟を決めた馬車馬は、来るもの拒まず仕事を引き受けまくった。明らかに納期が無理めなものも構わず受けた。
いかんせん、がんっていう病気は本当にびっくりするような勢いで生活防衛費を溶かす。とにかく稼げるうちに1円でも多く稼ぐのだ。
こだわりは捨てた。SNSのトンマナも捨てた。
タイムラインは案件投稿に染まった。
ハイ(肺)になった状態の私はとんでもなくタフで、疲れはほとんど感じなかった。
2年間絶っていたお酒もこの頃には解禁しており、たまにお酒を楽しむようにはなっていたのだけれど基本的には「飲まない生活」がスタンダードだったため体調は良く、仕事は捗った。
むしろその状態から休息モードへの切り替えが上手くいかず、次第に眠れないことに悩まされるようになった。
ある夜、どうしても眠れなくて寝酒を一杯。
よく眠れた。
翌日はもう一杯、そしてさらにお疲れさまの一杯。
かくして自分でも気付かないうちにわたしは再びアルコールの沼に向かってホップステップ爆走
眠るために飲んでいたはずのアルコールの役割は次第に「麻酔」としてのそれに変わった。
ざわつく気持ちを紛らわすため。
時おり噴出する不安な気持ちがもたらす、心臓を滅多刺しにするような痛みを感じなくさせるため。
そして、子どもたちの前で笑うため。
大義名分としてこれを引っ張り出したときが、私が終わるとき。
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